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最も奇妙で神秘的な鳥は、旧ブログにいた

カカポがいない。

ここが書店だということを忘れて思わず呟いてしまった。カカポがいない。

近所にある書店の一角には「KOTORITACHI」というブランド雑貨が置かれている。名前の通り、小鳥をモチーフにしたマスキングテープや、エコバッグや、その他なんやかんやを展開しているブランドだ。

鮮やかだが目に痛くない、アイコニックな小鳥がとても可愛いと思う。遠くからでも目を引くデザインになっているから、私も通りがかったとき「何か可愛い雑貨があるな」と足を止めた。

KOTORITACHIがモチーフにしている鳥は幅広い。

セキセイインコやすずめといった馴染みの小鳥から、ハシビロコウなんていう少しマニアックな鳥のグッズまである。本当に鳥好きの人が作っているブランドなんだと関心した。

なので、賑わう小鳥の中にカカポがいないか探したのだが、これがいないのだ。カカポがいない。

たまたま店頭に置いていないだけかと思い、帰宅後にKOTORITACHIのサイトへアクセスして検索したのだが、やはりいない。

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なんということだ。カカポがいないとは。確かに絶滅危惧種だが、ブランドサイトでも生息数を減らすことはないだろう。だってカカポだ。あんなに面白い鳥を放っておくなんて! と一人でやきもきしていた。平日の昼間から。


私が平日の昼間から躍起になっていたカカポという鳥は、ニュージーランドのリトルバリア島とコッドフィッシュ島に生息している。和名をフクロウオウムという。そして私が一番好きな鳥類でもある。

どんな鳥かというと「世界一デブいオウム」だ。

カメラマンの頭に乗って小さな翼をパタパタさせている鳥がカカポである。ちなみに、動画に出演している個体はシロッコくんという。雄のカカポで、これは人間相手に交尾を試みている場面だ。

カカポは世界的に見ても個性的な鳥だ。体重は最大4kgにもなり、インコ科の中でもっとも重く、唯一飛べなくなった種である。

飛べなくなったのは生息地に天敵がいなかったというのが主な理由だが、餌が豊富だったというのもある。食べ物を探すため、わざわざ飛んで移動する必要がなかったのだ。

だから飛べなくなったから太ったのか、太ったから飛べなくなったのか、真相は分からない。分かっているのは、今も太っているということだけである。

地上での暮らしぶりはというと、特別足が速いわけではないが、木登りは達者だ。立派な爪と嘴で上手に登っていく。足場が悪くても関係ない。彼らは生まれながらのハイカーだ。

しかし、その動作は丸腰の人間が素手で捕まえられるほど緩慢である。私が勝手に言っているのではない。

カカポの保護に携わっている生物学者のAndrew博士も「カカポはなんでもゆっくりやる。歩くことも」とツイートしている。添付されている動画には、猫背でのっそりと歩くカカポの姿が捉えられている。

この個体はホキという。1992年生まれ、初めて人工飼育されたカカポだ。

ホキの生い立ちについては、ニュージーランド自然保護局のサイトで詳しく説明されているので、興味のある方は是非アクセスしてほしい。


話は雑貨に戻るが、KOTORITACHIには『地面の鳥』というシリーズがある。

地面をとことこ歩いて暮らす、【地面の鳥】柄。
引用:ことり箋 【地面の鳥】 - 小鳥の雑貨・洋服デザイン【KOTORITACHI】

これを見つけたとき「やった」と思った。カカポは飛べないからだ。

それにしても、このタンビカンサシフウチョウは偉そうだ。なんとも尊大な佇まいである。

地面の鳥シリーズの商品には、カカポと同じニュージーランドに生息するタカへやキーウィが描かれていた。すごい。これは期待できる。

ワクワクしながら商品画像に目を凝らして観察した。のだが、カカポはそこにいなかった。何度確認してもいないのだ。商品ページにも、カカポの名前はなかった。

イワシャコ、タンビカンサシフウチョウ、子梟、タカヘ、キウイ、カンムリシャコ、ヤンバルクイナ、カグー。
引用:ことり箋 【地面の鳥】 - 小鳥の雑貨・洋服デザイン【KOTORITACHI】

まったくおかしい。

なぜカカポがいないのか。私が知らない間に絶滅してしまったのか。同郷のタカへとキーウィは便箋で楽しそうにトコトコ歩いているのに、カカポは影も形もない。

こんなに面白い鳥なのに!

『鳥の絶滅危惧種図鑑』では、カカポを”最も奇妙で神秘的な鳥の1つ”と紹介している。

寿命は60~90年と長生きで、世界一長寿な鳥ではないかともっぱらの噂だ。しかしその驚異的な寿命のせいか、繁殖は数年に一度、リムの実が豊作になった年しかしない。悠長な鳥だ。本当に変な鳥である。

まあそんな悠長な鳥だから、カカポは人間の格好の餌食にされて、あっという間に絶滅寸前まで追い込まれてしまったのだが……。

カカポは一時期、個体数が50羽以下にまで落ち込んだことがある。

これはカカポ以外もそうなのだが、個体数が極端に減ったり、生息地が分断されたりした生き物は近親交配の確率が上昇する。というか、近親交配の回避が難しくなるのだ。

鳥類で近親交配が起こると、卵の孵化率が低下する。実際、大幅に個体数を減らしたカカポの卵は半分しか孵化しない。おまけに彼らは繁殖スパンが長い。減らすのは簡単だが、増やすのは大変だ。

だから手厚く保護されている。全個体に発信機と名前をつけて、厳重に管理している。CITES(ワシントン条約)附属書Ⅰに該当し、学術目的以外での取引は禁止だ。彼らは知る由もないが。

良くも悪くも、人間に翻弄され続けてここまできた。それがカカポだ。

面白い鳥なのだが、歴史は暗い。しかしその強烈なコントラストがなければ、私はカカポにここまで夢中にならなかったと思う。後暗い歴史も含めて、カカポが好きなのだ。


かなりニッチな鳥のグッズも出しているKOTORITACHIがカカポを知らないはずがないと思う。そもそもタカへを知っていたら、似た境遇のカカポも知っているはずだ。

そう思ってGoogleで検索してみたら、なんとKOTORITACHIの旧公式ブログがヒットした。

いた。

カカポがいた。『鬼灯の冷徹』とコラボした鳥獣がまぐち。獄卒たちと並んだカカポが、ホオヅキの中からこちらを見据えている。イラストになっても、ずんぐりむっくりだ。

こんなところにいたのか。

KOTORITACHIの旧ブログ、電脳のコッドフィッシュ島で彼らはひっそりと暮らしていた。しかも単体で商品になるほど人気なハシビロコウと同じ舞台に立っている。すごい。快挙だ。

記事の更新日を確認すると2016年。今から4年前、私がカカポを知る前の記事だ。

私が認知する前から、カカポは強力な小鳥ブランドの看板を背負って、人気者の隣にでんと構えて、商品を彩っていた。驚いた。本当に驚いた。

カカポのグッズが他にもないか探したが、私が見つけられたのはこれだけだった。それでも、カカポは確実にいた。

KOTORITACHIがカカポの魅力に気づき、彼をスタメン入りさせてくれていたことに感謝せずにはいられない。そう、カカポはグッズになりうるのだ。多くの人が、この面白い鳥の魅力に気づいていないだけで。

今後、カカポの魅力がより多くの人に伝わると良いと思う。ハシビロコウ先輩と双璧を成す人気を得る日を心待ちにしている。きっと人気者になる。

だってカカポは面白い鳥だから。

そんな日が来たら、私はまたあの書店の雑貨コーナーで人目もはばからずに言うだろう。

「カカポがいる!」と。

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