【五島のかんころ餅】焼くことで味と香りがぐんと深まる、ほっとする味わいのさつま芋スイーツ(長崎県五島市)
「かんころ餅」は五島列島(以下、五島)に古くから伝わる郷土菓子。さつま芋を薄く切って茹でて、寒風にさらして干したものを「かんころ」と呼ぶのだそう。これを湯で戻し、蒸したもち米と混ぜ合わせて、形を整えれば完成だ。
江戸時代、五島藩の開拓移民政策により、九州本土の大村藩から3000人を超えるキリシタンが五島に渡った。彼らは旧来の集落から遠く離れた山の斜面や入江に根を下ろした。山の斜面は米作りには適さないが、さつま芋はよく育つ。ゆえにさつま芋を主食とし、保存の工夫からかんころ餅が生まれたとも伝わる。
「長崎五島ごと*」のかんころ餅は、「ごと芋」を使用している。さつま芋の品評会で日本一を獲得した五島のブランド芋だ。併設の「ごとカフェ」では、このかんころ餅を自分で焼いて味わえる。あつあつを口に運んでみると、やさしい甘みがふわっと広がり、ねっとり、もちもちの食感が楽しい。
「ごと芋は収穫後に40日ほど熟成させて濃厚な甘みを引き出すんです。うちのかんころ餅は、芋の味を生かすため、砂糖は極力控えています」。長崎五島ごとの広報・安達真美さんが教えてくれた。
「軽く焼いて食べるのが一番」と断言するのは、真鳥餅店の3代目の眞鳥浩次さん。「昭和29年、祖母が店をはじめた頃は、かんころ餅は家庭で作るもので、売り物にするなんて考えられなかったそうです」。一度にたくさん作って、ご近所に配ったり、正月に親戚が集まったら囲炉裏で焼いて食べたり。それが冬の定番だったという。
「原材料はシンプルですが、芋はひとつひとつ微妙に味が違うので、色つやを見て甘みなどを判断し、長年の経験をもとに、もち米や砂糖の分量を変えて、先代から受け継いだ味に仕上げます」
シンプルだからこそ、一定の味を守るのは難しい。なぜか懐かしさが込み上げる幸せな味──そこには職人の技が潜んでいた。
文=神田綾子 写真=阿部吉泰
出典:ひととき2023年2月号
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