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Labの男21

 Labの男21

白衣の襟を正し髪を耳にかけ
まっすぐ万次郎に視線を向けるマコ先生

 「足早な説明になっちゃったけれど
  ゆっくりと息を吐くクセをつければ
  なんとかなるって講義でした」

 「この息苦しくなっちゃった
  世の中に風穴を開けたいのよね」

とても素直な意見に感銘を受ける万次郎。
屈託の無いまっすぐな言葉

手を上げて万次郎
 「言語学に惹かれた胸の内?
  マコ先生が突き動かされる
  衝動のもとは何なんですか?」

 「ヒトに伝えたいって気持ちが言葉でしょっ
  存在はするのに存在しない言葉
  眼に見えない事を語ったりするって
  スゴイ技術がいる事なのに
  お互いに分かった気でいるわけよね」

 「物理的にあるモノに名前を付ける事で
  みんなにも分かるようになる。
  カタチがない物にも名前を付ける事で
  存在しないモノが
  あたかも存在するようになる」

 「ストレスって言葉がない頃は
  何にも問題なく生きてた訳ね。
  知ってしまえばもう戻れない。
  もうあることに なっちゃったからね」

 「それが何なのかが判明すると
  ボタンのかけ違い、誤解が減ったり
  日々がもっと楽しく暮らせないかなぁ〜って」

 「もっと気楽にのびのびと暮らせる
  ひと押しになれればいいかなぁってさ。
  あんまり、
  胸張ってカッコいい理由はないのよね〜」

【う〜んそれでなくてもムネは張ってるけどね】

答えには十分すぎるマコ先生の人生観。
この人もカタチは違えど
大のオトナが懸命に生きているのを感じられる。
カッコつけない、さりげなさ
とてもシビれてしまう万次郎。
Laboに来るようになってからは
万次郎ハートの芯を喰う言葉。
真向勝負なフレーズにマイッチing
世の中に向けてまでの余裕がない
万次郎にしてみれば
とてつもなくオトナに思える人ばかりだ。
それでいて人生をちゃんと
脈打って生きている。

最後に
 「環境を作ってるのも自分だし
  自分を育んでくれてるのも環境
  ちょっと哲学的でむずかしいかもしれないけど
  世界=自分ってこと。
  何かを変えたいのならまず自分を変えるのが
  近道だって事ね」

 「全ては何かの役に立っていて
  スキマなくムダなく機能している。
  それくらい世界は大胆にして精巧に
  シンプルにできている」

見事に万次郎の大人感にぶっ刺さる講義。
自然と立ち上がり万次郎は拍手していた。
感動させようとしていない
シンプルにハートに響く
マコ先生ならではの言葉で情熱的に!
自然と拍手に感謝が乗っかって
手を叩いている感覚はちょっとした
映画を観た気分だ。
そのまま歩き出しマコ先生に握手を求めに
いってしまってる自身に驚いている。
素敵な料理にコックをわざわざ呼び
感謝を込めて握手をする客
ってそういう感覚なんだな。

あまりにも欧米的な反応に呆気に取られ
予想外のアグレッシブさ少し驚いて
慌てて握手に答えつつ
 「そんなに響いてくれたなら
  ちょっと嬉しくなってきたわ。
  今度、飲みに行っちゃう?」

万次郎は、いきんだまま握手を続けている。

玄白
  「はいはい、ブレイク、ブレイク!
   ナンパはやめて下さいよ〜マコ先生
   年頃の大学生をたぶらかしてはダメです。
   おイタですよマコ先生!
   マイッチingです!」

マコ先生
 「皆んなでよぉ〜玄白ぅ〜。ねぇ〜」

万次郎にうなずきを催促している。
うんうんうん、うなずきながら
 【少し残念な気持ちになっている万次郎
  それに気が付いてさらに驚く万次郎】

あわよくばを勝手に連想させる
彼女の隙はナチュラルボーンの天然素材。
恐ろしき生命体!女性は、あなどれない!
色香にやられてしまっているでは無いか!
万次郎自身も生命体である事を実感する。

退場するマイッチingマコ先生振り向きざまに
「チャオッ」指先をこちょこちょとバイバイ

万次郎は腕をブンブン手を振っている。

玄白「あんなに前振りをしたのに万次郎
   マイッチingにヤラレてるじゃな〜い」

明智「魅了されとるじゃないの万次郎っ
   はははっ ちょっと安心したよ。
   やっと人間らしい部分が見れたね」

見事にオスであった万次郎。

指をパチパチ、注意を促す玄白
 「さて、ここからは地味なテストが続きますよ」

テキストを手渡す玄白
とてもシンプルな間違い探しです。
紙をめくると         鯖鯖鯖鯖鯖鯖鯖
鯖という漢字群の中から    鯖鯖鯖鯖鯖鯖鯖
鮪という漢字を探し出す    鯖鯖鯖鮪鯖鯖鯖
問題から           鯖鯖鯖鯖鯖鯖鯖
2つの絵から間違いを探したり 
簡単な計算が並んでいる中から
回答が間違っているモノを見つけだりたり
ぶどう トカレフ するめ 宇宙海賊 ヤギ 血
の中から仲間はずれを探したり
信号機の色の並びの間違いを当てたりと
比較的面白くない部類の問題に
万次郎は果敢に
小学生のように回答してゆく愉しさ。
とても印象的な問いがあって
算数の文章問題にはすでに回答が書いてあり
あらかじめ書いてある答えに
間違いを指摘する。
間違いを正すイメージがそのまま
自身にフィードバックされ
たちまち、万次郎先生になりきっていたのは
自身でも驚いた。
赤ペン先生になって答えをしたためている間
思っていた以上に楽しく、書かなくてもいい

おしかったですね。
この数字をしっかり足さないと
最後で計算が合わなくなります。
落ち着いてやりましょう。もう少しです。

コメントを書くのが楽しくなっちゃってる。
と思えばいつの間にか問題は変わっていて
どこかの文豪が書いた、ひとくだりを
どうするともっと良くなるかの問題であったり
とてもバリエーションが豊富。
あっという間にドリルを終わらせる。
単純作業と語学関係はどちらかといえば苦手で
自身の感情表現が上手でなかったり
同じことの繰り返しは、すぐに飽きてしまうと
思っていた割には
四の五の言わず目の前の問題に
思い込みなしで一心不乱に挑むと
単純作業のリズムよく解答できる心地よさは
何とも言い表しにくい感覚。
余計に考えて自由度が逆に足枷になっていたのか
自身の心の思うがままを書き連ねる痛快さ。
シンプルに楽しめていた。
朗らかさを発見、世界が開けた感がある。

次は単純体力測定
垂直跳びモニタータッチ 反復横跳び 
上体そらし 前屈 スクワット
奥から引っ張り出されたルームランナーで
15分走らされたりと
どうも最初の動体視力テストの時点で
運動は得意でないと判断されて以降
渋々、出題しているみたいだ。
なぜに分かるのかというと
みるみる玄白のリアクションが薄くなっている。
明らかに玄白が面白くなさそうだからだ。
握力測定に至っては
 「万次郎それっ しなくていいよ」
測定器に触る前に終了。

タブレットを見ながら玄白

 「どうも万次郎は、運動になると
  思考速度が著しく低下するみたいだね」

 「それと頭に思い描いたイメージに通りに
  カラダを動かすのは得意ではないみたいね」

ちょっと残念げな寂しい表情をする万次郎。

玄白「いやいゃ、ボクは君の担任の先生
   じゃないから期待に応えようと
   しなくていいんだからね。
   ただのキャラクターだから
   身体能力なんてさ」

あぁっ そっか ってな表情の万次郎。

 「はははっ 万次郎の傾向を知るための
  テストだからね」

過剰に従おうとする所だったり
主要人物にハマろうとする無意識のクセ
『義務教育のステルス権威主義』
的なのが軽く見受けられる万次郎。

多くは語らないが玄白は多様性の芽を摘むのが
この褒めて伸ばすにあるのを知っている。
人知れず教師に
よそゆきを提供しょうとしてしまう反射反応。
義務教育の大人からの呪縛だ。
誰もが持ち合わせている、自然にでる悪いクセ。
根底にはヒトを喜ばせたいからの
褒められたいに繋がり
よい結果を出そうとする強迫性
褒めて伸ばす教育の代償だ。
褒めようとする側
相手への愛情に起因した全肯定してあげたい
ではなく、大人にとって望しい方向へ誘導したい
相手をコントロールしたいが根底に流れている。
褒める側と褒められる側で上下関係ができあがる
大人に褒められる事を目的とした子供は
自主性が損なわれる。
それは報酬を求める行動だからで
独自の価値を見出すことを減らし
報酬がないと動かなくなってしまうからだ。
ましてや万人が喜ぶ報酬が自身の最良の報酬に
成り得るかは不確かだ。

とある芸術家がコンテストで優秀賞を受賞した際 のコメント 
 「優勝する様に戦略を練った」
その一連の行動そのものも含めて
皮肉まじりのアートとしたならまだわかるが
認められる【褒められる】為の戦略とも言える。
獲物に狙いを定め、かっさらうって言うと
また意味が違ってくるが
のし上がるために権威主義的なモノに
チカラを借りるとなると器用であるが
権威に屈した感がある。
そんなこと万次郎には、必要がないから
わざわざ説明はしないが
少しは匂わす程度に話す玄白

 「過度に期待に応えようとすると
  それは不自然なモノとなって
  ナチュラルな自分から遠ざかってるからね。
  万次郎はねぇ、サービス精神旺盛すぎだよ」

万次郎には言わないが

誰から褒められるではなく
人が変わっても褒められれば
誰でもよくなってしまうのが問題なのだ。

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