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愛のたね

「アレックス・ホルモジの成功の6段階かぁ。なるほど。私が成功できなかったのは、能力や努力不足じゃなくてドン底期を乗り越えられなかっただけの話かぁ。それなら、今度こそ上手くいく気がする!」

純資産1500億円のアメリカの若き大富豪、アレックス・ホルモジが提唱する成功の6段階についてのYouTube動画を見て、私はやる気に満ちていた。しかし、ほどなくして最初の壁にぶち当たった。

「う~ん…でも、何をすればいいかな…。私にできること、得意なこと…?」

私は人より秀でたことはない。興味を持つセンサーは敏感だが、次々に興味が移り変わるため、全てが中途半端に終わっていた。
歌手、舞台俳優、カウンセラー、ヒーラー、彫金作家、日本画家…夢を見ることに満足していたように思う。
忍耐力と継続力があれば一角の人物になれたかもしれないが、現実はそうではなくて、そんな中途半端な自分が恥ずかしかった。

ソファーに横たわり天井で回るシーリングファンを何気なく見つめていた時、突然、謎の声が聞こえた。

「今のままなら今度も絶対に失敗するよね」

心臓が飛び出たと思うほどの衝撃を感じた!
今の声は何!?家には私だけのはずなのに…
私はこわばった首を少しずつ声がした方へひねり、ゆっくりと顔を向ける。

!!!!!おっさん!!小っさ!!!!!

噂では聞いたことのある小さいおっさんが立っていた。

そのおっさんは茶色の革ジャンを着て、白Tシャツとジーパンというラフな格好をしていた。
身長は20㎝くらいで、鼻の下には口ひげがあり、薄い茶色の色眼鏡をかけていた。
あまりの衝撃で私は金縛りにあったかのように固まって動けない。

そんな私をよそに、おっさんは何事もなかったように普通に話しかけてきた。
「本当は分かってるでしょう?上手くいくなんて想像できないよね?」

カーペットの上にちょこんと立っていた小さいおっさんはチョコチョコと歩いて近寄ってきた。

「いぃ…ひぃぃ…」
やっとのことで口から出たのは、声にならない声だった。


引きつる私の顔を細い目で見ながら、おっさんは平然と続けた。
「そう驚かないでよ。大して珍しいもんじゃないんだから。それより、このままだと絶対に失敗するって意味が分かる?」

心臓の鼓動は速く、全身の血が頭に上っているようで考えがまとまらなかった。

「ふぇぇ…わから…ない…」

「まあ、そうか。確かに成功の6段階というのはあるよね。その法則を知ることでドン底の段階を抜け出して、成功への段階に向かえる者もいる。だけど、知ったとしても抜け出せず失敗を繰り返す者も必ず存在するんだよ。ちなみに、今の君は間違いなく後者。この法則だけに限らずさ、同じ情報を知ったとしても成功する者とそうでない者がいるのはなんでだろうね?」

少しずつ落ち着きを取り戻した頭で考えた。
人によって向いている方法が違うとか、情報を知るタイミングが関係しているのかなぁ…と呟くように答えると、おっさんは確かにそれも一理あるとしたうえで「だけど今の君は別の問題だね」と言った。

「君はさぁ、自分を好きかい?例えば自分の好きなところを10個挙げられる?」

突然の質問に私は言葉を詰まらせた。
自分のことは嫌いではないと思うが、胸を張って好きとも言えない。
好きなところ10個?そんなのすぐに出てくる人なんているのか?私は答えられなかった。

おっさんは続ける。
「質問に答えられないでしょ?そこがポイントなんだなぁ。知識があるだけじゃ不十分なのよ。絶望やどん底の段階に陥った時、自分のために踏ん張れるかどうか、踏ん張って耐えるだけの価値が自分にあると信じているかどうかが重要なんですよねぇ」

私が不思議そうな顔をしているのを見て、おっさんは例え話をしてくれた。
好きな人のお願いは何としてでも叶えてあげたいと思うが、嫌いな人のお願いには全く興味を持たない。
それと同じで、自分を本当に大切に思えていれば、大切な自分のために何をしてあげたいのか、幸せにするために今どんな行動が必要なのかを考えて実行に移せる(行動する力が湧いてくる)ということだった。
そして最後に「反対に自分のことが嫌いだったらどうだろうね?嫌いな自分の幸せを本当に願えるのかなぁ?」と問いかけた。

この問いに私は驚いて
「自分を嫌いでも自分の幸せを願わない人なんていないでしょう」
と反論すると、おっさんは笑いながら続けた。

「究極的な人生の目的は幸せになることだから、表面的にはそう思うかもしれないけどさ、無意識、潜在意識の領域になると話は別なんだよなぁ。表面上は幸せを望んでいても、心の底では不幸な状態こそ嫌いな自分には相応しいと抵抗する力が働く。まるでアクセルとブレーキを同時に踏んでるみたいな感じでね」

「だけどさぁ無意識で嫌っているのに、どうしたら自分を好きになれるのかなんて分からないじゃない…よく自分を愛せなんて言うけど、そもそも自分を愛するってどういうことなの?」

おっさんは、無理矢理に自分を好きになる必要はないと言った。
好きにならなきゃなんて思わずに、まずは自分を受け入れることから始めればいいのだと。
そして、自分の好きなところは答えられなかったが、嫌いなところはどうだ?と質問をされた。
中途半端なところや、考えすぎるところ、小心者なところなど、この質問にはスムーズに答えられる自分が少々悲しい…。

「ずいぶんスラスラ出てきたなぁ。その嫌いな部分も自分の一部として存在しても良いと認めることが、自分を受け入れるってことだよ」

「嫌いな部分があってもいいと認める!?そんなの直ぐにでも無くなって欲しいよ!だって嫌な部分なんだから。許せないところだから嫌いなんだもん!」私は興奮気味に反論した。

おっさんは鼻息荒い私に対し、笑いながら答える。
自分を嫌う気持ちは今の素直な思いなんだから、それ自体は大切な君の気持ちだよね?自分を受け入れるとか好きになろうとかの話になると、自分を受け入れる=どんな自分も否定してはいけないと誤解しがちだけどさぁ、自己受容とは否定している(嫌っている)自分も含めた全てを受け入れていいということなんだよ」

否定している思いを受け入れるのは、あくまで最初のステップであり自分を否定しているその本音に気づくことから始まると、おっさんは補足してくれた。

「じゃあ、私は自分の嫌いな部分や否定している気持ちもあると分かっている今の状態でいいってことか」

だけど、私は不安も感じていた。
今のままでいいなら何も変わらないのではないかと。
私は今の自分を変えたいと思っているのに何もしなくていいということなのか?

私の不安を察知したようにおっさんは、これから自分と向き合ううちに、隠された自分の部分に出会うことになると言った。
その時も、そんな部分もあったのかと気づくことが大切なんだと。
そして、今のままでいてもいいし、変わることを望んで自分と向き合い知っていくのもいい。
その選択は自由であって、私が何を望むか
によるという。

「そりゃ変わりたいに決まっているよ。今のままだと苦しいもん。でも、どうしたらいいか分からないし…。おっさんはどうしたらいいのか知ってるの?知ってるなら教えてよ。」

おっさんは、「おっさん」という呼び方が失礼だと言い、「なぎ健」と呼ぶように言った。
これだけの時間会話をしていて、ここで初めて互いの自己紹介をするなんて。

なぎ健は、1週間、自分を褒めて、労ってごらんと言った。

自分を褒められるほど良い行いをする機会はそうそうないので、この取り組みはハードルが高そうだ…尻込みをしている私に、褒めるために特別な行いをする必要はなくて、朝起きられた自分を褒める、歯を磨いた自分を褒める、朝食を作った自分に労いの言葉をかける、掃除をした自分…と、とにかく自分の一挙手一投足なんでもいいという。
それも声に出して、できれば体に優しく触れながらできればベストだと。

私はそんなことに何の意味があるのか全く分からなかったが、それが自分を好きになる方法の1つだと言うので、とにかくやってみることにした。
ふと、なぎ健に目を向けると何やらモジモジしている。

「ところで、ともさんよぉ~そろそろオイラにビールでもいただけないかのぉ?」

細い目を増々細めて美味しそうにビールを飲み干す、なぎ健は一体何者なのか?
私はこの時はまだ、この出会いによって人生がどう変わるのか想像もできずにいた。




おまけの話

ともとなぎ健の出会いの物語、楽しんでいただけましたでしょうか?

ここからは、本文の補足をお伝えしたいと思います。

文中に登場した目指したいことや叶えたい夢は、実際に私が興味を持って取り組んだものです。
しかし、どれも究めるほどの努力はせず、興味が次の目標に移り、中途半端に終わってしまいました。

少し前にアレックス・ホルモジの「成功の6段階」という法則を知り、成功の過程には必ず絶望期が訪れること、その時期を乗り越えれば成功の段階に進むことができると学びました。
この知識は現在の私にとって非常に有益であると確信しています。

しかし、昔の私が同じ情報を得ていても、結果は挫折していたでしょう。
今の私と以前の私の大きな違いは、自己受容と自己肯定の進展です。

プロフィールにも書きましたが、以前の私は自己肯定の意味を取り違え、ネガティブな感情を否定し、見ないようにしていました。
その結果、自分の本音が分からず、心が麻痺してしまったのです。

そこから様々な方法で少しずつ心の感覚を取り戻し、自分を傷つける言葉や否定的な感情が心に存在していることに気付きました。
これはまさに自分が自分に対してDVをしているようなものです。
24時間365日一緒にいる自分から常に監視され、非難・罵倒・批判され続ける…考えただけでもきつくないですか?

自分を傷つけていることに気づけたのは大きな成長の一歩だったと思います。
しかし、その次に直面した新たな課題は、自分を傷つけたり否定する行動をどうやって止めるかということでした。
この課題を克服するのは本当に難しく、様々なアプローチを試みても、何年も変化を感じられずに苦しい日々が続きました。
そして何年か経過した時に、明確な変化を実感できた方法が、自分を褒め、労うことだったのです。

あなたは自分に対して褒めたり、労ったりしていますか?

もし自分を褒めることに抵抗があるなら、まずは自分を労うことから始めてみてはどうでしょうか?
例えば、「今日は仕事に行けた。よし!」と、自分が達成したことを確認するだけでも十分です。
また、駐車場で運良く空きスペースを見つけられた時には、「ついてる!」とか「ラッキーだ!」と、小さなラッキーを大げさに喜んでみるのもおすすめです!

私も最初は半信半疑でしたが、とにかく1か月続けてみました。
お風呂掃除をした自分に「最高じゃん!」、料理をした自分に「やっぱ天才だわ!」、出勤した自分に「素晴らしい!」と、自画自賛を続けました。

すると、自分を否定し責める声が静まってきたのです。
そして、今では無意識に自分を褒めたり、労うことができるようになりました。
もちろん、自分を責める癖は完全に無くなったわけではありませんが、以前よりもずっと心が楽になりました。
厳しい監視官から解放されたのですから楽にならないわけがないですね。

もし、あなたが自分を嫌いで否定ばかりして苦しんでいるなら、一度試して欲しいです!
全ての人に有効かは分かりませんが、お金もかからず、ただ褒めるだけですから試さない手はないと思いますよ。

ちなみに、うまく褒められないとしても、自分を責める必要はありません。無理なくできる範囲から始めてみてください。
少しずつ自分に対する声がけが優しい言葉に変わっていくはずですから、焦らずゆっくり自分を癒してみてはいかがでしょうか?


冒頭に出したアレックス・ホルモジの成功の6段階について分かりやすいYoutube動画です!
とても興味深い内容ですよ。

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