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映画『彼方のうた』天性のカメラワークで純粋に、丁寧に人を映し出す

『春原さんのうた』で第32回マルセイユ国際映画祭グランプリなど三冠を獲得した杉田協士監督による新作『彼方のうた』の公開を記念して、舞台挨拶が池袋シネマ・ロサで今月6日に行われた。

本作品は、喪失感を抱えた人を描き続ける杉田監督による長編4作目。第80回ヴェネチア国際映画祭ヴェニス・デイズ部門に出品されるなど、国内外の映画祭で評価を得ている。

書店員で働くヒロイン・春(小川あん)は、助けを必要としている見知らぬ人のことを思い、手を差し伸べていく女性。春は、かつて子どもの頃に街中で声をかけた雪子(中村優子)と剛(眞島秀和)と再び接点を持ったことで、自分自身が抱えている母親への思い、悲しみの気持ちと向き合っていく。

純粋に、丁寧に人を描く映画

舞台挨拶では「この映画館シネマ・ロサは、20代の頃に初めて自分の映画に声をかけてくれた場所で、その作品のワンシーンには眞島さんに出演してもらっていて。この大事な場所にこうして戻ってこられて嬉しく思っています」と杉田監督。

舞台挨拶

脚本も杉田監督によるものだが、小川さん、中村さん、眞島さんをイメージしながら書かれたのだという。舞台挨拶では監督から出演依頼があった時のこと、撮影中のエピソードなどが語られた。

主演を務めた小川さんは、杉田監督の前々作『ひかりの歌』が大好きで、長文の感想を送ったことから監督とお茶をすることになり、その数か月後に出演の依頼があった。「杉田さんの作品に出るなんて、とんでもないというか、憧れの存在なので、難しいですと申し上げたのですが、監督に、そこにいるだけで大丈夫ですと言っていただいて」ようやく参加する気になれたのだという。

春役の小川あんさん(左)と剛役の眞島秀和さん

眞島さんは「杉田くんとは20代の頃から一緒に映画を作ってきた仲間という意識があって、今回声をかけてもらって、ただただ嬉しく思いました。しばらくお会いする機会もないままに時間が過ぎてしまいましたが、脚本を読んだ時、若い時から純粋に丁寧に人物を描く映画を作ってきた方がこういう風に年を重ねてきたのだなって。感慨深いものを感じました」と語る。

秘色の花束を捧ぐ

(会場に向かって)「皆さん、秘色ひそくってご存じですか」とは中村さん。役作りで杉田監督とLINEで細やかなことをやり取りする際に、中村さんは「雪子はこの色が好きだと思うのですよね」と監督に伝えていた。秘色は、空のような淡い水色。劇中で春が雪子に花束を渡すシーンがあり、その色の花があった。中村さんは「てっきり監督からそういう説明があったのだと思ったのですが」と言うが、それは何も知らされていなかった春役の小川さんが雪さんを思って選び、撮影日に買ってきたものだった。「この時、ああ、私たちはすべてちゃんと(役の人生を)生きたのだなと思いました。本当に、忘れられない思い出です」と中村さんは振り返る。花束は、通常ならスタッフサイドが用意するものであるところ、「今回はそれは違う」と思った杉田監督が小川さんに依頼していた。

杉田協士監督(左)と中村優子さん

本作品は、これまでの杉田作品の通り大まかなストーリーはあるが、多くは語られない。監督とカメラマンの飯岡幸子さんによる天性のカメラワークで、光のある美しい情景が映し出され、登場人物たちの孤独や哀しみ、希望が浮き彫りになる。

文=西田信子

●『彼方のうた』は全国で上映中
▼上映情報などは公式ホームページをご確認ください。

▼『彼⽅のうた』公式SNS
https://twitter.com/kanata_no_uta

▼『春原さんのうた』についての杉田監督へのインタビュー記事はこちら
マガジン「そうだ、映画を観よう」を読む

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