見出し画像

29 笑いと怒り

笑いとお笑いの違い

 昨日は、「お笑いの日」とTBSは、長時間にわたってお笑い芸人たちの世界を生中継を含めて放送し、掉尾として「キングオブコント2023」もあった。すべてを通しで見ることはできないので、録画して少しずつ見る派である。
 今日の「サンデージャポン」の冒頭で、昨日の「キングオブコント2023」で優勝したサルゴリラを紹介しつつ、司会の爆笑問題の太田は自分たちは呼ばれていないと言い、勝手に「お笑いの日」と決めるな、といった冗談を半ば本気かもしれないが、言っていた。
 私の最初のアイドルは、コント55号だった。小学生の頃、コント55号はヒーローでもあった。確かに、クレイジー・キャッツからのドリフターズへという流れは知っていたし、ドリフターズも好きだった。子どもの頃は、日曜日には、昼間に「大正テレビ寄席」、「日曜演芸会(末廣演芸会)」とあって、夕方には「笑点」があった。可能な限り、それを見ていた時期があった。やがて、行事が重なってまったく見なくなってしまうのであるが(カブスカウトの行事が午前で終われば見ていた)。
 昼間の「お笑い」を見る機会は減っていき、夜の番組が中心になっていくときにコント55号は大活躍した。
 細かいことを言うようだが、笑いとお笑いは違う。お笑いは芸であり技巧であり演出である。ハプニングも含めてそれを表現する「器」(番組)の作りがあっての笑いである。
 だけど、日常には、お笑いとはまるで違う笑いの世界がある。日常の笑いは、より深く、より広く、ある意味の恐ろしさを内包している。

緊張の緩和だけでは説明できない

 早逝した天才的な落語家、桂枝雀(二代目)の言葉というのだが、笑いは「緊張の緩和」から生まれるとされる。うつ病に苦しんでいた天才の言葉だけにとても深い。いまでは「緊張の緩和」説は、お笑いの基礎の基礎とされているようだ。
 もちろん、私たちが笑うときは、ほかにもさまざまな要因がある。笑いの種類だけ要因があると言ってもいい。それをくくれば、「緊張の緩和」になるのもうなずけるが、なにもくくらなくてもいい。というのも、なにを笑うかは、笑う側の自由だからだ。なにのどこを笑うかは、人それぞれだから。お笑い番組で公開収録形式のものでは、たまに、素っ頓狂な笑いを、ひとりだけしているお客の声が入る。「ここで笑うのか」とむしろこっちは引いてしまうのだが、同時に一種の緊張となり、その後に絶妙なツッコミが入れば笑いにつながることもある。つながらないこともある。
 お笑いの技巧は、お笑いの仕事をする人たちにとっては自分の表現であり、職業であるから、真剣に研究をされていることだろうし、恐らく「これでいい」というところのない世界だろう。
 一方、そうではない人にとっては、大きくわけて2つの状況がある。「笑えるものなら笑いたい状況」と「なにがなんでも笑えない状況」だ。
 ドリフターズのコントでは葬式とか卒業式とか、「笑ってはいけない」場面での笑いがいろいろとあった。コント55号では、なんとかマジメにやろうとうする坂上二郎を、徹底的に壊していく萩本欽一という構図から笑いを作りあげた。以後、萩本欽一は、俳優、歌手、素人らを相手にその構図を作り出し続けた。
 ダウンタウンは、怒りを内に秘めている浜田雅功を松本人志がグサッと刺すことで笑いを生む。怒りは松本にもあるのだが、お互いの怒りの性質が違うので、そのいわば差分で笑いの摩擦が起こる。そして怒りは、見る側に緊張を与えるし、2人の間にも緊張が生まれる。そこからの緩和だ。

怒りのエネルギー

 世の中で、人の社会を脅かすほどのエネルギーは「怒り」だ。緊張状態が生まれるとき、そこには怒りがある。怒りのエネルギーは人間を進歩させることもあれば、傷つけることもある。外へ向かう怒りもあれば、内に向かう怒りもある。
 この状態のときには、笑いを受け入れられないことも多い。笑っている人たちを見ると、さらに怒りが増大してしまうこともある。笑わせようとしている人たちが鬱陶しいときもある。思わず笑ってしまったとき、誰かに笑わせられたときに悔しいと感じることもあり、それは一種の恨みになるかもしれない。
 ただ、笑うことでエネルギーが多少なりとも小さくなっていけば、時間を稼げるだろう。人生も世の中も、時間軸である。お笑いの生み出す一時の笑いは、エネルギーの方向を変えたり減衰させてくれることもあるが、あまりにも短時間過ぎて、時間稼ぎにならないかもしれない。
「笑って忘れましょう」と言うけれど、人はそう簡単には忘れない。それでも時間稼ぎができれば、新たな方向が見えてくることもある。その意味で、緊張状態を続かせずに緩和させるお笑いの力は貴重だ。
 同時に「誰かに笑わせてもらう」だけではなく、積極的に自分から笑いを見つける姿勢も有効だろう。私はコント55号から、ほんの些細なことを笑いに結びつけることができることを知った。それはきっと、人生に役に立ってきたと思う。

 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?