破局
その頃、彼と平日はほとんど顔を合わすことはなくなっていた。
休日も私は疲れて寝るだけ。すれ違いは続いた。
「そんなブラックな会社、辞めろよ」
「辞めてどうなるの?あなたには分からないよ。高卒で再就職って大変なんだよ!」
顔を合わせる度に、喧嘩になった。
それでも、同棲生活も3年を過ぎ、あうんの呼吸で通じる相手との生活はやめられなかった。
お互いに一緒にいる意味はあるのだろうかと考えていた時、事件は起こった。
いつも毎月ぴったり来ていた、私の生理が来なくなった。
私達は避妊していた。そんなはずはないと思った。
「子供は作るな」と言った、彼の父親の言葉が頭をよぎった。
このアパートは、彼の父親の承認あってのものだ。
どうしよう、追い出される。
もう私は成人した正社員で、1人暮らしもできるのに、そのことにも気づかないぐらい動揺していた。
なによりも、これから産まれるかもしれない子供よりも、住む場所のことを考えるぐらい親になる準備はできていなかった。
私が付き合ったのは、後にも先にも彼しかいない。
ここに赤ちゃんがいて、父親がいるとすれば、彼だ。
私は、彼に話すことにした。
でも、真面目に聞くのが怖くて少しふざけながら言った。
「ね、もしもの話だけど。赤ちゃんができたらどうする?」
彼は吸っていたタバコを落としそうになるほど、口を開けて驚いた。
そして真面目な顔をして、私を見た。
「・・・できたのか」
「え!できてないよ!もしも!もしもの話!」私は笑顔を作って言った。
彼は自分を落ち着かせるようにもう一度タバコを吸ってから、静かに言った。
「そうだなあ。・・・おろせよ。」
「え?」
想像もしていなかった答えだった。
優しい彼なら、責任を取ってくれるはず。
心のどこかでそう思っていた。
彼は、私の様子を見て、焦りながら言った。
「ていうか、俺達避妊してるし!俺の子じゃねぇよ、絶対」
「じゃあ誰の子だって言うのよ。私が浮気してるとでも?」
「え?怒るなよ!もしもの話だろ?え?まじか、親父に怒られる・・・」
結果的に、私は妊娠していなかった。
多分、働きすぎか何かで遅れただけだったのだろう。
でも、百年の恋も冷めた。
「悪かった。やり直そう。お前が必要なんだ」という彼のいつもの優しい言葉はすべて信じられず、
彼はまだ、親に頼る子供なのだと、頼りなくも思えた。
私は二人のアパートを出て、私達は破局した。
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