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【感想文#05】『沖縄から貧困がなくならない本当の理由(樋口耕太郎著)』を読んで

 私が沖縄に持っているイメージとかけ離れていました。しかし読み進めていくと、厳しい視点や数字を紹介してはいるものの、著者である樋口耕太郎さんの沖縄への愛や感謝が溢れています。だからこそ、まず現状を把握する必要があるということでしょう。

 この本の裏付けとなる根拠がとても興味深く、私はそこにとてもひかれています。詳しくは書籍で確かめて欲しいですが、様々なメディアや書籍や研究を集めるだけでなく、自分の生活のなかから、職場の中から、そして沖縄のホテル事業再生にまつわる自らの体験の中から、まさに生の声が蓄積されているのです。

 私のイメージと違った沖縄の現実は、実はイメージと違っただけであって、人へ注目している部分に関しては、自分にも当てはまることが山のようにありました。

 そんな私だからこそ、好きな日に働けるフリースケジュールという働き方を始めましたし、もっと言うならばその中のルールとして『連絡をしてはいけない』という心理的な抑圧をなくすことを大事にしたのです(私たちの働き方の詳細はこちらを)。

 ということで前置きが長くなってしまいましたが、昨年『お金の学校』でもお世話になった沖縄大学准教授・樋口耕太郎さんの著書が刊行されました。早速読んでみたところ、これは多くの人に読んでもらいたいと思いましたので、私なりに紹介したいと思います。

援助

 本の序盤はこれでもかと沖縄の現状と、国からの援助資金や税制待遇の絡みをひも解いていきます。歴史的背景まで考えると苦しくはなりますが、もし沖縄の人のためにならない可能性があるならば、そのあり方をもう一度考え、未来を見据えた形にしていく必要はありそうです。

 それは全く逆の対応をされてきた自分たちの状況を振り返った時、この9年間の見え方があまりにも違ったからです。

 東日本大震災のあと、私は日本政府に見捨てられた と思っていました。

 宮城県石巻市にあった工場とお店は津波で流されました。福島原発事故の影響も考え、私たちは大阪に移住し再起を目指しました。知らない土地で工場や家を探すところから始まり、1億4000万円の2重負債を背負っての再スタートでした。しかし被災指定地を出たという理由で国からの援助は一切ありませんでした。

 国に対する怒りや恨みをもつと同時に、別の面では震災を経験したことで会社のあり方、人としての生き方を問い直しました。規模や売上よりも大切なものがあるのではと。

 私たちは食べものを販売する会社ですから、こだわりを明確にし、自分の家族や友人に食べてもらいたいと思うものを作り、自分の信じる経営や働き方を追求しました。樋口さんの愛のある経営と通じるものがあります。

 お客さんとの信頼は深まり、表面的な心地良い言葉だけを選ぶ人たちは逆に去っていきました。お客さんに助けてもらい、育ててもらっている感覚を持つとともに、対等である感覚もあり、それを誇りに思っています。

 実は来月には初めて自社工場が完成します。9年でここまでこれたが事が自分たちでも信じられません。

 国からポンと出たお金ではなく、取引先や、友人や、お客さんから助けてもらい、かつ自分たちでも最大限努力する両輪の関係がとても重要だったのだと、この本を読むことで確信しました。

 もちろん補助金がないと倒産という状況であれば話は別ですが、私たちはギリギリのところで何とか生きのびました。国や自治体に対しては一方的なライン引きだけでなく、ケースバイケースで対応していく柔軟さがこれからは必要と思います。納税者が納得できる税金の使い方を考え続けてほしいと思います。

 実は二重負債の返済がまだ終わっていません。新工場の新たな債務もできましたので、私たちの努力はこれからも必要なようです。しかし、この本のおかげでどうやらこれも悪いことだけではないなと、前向きになれました。


リーダー

 私は自分の生活を大事にできる働き方を追い求めているわけですが、この本で書かれている『リーダー』『自己主張』『いじめ』『できる人の処遇』などに関する沖縄の特徴は、実は大阪の小さなエビ工場の中でも同じような事が言えます。

 私はとにかく人の気持ちを深読みする癖があります。

 『そんな細かいところまで』とか『ちょっと考えすぎ』なんて言われるくらい、人がどう受け取るのか、感じるかを気にしており、本で紹介されている沖縄の特徴がとても他人事とは思えません。

 ただ、「じゃあ仕方ないね」とは思いません。そんな人間がどうすれば苦しまないで生きていけるのか、争わずに生きていけるのか、それを考えるのが国や自治体や大人の役目であって、職場であれば経営者や工場長の役目なのではと思っています。

 ただやはり沖縄の歴史や特別な問題が絡むことで他の都道府県と比べて難しさがありますが、突き放すことなく愛をもって焦点をあてているのがこの本なわけです。

 業種や地域などによって方法は異なると思いますが、まずはリーダーが変革の必要性を自覚することが大事です。じゃあ自分が変わっても仕方ないと思わないでください。会社のリーダーは経営者ですが、自分が生きる上でのリーダーは自分です。そこに気づくと見え方、考え方が大きく変わります。

 そのきっかけが沖縄、いや日本全国で必要だと思います。

 著者が昨年行った『お金の学校』はまさに参考にすべき取り組みのように思います。私も話をさせて頂いたので書きにくいところもありますが、樋口さんがこの人はと思う人達が沖縄大学で毎月授業を行いました。

 私も3時間近く話をさせて頂きましたが、会場からは途切れることなく私に向けて熱い視線がそそがれていました。何人もの方と直接話をしましたが、今この本を読んで振り返ってみると印象的な言葉をたくさんもらっていることに気づきます。

 通常私の講演の後は働き方の内容や、その経緯への質問や意見が多いです。ですが沖縄でかけてもらった言葉は少し違いました。

 『自分の言葉で堂々と話す姿が良かった』『あなたの本心がみえて良かった』だったのです。

 ただ、そう言って話しかけてくてた皆さんも、自分の職場の現状を自分の言葉で語ってくれたりと、いい時間でした。きっと樋口さんはそこを見抜いて私をよんでくださったのでしょう。

 今はリーダー気質のある人、物申す人は本土に行ってしまう傾向があるのかもしれない。きっとそれを止めることはできないだろうし、それでは根本の解決にはならないでしょう。

 だから増やすしかないのだと思います。自分の考えや気持ちを堂々とはなす事が当然で、情熱ある生き方を語るのも選択肢の一つになることを。どれが正解ではなく、選択肢を増やす方法が私は好きです。


 第4章から愛の話になります。樋口さんの真骨頂であり、自分の体験から溢れ出る言葉。

 自分を愛する力、すなわち自尊心がキーワード。

 自尊心とは、これまでの成功も失敗も、できることもできないことも、優越感も劣等感も、喜びも恐れも、カッコいい自分もカッコ悪い自分も、自分の好きなところも、そして嫌いなところさえ、全てを抱きしめる力である。
 それは自分を愛する力だ。(135ページ)

 私はというと、自尊心たっぷりで自分を愛しすぎるあまり周りから敬遠されることすらあり、でもそんな敬遠される自分もまた好きというスーパー自尊心な人間です。

 でも他人にNOを言えない感じはあるし、八方美人なところは強い。そんな自分は嫌いなので、やっぱり並の自尊心なのかもしれません。


 でも働き方を変える時だけは自尊心の塊だった気はします。NOも言ったし、まわりをあまり気にしませんでした。気持ちが切り替わると自尊心も変化するのでしょうか。

 好きな日に働ける「フリースケジュール」を始めることをお客さんに伝え、SNSでも紹介しました。すると『震災後の経営が危ない時にやめたほうがいい』『2代目のお前が初代の会社を潰すきか』『会社が従業員を縛るのはあたりまえだ』そんな言葉も返ってきました。

 でも私の心は1ミリもぶれませんでした。逆に従業員を縛ってまで私が会社を経営する意味はないと決心が固まりました。自尊心というより頑固なだけでしょうか、よくわかりません。

 そんなやりとりもあったので、『長男』『経営者2代目』に関して書かれていたことも印象的でした。

 長男としての在り方に関しては私の感覚とはかけ離れており、2代目としての気負いや重圧も私には全くありません。

 父が作り上げた会社のあり方や意義があり、母の食べものや環境への考え方があり、そこに私が考えた従業員との関係などが加わりました。その大事なことを貫くことで会社が潰れてしまうのであれば、それは仕方のないことだと完全に割り切っています。

 もちろん倒産となれば従業員や取引先をはじめ数えられないほど多くの人に迷惑をかけますが、そうならないように最大限の努力をしていますし、われわれのような小さな企業が生き残っていくには、大事に思う部分を大切にすることこそが要だと思います。

 これが前向きで自尊心があるということなんでしょうね、たぶん。

 そして『Aクラスの人材が誰を採用したがるか』『女性登用問題のみえない本質』など、自尊心から繋がる細かな話はどれも興味深く、やっぱり沖縄の問題というより、日本の問題だなと感じます。


関心への関心

 終盤は「人の関心への関心」という話に入っていきます。確かに人に対して意識はいっても、なかなかその人の感心ごとを意識することは少ないと思います。

 樋口さんがホテル事業の再生をする中で250名以上もいる全従業員と30分以上の話をしたとありましたが、まさしくそれは感心ごとに目を向けていったのだろうし、私も変革の際に一番最初にやったのは面談でした。

 もちろん聞くだけでは本当の意味で関心を持ったとは言えません。そこから何か行動にでて、そしてその後にもう一度話をすることでやっと関心の本質に辿り着けるようにも思います。


これからの沖縄の道

 この章に関しては、ぜひ著者の声に皆さんが自分でふれてください。

 今生きている一人一人が幸せに、苦しまずに淡々と生きていける社会を目指す中で、私は樋口さんにとても共感しています。だからこそ、この本を多くの人に読んで欲しいと思っています。大きな話題になる本と思いますが、その芯の部分が多くの人に伝わることを願っています。


最後に

 私たちの工場は7年前に働き方を一新しました。樋口さんの言葉を借りるならば、会社が一人一人の職場での関心ごとに関心を持つことで、従業員が自分の生活を大事にし苦しまず働けるような、そんな職場を目指してきました。

 おかげさまで経営危機になった工場を救う一因にもなりましたし、ここまで注目して頂けるようにもなりました。

 私たちの工場は誰一人解雇せず、現在でもその当時の従業員が半数以上残っています。それは人が悪いのではなく、仕組みが悪かったことを示している気がします。そこに気づいてからは、どんな状況の組織も変わることができるのだと希望を持てるようになりました。

 本書が沖縄にとってのなにか大きなうねりや転換点になるのではないかと期待せずにはいられません。

パプアニューギニア海産・工場長 武藤北斗

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