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妄想書店(2005年07月08日)

2005年07月08日 記

 昨日の続き。というか今日が本題である。昨日は個人経営の書店の悪口ばかり書いてしまったが、だからといって大型店のほうがいいというわけではない。むしろ大型店には「ちゃんと領収書を切ってもらう」以外の利用価値は見出せないと言ってもいい。とくに郊外店の場合、たしかに売り場面積は広いし、品数も豊富に見えるが、何もかもが中途半端で、欲しい本が手に入ったことなどほとんどない。都心にあるような超大型店も同様。こちらは逆に品数が多すぎて、どこを探せばよいのかわからない。

 そうなると、畢竟、オンライン書店が一番使い勝手がいいということになる。オンライン書店も在庫の豊富さを謳っているが、それらすべてが顧客の目に触れるということはない。顧客は自分の目的に合った本を自分で検索し、そこから最も適した本を選ぶことができる。売上順、リリース順などに並び替えることも自由だ。そうした手順を経ることによって欲しい本をどんどん、しかも瞬時に絞り込むことができる。リアル書店にはそうした手立てがほとんどない。ムダに在庫を抱えているだけである。

 そこで僕が考えるのが「客注専門/無店舗販売」型の個人経営店である。「客注専門」で「無店舗販売」といえばオンライン書店じゃないかと思われるかもしれない。だが僕の考える客注専門書店は、商圏を限定したものである。だいたい半径4キロぐらい(あるいはもうちょっと広くてもいいかもしれない)。つまりは一般書店の商圏に限定して、客注のみを受け付けるというわけである。メインターゲットは高齢者(と、できれば主婦層)。注文書を兼ねた新聞の折り込み広告を地域限定でばら撒いて、FAXかTELで申し込んでもらう。書籍の配送料は無料。

 サイトもオープンさせて、そこでも注文可能とするが、あくまでそれは補助的なものであり、ネット上での宣伝用と割り切る。そこに書誌データを置く必要はない。そんな費用もノウハウもないので。それに、もともとネットを使わない高齢者を対象としているので無意味だ。だいたい本好きの高齢者というのは非常にマメである。新聞書評などもじつに細かく読んでいる。推測に過ぎないが、図書館での予約者などは、ほとんどがこうした高齢者であるように思う。少なくとも平日の図書館では、予約用紙に熱心に書誌情報を書き込んでいる高齢者をよく見かける。

 そうした人たちは、わざわざ書評をチェックし、図書館へ足を運び、予約用紙に記入して、自分の順番が来るまで待つ、ということを辛抱強く繰り返しているわけである。これはけっこうな労力だ。ではどうして書店ではなく、図書館に足を運ぶのか? もちろん無駄にお金を使いたくないというのも理由かもしれない。だが僕が想像するに、書店にはリクエストを受け付ける窓口がないからだと思う。多くの書店には、欲しい本をリクエスト(注文)したいとき、「どこで」「誰に」「どのように」相談すればいいのかというアナウンスが皆無だ。だいたい客注を受け付けてくれるのかどうかもどこにも書かれていない。一方で、図書館にはその窓口がある。この相違は意外に大きな意味がある。

 そこで客注専門店では、まず「欲しい本のリクエストをお受けします」というアナウンスを徹底する。ここにTEL・FAXしてくれれば、書店まで足を運ばずに、読みたい本を自宅までお届けしますと強調する。そしてある程度、注文がたまったら一週間に一度か二度、取次(書店の問屋)に出向き、注文品を仕入れて、配達する。その際に次の注文を受けてもいいし、FAXの送り方を教えてあげてもいいし、読んだ本を買い取ったりしてもいい。買い取った本は、お得意さんに古本として販売してもいいし、ネットで販売してもいいだろう。

 客注販売の利点は、顧客の嗜好を完全に把握できることである。この人はミステリ好き、あの人はビジネス書、という具合にその傾向が分かれば、配達時にその人の趣味に合った新刊リストや書評などを届けてあげることもできる。こうした濃密な顧客との付き合いはオンライン書店では不可能だし、店売り中心のリアル書店でも、顧客リストを作成しているところなど皆無だろう。顧客との濃密なコミュニケーションは、客注販売の強みになるに違いない。

 ただもちろん、実現には問題が山ほどある。だいたいそんな店と取引をしようとする取次があるとは思えない。取次が決まらなければ本を仕入れることができないので、まずそれをクリアしなければ話にならない。クリアできたとしても、ほんとうに客注だけで経営が成り立つのかは不透明である。月40万の利益を出そうと思うと、単純計算で一日80冊の注文を受けなくてはならない(一冊1000円、利益率2割として)。これはけっこう厳しそうだ。

 とはいえ、個人的には案外イケテるアイデアではないかと考えている。悲観的なことを言い出したら切りがないので、前向きに考えてみたいものである。みなさんもぜひ「前向きに」考えてみて、コメントをお寄せいただけると嬉しい。じつはこうした客注専門店というアイデアは、すでに先駆者の方がいる。松浦弥太郎さんという方で、現在は「COWBOOKS」という書店を経営されているようだ。著書もあるようなので、ぜひ一度読んでみたい。

2023年03月25日 付記

 二十年前に書いた妄想だけど、このアイデアは今でもわりと有効なのではないかと思っている。「顧客リストを持っているリアル書店」というのは、いまだに聞いたことがない。クリアしないといけない課題はあるが、例えば保険会社とタッグを組んで外交員に本の配達をお願いする、というのはどうかしら。顧客訪問のきっかけにもなるし、いいアイデアだと思うのだけど。

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