藤崎剛人

ドイツ思想史/公法学 連載コラム『現代ニホンの精神史的状況』 https://www…

藤崎剛人

ドイツ思想史/公法学 連載コラム『現代ニホンの精神史的状況』 https://www.newsweekjapan.jp/fujisaki/ 他にweb媒体・紙媒体ともに、様々な執筆活動や翻訳を行っています。

マガジン

  • 「思想が強い」映画評

    思想研究者による映画評、あるいは単なる映画感想文です。

  • お笑いについての話

    お笑い界や芸人について素人があれこれ論評するという芸人から最も嫌われるタイプのやつ。 今のところ不定期連載です。

最近の記事

「イメージ」選挙とメディアの怠慢

7月7日に行われた東京都知事選挙は、「イメージ」の選挙だったと言ってよい。 現職の小池百合子が都政をつつがなく運営できているという「イメージ」。 石丸伸二の改革者としての「イメージ」。 蓮舫の「左翼」または「怖い」という「イメージ」。 なぜ現職が圧勝したのか、なぜ石丸氏が得票率で2位になり、蓮舫氏が3位になったのか。メディアの分析や有権者に対する取材では、数々の「イメージ」が並んでいる。 特に現職の対抗馬となる石丸氏や蓮舫氏に対しては、ほぼ「イメージ」だけで選ばれた「印象」

    • 『虎に翼』の感想と今後に期待したいこと

      連続テレビ小説『虎に翼』を最新話まで追いついた。ちょうど第7週から第10週までを一気に見たことになる。注目したのは戦況が悪化していく描写で、物語の本筋は戦争とあまり関わりなく進んでいても、台詞の端々や背後で流れるラジオ放送、風景や服装、食事の情景などから、次第に戦争が日常へと侵食していく状況を描いている。 他の朝ドラをほとんど見たことがないので、この演出が定番なのかは分からないが、思い出したのが昨年見た映画『窓際のトットちゃん』の描写。 トットちゃんは何も変わらず自由に生

      • 映画記事一覧

        web媒体の仕事で執筆した映画評を一覧にしました。 読んでいただければ幸いです。 2024年 『オッペンハイマー』:被爆者イメージと向き合えなかった「加害者」 https://www.newsweekjapan.jp/fujisaki/2024/04/post-66.php 2023年 「男たちが立ち上がる『ゴジラ-1.0』のご都合主義」 https://www.newsweekjapan.jp/fujisaki/2023/11/-10.php 「LGBT理解増進法」の

        • 5/19ヘイトデモと管理する警察について

          5月19日の日曜日、「日の丸街宣倶楽部」というレイシスト団体が、埼玉県蕨市でヘイトデモを行うということで、カウンターに行ってきた。 蕨や川口など埼玉県南部でクルド人を中心とした外国人差別が激しくなっていることについては、以前『ニューズウィーク 日本版』のコラムに書いた。 https://www.newsweekjapan.jp/fujisaki/2024/02/post-65.php 日本における差別に対するカウンター行動といえば、いわゆる「しばき隊」から派生した「C.R.

        「イメージ」選挙とメディアの怠慢

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        • 「思想が強い」映画評
          5本
        • お笑いについての話
          2本

        記事

          立憲民主党の「消費税還付法案」を支持する

          最近の野党は、文字通り右も左も消費税減税を主張しています。これは考えてみれば不思議なことです。なぜなら、世論調査の結果から分かるのは、世論は消費税は上がるときは反対運動が広がるが、いざ上がってみると減税運動にはそこまで積極的にならない、というものだからです。2021年の衆議院選挙でも、消費税については特に大きな争点になっていたとは言い難いでしょう。もちろん消費税には逆進性があり、庶民の家計を圧迫する要因のひとつです。しかしながら、ほぼ全ての野党が減税にベットするような税制かと

          立憲民主党の「消費税還付法案」を支持する

          松本人志はお笑い界を支配しているか

           先日、オリエンタルラジオの中田敦彦が、お笑い界における松本人志の影響力を問題視する動画を出した。これに対して動画内で名前を出された粗品の相方のせいやが反応するなど、多くの芸人や著名人が言及する事態となっている。  中田の主張は、現在のお笑いジャンルのほとんどが松本人志によって牛耳られており、その枠内でしか芸人は評価されないため、お笑い界のイノベーションが起こらなくなっている、というものである。松本は漫才、コント、大喜利、トークといった様々な大会を「主催」している。面白いとは

          松本人志はお笑い界を支配しているか

          ウエストランドM-1優勝に寄せて

           2022年、ウエストランドが第十八回M-1グランプリ王者になった。このことは一般的には、「人を傷つけないお笑い」あるいは「コンプライアンスへの配慮」というトレンドの終焉であると捉えられている。しかし少なくとも5年以上前から「ソルジャー」(『ウエストランドのぶちラジ!』リスナー)である自分からみれば、そのような評価にはかなり違和感がある。   優勝以来、ウエストランドは様々なメディアでインタビューを受けているが、自分たちを反コンプラ時代の寵児として扱われることを井口はかなり警

          ウエストランドM-1優勝に寄せて

          革命と救世主

          宇宙小戦争  3月に公開された『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』は、1985年の旧作ストーリーを全体的には踏襲しつつ、幾つかの点で改変が見られた。「女の子を危険な目に合わせるわけにはいかない」から「君ひとりを危険な~」への台詞変更などジェンダー的視点からの改変もみられたが、根本的な作品テーマに関わる変更としては、巨大化が果たす役割の違いがある。  旧作では、巨大化はドラえもんたち及びピリカ星を救うための決定的な役割を持つ。今作でも、巨大化はドラえもんたちの生命

          革命と救世主

          文藝春秋digitalに論考を寄稿しました

          文藝春秋の方にお声がけいただき、論考を寄稿しております。主題は、今様々なメディアでブレイク中のひろゆき氏についてです。ぜひ読んでください。

          文藝春秋digitalに論考を寄稿しました

          『正論』8月号の三浦小太郎氏のコラムについての反論

           今年5月に『ニューズウィーク日本版』に書いたコラム「入管法「改正」案、成立すれば日本は極右の理想郷になる?」が、雑誌『正論』8月号に掲載された評論家の三浦小太郎氏の記事「ウイグル人救えた入管法改正案」で批判されていたので、簡単にだが応答してみよう。  まず、満州国の「多民族国家」性を肯定してみせたり、フランスの国民連合を極右として認めなかったりしているのは、いかにも偏向した「保守」的世界観であり、ご愛敬といった感じだが、ここでは特に触れない。  このノートで問題にしたいのは

          『正論』8月号の三浦小太郎氏のコラムについての反論

          7/3講演会情報

          7/3講演会情報

          プロフィール

          ・専門はドイツ思想史/公法学研究。 ・ブログ『過ぎ去ろうとしない過去』から、映画評や書評等を抜粋して載せております。 ・主なお仕事 「ノモスとアジール――尾高朝雄の法哲学についての試論」 「「正しい政治」を求めて――映画『バーフバリ』が描く国家・法・民衆 」

          プロフィール

          映画『デトロイト』あるいは人種妄想をめぐるグレートゲーム

          (この文章は、2018年2月12日に書かれたものです)  見る前に知人から胸糞映画だと言われて覚悟していたのだが、実際、胸がスッとするようなカタルシスは最後まで訪れず(史実に沿っているのだから仕方がないが)、見た後も頭痛がしてしばらく落ち込んだままだった。  この映画は黒人差別を扱ったものだが、その描き方については様々な観点から批判がなされている。たとえば古谷有希子は、この映画は公民権運動の一部としてのデトロイト暴動の背景や意味について触れることなく、ただその暴力性にスポッ

          映画『デトロイト』あるいは人種妄想をめぐるグレートゲーム

          円環と双極性――暁美ほむらの「叛逆」についての試論

          女は聖母になる。そして同時に魔女にも。                       ――カール・シュミット  魔法少女の運命、すなわち罪と罰のエコノミーに対して、純粋なる暴力がふるわれた。罪はまどかによって引き受けられた(annehmen)。それによってあらゆる罪は贖われた。つまり、あらゆる時間の魔法少女は、常にすでに救済されることになったのである――しかし、ほむらは自身のソウル・ジェムを自ら砕き、魔女となる。彼女は救済を拒む。「円環の理」の救済を。  なぜ?我々は今や新た

          円環と双極性――暁美ほむらの「叛逆」についての試論

          まどかの救済――あるいは背中のまがったこびとの話

           (この文章は、2011年4月25日に書かれたものです。)  2月のエントリ「約束された救済――『魔法少女まどか☆マギカ』奪還論」は、本編があのような結末をむかえたこともあって、大きな反響を呼んだ。もちろん、あのエントリは予測でも願望でもなく、魔法少女の理念をただ著しただけにすぎない。しかし、内心の予想以上にあのエントリとぴったりくる結末だったのをみて、本人が一番驚いているとともに、ベンヤミンと『まどか☆マギカ』の相性はよいということを、ますます確信するに至った。  ところ

          まどかの救済――あるいは背中のまがったこびとの話

          約束された救済――『魔法少女まどか☆マギカ』奪還論

           (この文章は、2011年2月23日に書かれたものです)  今、魔法少女―変身ヒロインとしての―概念は危機に晒されている。『魔法少女まどか☆マギカ』に群がるキモヲタとサブカル評論家たちは、魔法少女概念を蹂躙し、ずたずたに引き裂こうとしているのだ。それが最終回を迎える4月ごろには既に、この王国には荒れ果てた大地しか残されていないだろう。われわれは簒奪者たちの手から魔法少女概念を救出しなければならない。それも、正しい魔法少女概念を、である。そのためには、『まどか☆マギカ』の正し

          約束された救済――『魔法少女まどか☆マギカ』奪還論