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そうだ、映画を観よう。

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おすすめ映画の紹介や、映画監督へのインタビューなどをまとめていきます。
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映画『彼方のうた』天性のカメラワークで純粋に、丁寧に人を映し出す

本作品は、喪失感を抱えた人を描き続ける杉田監督による長編4作目。第80回ヴェネチア国際映画祭ヴェニス・デイズ部門に出品されるなど、国内外の映画祭で評価を得ている。 書店員で働くヒロイン・春(小川あん)は、助けを必要としている見知らぬ人のことを思い、手を差し伸べていく女性。春は、かつて子どもの頃に街中で声をかけた雪子(中村優子)と剛(眞島秀和)と再び接点を持ったことで、自分自身が抱えている母親への思い、悲しみの気持ちと向き合っていく。 純粋に、丁寧に人を描く映画舞台挨拶では

【元町映画館】観客・映画監督たちと距離が近い 商店街の手作りミニシアター(兵庫県神戸市)|ホンタビ! 文=川内有緒

 神戸市長田区にある神戸映画資料館。貴重な映画フィルムをアーカイブするその場所に、1枚のモノクロ写真が飾られている。帽子をかぶった男性が大きな箱を覗いている写真だ。その箱とはキネトスコープ。エジソンが発明した映画鑑賞装置である。  1896(明治29)年、キネトスコープは神戸港に初上陸。「活動写真」なるものが披露され、人々を仰天させた。1932(昭和7)年には喜劇王・チャップリンも神戸を訪れ、10万人に熱烈な歓迎を受けた。いつしか神戸は「日本映画発祥の地」「映画の街」と呼ば

仏・マルセイユ国際映画祭で三冠 『春原さんのうた』が国境を超えて人々の感情を揺さぶる理由 | 杉田協士監督インタビュー

フランスのマルセイユ国際映画祭で日本映画初のグランプリを受賞し、ニューヨーク、サン・セバスティアン、ウィーン、釜山など数々の映画祭にも出品された『春原さんのうた』。大切な人を失い、喪失感を抱えた女性の日常が描かれている。物語の起伏は少なく、説明的な部分も少ない。観客は目の前で起きていくことがなんであるかを探りながら映画を観続けているうちに、遠い昔、忘れていた過去と感情が炙り出されるような錯覚に陥る――。 『春原さんのうた』を手掛けた杉田協士監督は、ニューヨーク映画祭のCur