見出し画像

【沼津のバー文化】都会のバーとは異なる別荘地らしい上質空間(静岡県沼津市) 

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2023年3月号より)

 沼津にはオーセンティックバーが多い。何故なのか。1967(昭和42)年創業のBAR Frankのオーナー相原まさるさん曰く「沼津御用邸が建てられたことからもわかるように、ここは保養地としてすぐれた土地で、昔は『海のある軽井沢』なんていわれて、政財界の要人たちが別荘を建てたんです。旧国鉄の時代には東海道線の要所としても栄えていました」。別荘族の社交場としてバーが必要とされ、バー文化が醸成された側面があるのだろうと語る。

BAR Frankのオーナー相原勝さんが作るカクテル。沼津特産の寿太郎みかんを使った「イコロ*」(右)と静岡の緑茶のカクテル「五月乙女〈さつきおとめ〉」。カクテルのほかウイスキーも充実

*アイヌ語(イコロ)で宝物の意

「バーテンダーは黒子。カウンターという舞台で、主役は一人一人のお客さま。いかに気を配れるか。そこが肝心です」。相原さんが心得を説いてくれた。

BAR Frank [上]店の隅々までこだわりが感じられる [下]2階の客席へ続く螺旋階段。「日常から非日常へ。バーは非日常への新幹線」と相原さん

 各地の社交料飲店で経験を重ね、その後生まれ故郷の沼津に戻り開業したのは、VICTORYの河守かわもり勝次郎さん。河守さんは長く茶道を学ぶ師範でもある。

VICTORY [上2点]ぜひオーダーしたい王道のカクテル[下]河守勝次郎さん(左)と石渡信さん
洗練された店内。カウンター(写真)のほかにも、優雅で広いバールームがあり、夜の会所として利用されている

「伝統芸能とバーにおける身体技法と室内礼法は地続きなんです」

 レジェンドの相原さん、河守さんの大きな背中を追う若手も着実に育っている。

 TOM'S BARのオーナー坪田ともさんは、フレアバーテンディング*の世界大会に創作カクテル「エターナル・フレイム」を出品。カクテル部門で2位を獲得した。バーテンダーとして研鑽けんさんを積む一方で、希少なお酒、チーズやシガーを豊富に取りそろえて、他所よそにはない魅力を打ち出している。

*2 ボトルやシェーカー、グラスなどを用いて曲芸的なパフォーマンスでカクテルを作るスタイル

坪田智さんはシガーやチーズの資格も持つ。「お気軽に何でもお聞きください」
TOM’S BAR [左]シガーとよく合うブランデーやシングルモルトも充実 [中]世界大会2位に輝いた「エターナル・フレイム」(左)と沼津の深海をイメージした「ディープ・スルガ」

「欧米では、バーテンダーは『ナイトドクター』とも呼ばれます。心のケアをしてくれる夜のお医者さん。私もお客さまに合わせて処方してカクテルをお作りします」

ハーブとフルーツのチョコレートフォンデュ

 BAR THE PINEのオーナー森俊文さんは、VICTORYでバーテンダーの姿に憧れてこの道に進んだ。専門学校を卒業後、相原さんのもとで修業し独立を果たした。「何歳になっても貪欲に学ぶ師匠の姿勢を尊敬しています。自分はまだまだひよっこ」と謙遜するが、彼もまた日本代表として世界大会に出場した一人。つねに地元の美味しい食材にアンテナを張っており、驚くようなアイデアを取り入れるなど、創意工夫に余念がない。

BAR THE PINE 液体窒素でフローズン・カクテルを作る森俊文さん
[左]伊豆のいちご紅ほっぺ入りのフローズン・カクテル [右]沼津のジンを使ったグレープハニーフィズは炭酸入りのぶどうと合わせて

 名バーテンダーがいて、そこにお客が通うことでバーが熟成し、ひいては新しい種が生まれる。「バーは大人のゆらぎの場」とは河守さんの弁。沼津の夜はオーセンティックな空間で心をほどきたい。

「沼津港大型展望水門 びゅうお」は併設の展望施設から夜景も観賞できる 写真提供=沼津市

文=神田綾子 写真=佐々木実佳

ご当地INFORMATION
沼津市のプロフィール
静岡県東部に位置する中心都市。江戸時代には東海道の宿場町となり、陸路と海路をつなぐ交通の要所として栄えた。また、富士山や駿河湾を望む風光明媚な地であり、温暖な気候に恵まれ、交通の便もよく、古くから保養地としても発達した

問い合わせ先
BAR Frank
☎055-951-6098
VICTORY
☎055-962-0684
TOM’S BAR
☎055-963-2369
BAR THE PINE
☎055-922-2377
沼津港大型展望水門 びゅうお
☎055-963-3200

出典:ひととき2023年3月号

▼連載バックナンバーはこちら


この記事が参加している募集

ほろ酔い文学

この街がすき

よろしければサポートをお願いします。今後のコンテンツ作りに使わせていただきます。