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【五島のかんころ餅】焼くことで味と香りがぐんと深まる、ほっとする味わいのさつま芋スイーツ(長崎県五島市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2023年2月号より)

「かんころ餅」はとう列島(以下、五島)に古くから伝わる郷土菓子。さつま芋を薄く切ってでて、寒風にさらして干したものを「かんころ」と呼ぶのだそう。これを湯で戻し、蒸したもち米と混ぜ合わせて、形を整えれば完成だ。

 江戸時代、五島藩の開拓移民政策により、九州本土の大村藩から3000人を超えるキリシタンが五島に渡った。彼らは旧来の集落から遠く離れた山の斜面や入江に根を下ろした。山の斜面は米作りには適さないが、さつま芋はよく育つ。ゆえにさつま芋を主食とし、保存の工夫からかんころ餅が生まれたとも伝わる。

五島には今も数多くの教会が残り、潜伏キリシタンの時代が偲ばれる。写真は高台に立つ水ノ浦教会と水之浦湾

「長崎五島ごと*」のかんころ餅は、「ごと芋」を使用している。さつま芋の品評会で日本一を獲得した五島のブランド芋だ。併設の「ごとカフェ」では、このかんころ餅を自分で焼いて味わえる。あつあつを口に運んでみると、やさしい甘みがふわっと広がり、ねっとり、もちもちの食感が楽しい。

*五島の食材を中心に生産・加工・販売を手掛ける会社

「長崎五島ごと」のかんころ餅。手前から時計回りにプレーン、むらさき芋入り、よもぎ入りの3種。「ごとカフェ」では、ごと芋のペースト入りのバターも付いてくる。かんころ餅との相性は抜群

「ごと芋は収穫後に40日ほど熟成させて濃厚な甘みを引き出すんです。うちのかんころ餅は、芋の味を生かすため、砂糖は極力控えています」。長崎五島ごとの広報・安達真美さんが教えてくれた。

[長崎五島ごと]安達真美さんは東京から移住したIターン組。「五島は食が豊かです!」
ごと芋は有機JAS認証を取得
かんころ餅3種

「軽く焼いて食べるのが一番」と断言するのは、とり餅店の3代目の眞鳥こうさん。「昭和29年、祖母が店をはじめた頃は、かんころ餅は家庭で作るもので、売り物にするなんて考えられなかったそうです」。一度にたくさん作って、ご近所に配ったり、正月に親戚が集まったら囲炉裏で焼いて食べたり。それが冬の定番だったという。

真鳥餅店のかんころ餅。もちもち食感で焼くと表面はカリッと仕上がる

「原材料はシンプルですが、芋はひとつひとつ微妙に味が違うので、色つやを見て甘みなどを判断し、長年の経験をもとに、もち米や砂糖の分量を変えて、先代から受け継いだ味に仕上げます」

[真鳥餅店]手間ひまかけて作った「かんころ」を湯で戻したら(上)、蒸したもち米と混ぜ合わせて砂糖で味を整える(下)
お試しサイズ1個90グラムの小(左・中)のほか1本290グラムの大(右)と190グラムの中がある

 シンプルだからこそ、一定の味を守るのは難しい。なぜか懐かしさが込み上げる幸せな味──そこには職人の技が潜んでいた。

真鳥餅店の頼もしい3代目、眞鳥浩次さん(左)とお母様の紅美子くみこさん

文=神田綾子 写真=阿部吉泰

ご当地INFORMATION
五島市のプロフィール
五島列島最大の福江島〈ふくえじま〉をはじめ、11の有人島と52の無人島から成り、雄大な自然を楽しめる。遣唐使船の寄港地、倭寇〈わこう〉の拠点になるなど、歴史的な学びも多く、美しい教会建築も見事。海の幸や五島うどん、五島牛などご当地グルメも充実
問い合わせ先
ごとカフェ
☎0959-75-0111
https://nagasakigoto.net/
真鳥餅店 ☎0959-72-2588
https://yokamochi.com/

出典:ひととき2023年2月号

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