記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

戦争について考える【大林宣彦監督映画『野のなななのか』レビュー】

いま、考えたいこと、想いを馳せたいこと。
私の心に添ってくれたのが、この映画でした。

鈴木光男の死をきっかけに鈴木家の面々が集まり、芦別の地で四十九日、「なななのか」を過ごした――。

2014年に公開された、大林宣彦監督の映画『野のなななのか』の内容を取り上げます。ネタバレを含みますのでご注意ください。


あらすじ:北海道・芦別を舞台に現代から戦争体験をたどる

まずはあらすじを見てみましょう。

ひとりの老人の死によって郷里へ集まった家族の姿と、その老人の人生に大きな影響を及ぼした戦争体験を通し、3・11以降の日本再生のあり方を問う。

この物語は、ひとりの老人が死ぬことで始まります。

92歳の元医者・鈴木光男の危篤の知らせを聞き、クラシカルで品の良い親族連中が冬の芦別の病院に集まります。

お通夜、初七日法要、そしてなななのかまで。
死者を送る儀式が進む中、生者と死者が時空を超えて交流することで、戦争経験者である光男の青春時代が次第に明らかになっていきます。

戦争や3・11が作品全体のテーマとなっていますが、芦別の美しい景色や、登場人物たちの面白みのある不思議なセリフの掛け合い・シチュエーションが、物語を穏やかに進めていきます。

感想

ここからは私なりの感想を書いていきます。
映画が気になった方はまず、ご自身で鑑賞することをおすすめします。

芦別という古里の牧歌的魅力

私がまず魅力的に感じたのは、芦別の風景の美しさです。

この映画では、風景を撮影したシーンが多く流れます。
北海道の四季折々の田園風景を長尺で贅沢に味わうことができます。

光男のひ孫・鈴木かさねは、そんな芦別の自然を自転車で駆け抜けたり、散策したりして彼女なりに楽しみます。

また、芦別に特有の郷土料理ガタタンをみんなで食べるシーンや、現在も残る炭鉱のすがたも観ることができ、炭鉱産業で栄えた芦別という土地の文化や歴史に想いを馳せることができるでしょう。

そうした芦別の現代の穏やかなすがたは、そのまま、作品のテーマにもつながります。

作品のテーマ 

それはずばり、反戦と平和の希求。
そのテーマが、この作品の主要なメッセージとして投げかけられます。

光男の死をきっかけに芦別に集まった面々は、光男が戦争を生き抜いたことで現在生きている。
今の日本も、平和だからこそ美しい風景が守られ、私たちはそれを享受することができる。
視聴しながら、それをひしひしと感じさせられました。

光男は医者を引退してから、星降る文化堂で古物商を営みます。
そこを訪れた光男のひ孫・かさねは、中に入り興味深げにこう言います。

ーー「入口から廊下まで本やがらくたでいっぱい」

またある人物はこう言います。
ーー「なんでもない普通のものばかりだけど、こういうものが戦争で焼けてしまった」

文化芸術や「なんでもなさそうなもの」を愛せる平和な環境があること。

この作品には、戦時中では叶わないことが今叶っているということのかけがえのなさを痛切に感じられるシーンが数多くあります。

戦争について考えるということ

戦争について、どこかで考え続けなければならない、忘れてはいけない、と思っているのに、もはや平和な日常の中では知るきっかけが少ない……。

これはこの作品の登場人物たちも同じです。
戦争を知らない世代も、光男の死があって様々なことへ想いを馳せるようになっていくのです。

死者を弔う儀式の期間の不思議な時間、なななのか。
それは戦争について考えさせられ、ひいては「人が生きるとは何か」「人はどこから来たのか」までも考えさせてくれるのです。

作品世界にぐいっと引き込む映像表現、独特のセリフ回し、生者と死者の入り交じる時系列も面白く、とにかく一度観てみてほしいと思います。

大林宣彦作品をほとんど観たことがない私にとって、とても新鮮な映画経験になりました。

私はまだ、この映画のほんの一部分、浅いところしか理解できていないような気がします。でも、意識の深いところへ訴えかけてくる何かがあり、確実に心動かされました。

二度、三度と観たくなる作品です。

まとめ

2024年7月18日現在、各種サブスクサイトで配信されているようです。
この夏、戦争を振り返る日にあわせて見ておきたい作品です。

ご覧になった方は、ぜひ感想をコメントを残してくださるとうれしいです。

作中に登場した場所・食べ物にまつわる記事

noteに以前投稿した記事は、こちらからご覧になれます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事がいいなと思ったらスキを、
購読したいと思ったらフォローをして次の投稿をお待ちください!

コメントも励みになります♪

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?