らしくない
「大阪いる人誰かご飯行きませんか!!」内定式のために前乗りで大阪に来ていた私は、寂しさに負け、らしくない提案をした。
送った先は就職先の内定者が集まるグループチャット。150人以上の人間が集まっている。
「行けます!」思いの外早く返信が来た。なんていいやつなんだろう、ほぼなんの情報もない人間の唐突な呼びかけに応じてくれるなんて。
その後も何人かから返信があり、気づけば6人というそれなりの数が集まった。
親交のない人間と食事に行くなんて何年ぶりだろうか。いや、人生初かもしれない。
集合場所は明日の内定式の会場の近く。場所の確認も兼ねている。最初に返事をくれたいいやつの提案だった。確かに効率的だな…賢い…。何も考えず駅周辺に集まるかと思っていた自分の考えの浅さに驚いた。
向かう途中ダイソーに寄り、メイク用スポンジを買う。集合時間に遅れるかと思ったが、買い物はスムーズに済み、集合時間通りに辿り着いた。
道中チャットを確認しながら歩いていたが、参加者が増えている。集合場所に着き、挨拶を済ませ、会話しながら残りの面子を待っている間に、参加人数はさらに増えていた。最終的に自分を含めて11人。結構な飲み会の規模じゃないか。軽く食事だけして1時間程度で帰るつもりだったが、そんな思惑はすぐに消え失せた。
彼らは自分のゲームクリエイターへの認識よりも、随分明るかった。気まずい沈黙などもなく、初対面とは思えぬほどスムーズに会話が進んだ。
結局小1時間ほど話していただろうか。後から合流する人を除き、全員が集まった。「せっかくなら粉物食べたいよねー」などと話しながら店を決める。たこ焼き酒場なる店が近くにあったのでそこに行くことにした。
酒を飲む気はなかったので、烏龍茶と明石焼きを注文した。初めて店で食べる明石焼きに若干心を躍らせ、たわいもない話をする。
インターンで知り合った友人の頼んだ巨峰サワーがレモンサワーに変わって出てきたが、酒の味が苦手だと言うので烏龍茶と交換した。そいつはここにくる前に焼肉とたこ焼きを食べていたらしく、バニラアイスを注文していた。なぜ来たんだ。交換した烏龍茶を美味そうに飲んでいた。
初めて食べる明石焼きは、生なのではと思うほどにトロトロな生地に、出汁の味がはっきりと出ていて美味しかった。関東で売っているたこ焼きや自分で作るものとは全くの別物だった。
予約人数が11人と大所帯だったため、通路を挟んで2つのテーブルに分かれていたのだが、自分の周りを興味のある人間で囲い、面白い話をたくさん聞いた。韓国出身の美大生、アメリカの大学に通っている音楽系の職種で内定している同い年。彼らのエピソードトークはどれも新鮮で、自分が経験したことのない事柄を体験させてくれた。兵役で北朝鮮に潜り込むための訓練をしていた話や、昨日内定式のために13時間空へ揺られて帰国した話など、自分にはない体験や感覚を当然のように語る彼らに、面白さと同時に憧れを覚えた。
たこ焼きを1皿しか食べずに会話をしていると、1時間が経っていた。後から合流する4人はまだ来ないがそろそろ会話の刺激にも満足し、帰りたくなる頃だ。人がいないのに席を占領しているため、店員さんにも露骨に嫌な顔をされ、急かされていた。
そこからしばらくして、4人が合流した。いかにも治安の悪い、チャラチャラしたやつらだった。嫌いなタイプだ。こいつらを待っていたのか。
彼らは空いている方のテーブルに座ったので、会話する機会はなかった。
ラストオーダーの時間だ。こちらのテーブルでの会話にも飽きた頃だった。ふと興味が湧き、軽薄なノリの中に身を投じてみた。外面の自分なら話が合うかもと考えたのだ。それに、自分には初対面の印象で相手の性格を断定し、人間関係を狭める悪癖があるため、それを少しずつ改善したかった。外面モードの自分は軽薄なノリで、明るく話す。そのノリは嘘ではなく、相手への気遣いを捨てた結果である。
彼らはその気遣いを捨てた方が仲良くなれそうだと感じたので、初対面なのにも関わらず高校生活を共にしていたかのような雰囲気で話しかける。やはり受け入れてもらえた。隣に座り、様々な話をした。互いの自己紹介や、ファッションのこと、中身のない話をたくさんした。ネイルも皆褒めてくれた。そこに世辞や偏見は感じなかった。
話していると彼らはとてもまともな感性をしていて、自分の偏見の強さを恥じると共に、ギャップの良さを理解した。
くだらないやり取りをしながら会計を済ませ、店を出た後「フリーLINEだよー 」などと言いながら、皆でLINEとインスタを交換した。店の前で11人がわちゃわちゃと騒いでいるので邪魔である。それに気づいたチャラそうなメンバーのうち1人がバニラモナカジャンボを片手に「邪魔だよーこっちいこー」と店の前から移動するよう呼びかけた。なんてまともなんだ。またしても裏切られた。ギャップだ。
そんなこんなで「また明日な!」と解散し、ホテルに戻ってこの文章を書いている。彼らが自分のことをどう思っているのかはわからないが、勝手に仲良くなれたと思っている。嬉しい。とても。
らしくない行動がきっかけでできた、らしくない縁。いい気分だ。
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