「ミッション」

「ミッション」

 前職の仕事のスタートは「ビラ配り」であった。日々、A4紙を三つ折りにしたチラシをデパートの紙袋2つに入れ両手に持って大学の教授室・研究室・部室や雑貨屋、飲食店、美容室等の自ら海外に興味を持っていそうな場所に投函するのが僕の役割であった。総数3000枚以上はあったと思う。当然、全部は配り切れないので、マンションの郵便受けにも投函、それでも配り切れないので、駅前や繁華街の交差点で信号待ちをしている人々にも手渡していた。
 ・・・大変だったか? 雨の日、寒い日、暑い日、天候によっては紙袋に満載されたチラシの重みで指先が悴んだり、熱くて大量の汗を流しながら走り回るので水分不足に陥り熱中症になった事もあった。それよりも雨の日は誰も受け取ってくれずチラシが減らずに事務所になかなか戻る事が出来なかった。・・・
 僕のミッションはチラシを配る事? →そうではない、それは目的へのプロセスであってゴールは一人でも多くの人々に小さな誰も知らない会社への認知(何をやっているのか?)興味持って貰う事。多くの見込客を創る事であった。
 だから、配布先に優先順位を付ける。大学の先生は学会や研究で海外に行く事が多い。学会が終わればついでに旅行も楽しむ方も多く、ある程度、語学に堪能であり個人的に手配される方が多く、僕らの一番の顧客となり得た。次に、大学生、先ず、自由な時間を持っている。留学に興味を持っている学生も多い。その中でも、英語研究会や英会話サークル、探検部に旅研、ワンダーフォーゲル部、ユースホステル研究会等の旅に繋がる要素がある部活やサークルの学生達を掘り起こしていった。市場の絞込みであるマーケティングのコア・ターゲティングを行っていった。
当時の僕らの仕事は「ニッチ」であった。その為、大手の参入がなく、中小零細同志のチキンレースであった。「安い=格安」と言う言葉に多くの客たちは魅せられ、水辺に揺らめく蛍の様に安い金額に吸い寄せられていくのが、情けなく、悔しかった。
 僕たちの強み(コア・コンピタンス)は何だろう? 「格安」と言う言葉とどこよりも安い金額の数字が羅列されたチラシのみで戦う消耗戦は芸が無さすぎるし、虚しさも覚えていた。・・・毎日、他社チェックを行い、他社よりも100円でも安くすることでお客様を集める手法だけで良いのか? 僕は疑問を持っていた。・・・
 2年間のアルバイト期間を得て正社員になった僕は、翌年からちっぽけな事務所の所長になった。その時、創業社長から言われた事は、「君が責任者だから、全ての権限は与える。その代わり全ての責任があるから、万が一、君が辞める時に赤字だったらその分は君が払う事になる。」そう、この時点で僕は黒字と言うよりも目標数値の達成がミッションとなった。
スタッフは大学を卒業したばかり男性と女性の僕を入れて三人しかいなかった。
給与は本社(東京)から振り込まれてはいたが、社長の言葉にあったように家賃もチラシの印刷費も事務所の光熱費も給与も含めて全部自分たちで払わなければならなかった。東京本社で仕入れる航空券は一律1,000円プラスされていたし、売上に準じたロイヤリティも請求された。独立採算の運営で所長と言う名の零細企業の社長の様なものであった。
だから考えた、2年間のチラシ配りをしながら考えていた事も実行した。僕らの強みを最大化しよう! ○○○○円と言う「格安」でお客様は反応する。他社でも同様の商品(プロダクト)は変わらないので、金額だけが前面に立ってしまう。僕らが飛行機・列車・船・バス・ホテルと言う「旅」の手段であるサービスを提供しているわけでもないので、その品質を変える事は出来ない。
僕らから買えば、座席が良くなるわけでもサービスが良くなるわけでもない。だからこそ自分たちの強みを明確にして最大化しなければ負けてしまう。
同業他社との闘いと言うよりは、同じ会社の僕と同じような地域を背負っている所長と言う名の社長に負けてしまう。社内の他の営業所に負けてしまうわけにはいかない。福岡は他の大都市、東京や大阪、名古屋と比較しても絶対的なマーケットが違う。そう、人口が少ない! 客数や売上額では負けてしまう。だから利益率と売上に対する利益額では絶対に負けない様にしよう!と自分に誓った。そう、考えた僕は、独自で仕入れを始めた。本社で仕入れると1,000円原価が高くなる。予約から完了までの時間もかかる。仕入れられるものは全て直接仕入れる事にした。福岡乗入の航空会社は大きなハードルがあった。彼らは大手と地場の有力旅行会社しか見てなかった。だから、ホールセール(卸し)の会社を通じて、出来るだけ、売れない時期を売る事で信用を作る事にした。また、逆に福岡に乗入れていないOFF―LINEの航空会社は協力的であった。支店長達は自身のミッションでもある販売数を上げなければならなかったので、僕らが小さくても構わず売ってくれた。それも東京本社で仕入れるよりもね、。また、海外駐在の経験者も多く、個性的であり、文化的であり、会社の規模が大きいとか小さいとか拘らない方が多く、何だか馬が合って仲良くなったことも功を奏した。・・・直接交渉して仕入れる事、売れない時期に売る事、どこも売り切れない世界一周やビジネスクラス・ファーストクラスの席を売る事で信用を得る事が出来た。
なぜ?売る事が出来たか? それは、お客様のニーズに寄り添って提案すれば、お客様は表面的な金額ではなく、安く感じてくれる事に気づいたからである。
お客様の満足度が低ければ、どんなに安くても高く感じるし、お客様の期待を上回る提案をすれば、お客さまは、少々、金額が上がっても安く感じてくれる。
僕のミッションは、自分たちの価値を高めてお客様の期待を裏切らない事だと気付いたことから、ビジネスの面白さがスタートした。・・・続く・・・ 

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