『虎に翼』の感想と今後に期待したいこと

連続テレビ小説『虎に翼』を最新話まで追いついた。ちょうど第7週から第10週までを一気に見たことになる。注目したのは戦況が悪化していく描写で、物語の本筋は戦争とあまり関わりなく進んでいても、台詞の端々や背後で流れるラジオ放送、風景や服装、食事の情景などから、次第に戦争が日常へと侵食していく状況を描いている。

他の朝ドラをほとんど見たことがないので、この演出が定番なのかは分からないが、思い出したのが昨年見た映画『窓際のトットちゃん』の描写。

トットちゃんは何も変わらず自由に生きているのに、世の中がいつの間にか色鮮やかな世界からカーキ色に染まっていく。ナレーションではっきり説明されるよりも、戦争の不気味さがはっきりわかる。最初は目の端に映っていたにすぎない戦争が、次第に視界の中央を侵食していくのである。

『虎に翼』はある意味では主観的な戦争描写を行っているといえて、だからこそ戦後の、憲法を主観的にとらえ直す描写が実感をもって生きてくる。

ところで、日本国憲法が施行される直前に、日本国憲法から排除されてしまった人々がいる。朝鮮や台湾など、旧植民地の人々である。最後の勅令として知られる外国人登録令だが、旧植民地の人々に対する一方的な国籍剥奪は、現在にまで残る様々な差別的諸制度の源流となってきた。

既に指摘されていることだが、ドラマでは、この日本国憲法の裏で行われた民族差別について明示的に描写されることはなかった。崔香淑に関わるエピソードが不完全燃焼に終わったように、植民地の問題を正面から扱えないことに関しては、一つのドラマに求め過ぎだとは思いつつも、若干の物足りなさは感じてしまう。

ただドラマスタッフの動きを見るに、崔香淑の再登場は十分考えられる。恐らく朝鮮戦争絡みのエピソードがあるのではないか。朝鮮戦争から植民地の問題を問い直すのはハードルが高いが、そこまで描けるならこのドラマの評価はさらに高まるだろう。

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