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崎陽軒のポケットシウマイと横濱月餅(神奈川県横浜市)|柳家喬太郎の旅メシ道中記

当代一の落語家・柳家喬太郎師匠。お声がかかれば全国あちこち、笑いを届けに出かけます。旅の合間の楽しみは、こころに沁みる土地の味。大好きなあのメシ、もう一度食べたいあのメシ、今日もどこかで旅のメシ──。この連載「旅メシ道中記」では、喬太郎師匠の旅メシをご紹介します。


旅のお供のポケットシウマイ

 あんまり大きな声じゃあ言えませんけどね、今回は横浜を陰で支配する闇の組織の話です。その組織が営む店は、横浜駅と周辺のそこかしこにある。東海道線下りホーム、京急横浜駅中央改札、相鉄そうてつ線横浜駅改札外、間口は狭いけどみなとみらい線横浜駅の改札内にも……。恐ろしいことに、多くの横浜市民が、その組織の食べ物に身も心も奪われているんです……そう、ようけんに“シウマイ漬け”にされているんですよ‼︎ ってのは冗談で、横浜の落語会でよく話すネタ。何を隠そう僕自身横浜育ちで、崎陽軒のシウマイはソウルフード、なくなってもらっちゃあ困る存在です。横浜市歌は歌えないけど、崎陽軒のCMソング「シウマイ旅情」は歌えるからね!崎陽軒のシウマイとありあけの“ハーバー”があれば生きていける! くらいの気概はありますよ。ま、あくまで気概ね(笑)。

 おなじみ「シウマイ弁当」は言わずもがな、僕にとって“旅のお供の崎陽軒”といえば「ポケットシウマイ」と「横濱月餅」なんです。その名の通り、ポケットサイズの箱にシウマイ6個としょう油、からしが入ったポケットシウマイは、新幹線の中でちょっと小腹がすいたときつまむのにちょうどいい。ほんとはこれを肴に缶ビールで一杯、ってのがやりたいんだけど、東京から西に向かうときは仕事前だから呑めない。かといって帰京するときは静岡より西だと崎陽軒の店舗がない。静岡での仕事帰りだって、夕方には売り切れてたりでいまだかなわず。なかなか人気なのよ、ポケットシウマイ。

 シウマイ弁当に足して“シウマイ増し増し”で食べる人もいるとかで(まったくお大尽遊びですなっ!)、おやつにもおつまみにもおかずにもなる絶妙な量なんだけど、欲をいえば、シウマイは4個でいいから空いたところに筍煮を詰めた「おつまみセット」を出してほしい……という僕の長年の夢を専務の緑川美津雄さんにリクエストしましたが、「20年ほど前に似たような製品を発売したんですが、恥ずかしながらあまり売れなかったんですよ(笑)」とのこと。し、知らなかった! でもでも、今だったらわからない! 2025年はポケットシウマイ発売40周年だし、期待してます! 

サイズが絶妙! 横濱月餅

 そもそも皆さん、崎陽軒に月餅があることをご存知でしたか!? もちろんあたしはね、知りませんでしたよ! 不覚にも、数年前に地元の友人から教えてもらうまで存じ上げませんでした……。で、食ったらこれが旨くってね~。月餅ってなかなか重めの菓子というか、味も量もずっしりしてますけど、崎陽軒の「横濱月餅」は口当たりが軽くって、甘さもちょうどいい塩梅。それもそのはず、中華菓子の餡じゃなくって、和風の餡なんですって。んでもって、通常月餅の生地に入れるラードを使わないで、ほんのりバター風味に仕上げてるのも、コクはあるけどしつこくない理由なんだそう。

 まーたねぇ、大きさもちょうどいいんだ。二口ふたくちくち、で食べ切れるサイズだから食後にちょいと甘味がほしいときにぴったし。旅のときはお弁当と一緒に1個買って食後に食べたり、昼夜で出番があるときなんかは、高座の合間にいただいたりして、糖分補給してます。ポケットシウマイも横濱月餅も、この「ちょっとほしい」を満たしてくれる、じつに気の利いた商品だと思いませんかあなた!

「『横濱月餅』は、日本人に好まれる中華菓子を作ろうと、1989(平成元)年に上海から点心職人を招聘して製品化しました。当初はもっと大きなサイズでしたが、2001(平成13)年に現在の味とサイズにリニューアルしたところ、人気が出たんです。私が事業部長時代に手がけたんです……ゴホンッ」と緑川さん。いよっ! さすが専務になる方は違いますねっ! 

 はい、ヨイショはこのくらいにして(笑)、あたしは定番の黒ごまがお気に入り。ほかに小豆、栗、宇治抹茶ってのがレギュラーで、季節ごとに限定味も登場します。春はさくら、初夏はマンゴー、夏はオレンジ、秋は焼き芋、冬はチョコってな具合にね。

 でね、さっき月餅を食後の甘味にしていると申し上げましたけどね、「シウマイ弁当にはあんずという立派なデザートがあるではないか」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。熱烈なあんず支持者には申し訳ないのですが、あたしはね“あんず無くてもいい派”だったんですよ。だから月餅をデザートにしていたわけなんですが、最近ね、あんずのおいしさがすこーしわかってきました。還暦にしておとなの階段を上ったのかもしれません。

 聞けばあんずのポジションにさくらんぼがいた時代(1983年~88年)もあったそうで、ほかのおかずについても、千切り生姜がむかしは福神漬けだったり、鮪の漬け焼も鰤だったり、玉子焼きの代わりにレンコンの炒め物が、鶏の唐揚げじゃなくて海老フライが入ってた頃もあった。シウマイの数も当初4個だったのが、後から増やしたから1個だけ左上にいるとか……シウマイ弁当も70年という長い歴史のなかで少しずつ変化しているんですね。変わらないのは、創業者が考案した“冷めてもおいしい”シウマイのレシピのみ。これは崎陽軒の魂。シウマイの存在があるから、「メガシウマイ弁当」や、筍煮が4倍の「ドリーミング筍シウマイ弁当」なんて色んなチャレンジができるんですな。

 シウマイ弁当のおかずが少しずつ変化しているように、あたしの嗜好も年とともに変わるけど、いくつになっても楽しめる“おなじみの弁当”があるって幸せなことだよねぇ。まぁでもやっぱり、デザートは月餅がいいなっ!

シウマイ弁当発売開始70年と落語協会創立100年

 はい、ここから宣伝です!

 2024年はシウマイ弁当発売開始70年ですけどね、あたしが所属する落語協会も創立100年を迎えるんです。これを記念して落語協会100年事業 寄席特別興行」を行うのであります。

 まず、2024年3月1日(金)~10日(日)は上野鈴本演芸場、昼・夜の部。100年事業にちなんで「百年目」という落語を主任トリの噺家ふたりがリレーで口演します。

 続いて3月11日(月)~20日(水)は、新宿末廣亭の興行。こちらは昼の部で前述の「百年目」を、夜の部は「百」の字が入るもうひとつの代表的な落語「百川ももかわ」を、それぞれ主任が口演します。詳しくは落語協会のホームページをご覧ください!

 シウマイ弁当のおかずのように、個性豊かで飽きのこない芸人が代わる代わる高座をつとめますので、ぜひ足をお運びいただければ幸いです。

 そうそう、おかずといえば、崎陽軒の弁当で唯一おかずにシウマイが入っていないのは、「しょうが焼弁当」なんですよね(あ、厳密にいうと「いなり寿司」にも入ってないね!)。「横濱ピラフ」も「横濱チャーハン」も好きですけどね、このしょうが焼弁当というのも……え? もう崎陽軒の話はお腹いっぱい? お後がよろしいようで……(談)

談=柳家喬太郎 絵=大崎𠮷之

柳家喬太郎(やなぎや きょうたろう)
落語家。1963年、東京都世田谷区生まれ。横浜育ち(9歳から28歳まで)。89年に柳家さん喬に入門。2000年真打昇進。シウマイ弁当に入っているあんずは“なくてもいい派”だったが、最近おいしさがわかってきた。

 崎陽軒本店ショップ 
☎︎045-441-8827
[所]横浜市西区高島2-13-12崎陽軒本店1階
[時]10時~20時
[料]ポケットシウマイ320円、横濱月餅 150円ほか 
[関連リンク]
ポケットシウマイ
https://onlineshop.kiyoken.com/products/detail/1563
横濱月餅
https://onlineshop.kiyoken.com/products/list?category_id=11

落語協会誕生百年 情報
https://rakugo-kyokai.jp/activity/100th/

出典:ひととき2024年3月号

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