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【第6話】 はじめての参加・対話型園内研修①

いつも職員会議で使っているさくら保育園のホールで、園内研修の準備が始まった。ホールは150平米あり、幕のついた立派なステージもある。入・卒園式や、発表会などの行事はここで行われる。保育園の中で一番広い部屋であり、雨が降った時は各クラスが我先に使おうとして取り合いになる。

さくら保育園は、0〜5歳までのクラス(5歳児さくら組、4歳児ひまわり組、3歳児 ゆり組、2歳児すみれ組、1歳児ちゅーりっぷ組、0歳児たんぽぽ組)があり、子どもの定員は全体で110名である。
4・5年前までは待機児童解消のため、定員よりも多く子どもを受け入れていたが、昨年からは定員を越えることはなかった。むしろ年度途中に家族の引っ越し等で空きが生じることもあり、現在は105名になっている。

会場の準備は、栗田の指示通りに滝本真玖(たきもとまく)と、飛田虎太(ひだとらた)が職員に指示を出して行った。滝本は、新卒でさくら保育園に就職し、今年10年目を迎える乳児クラスのリーダーである。飛田は、滝本と同期だが、さくら保育園に就職する前に2年ほど幼稚園に勤めていた経験がある、幼児クラスのリーダーである。

ステージ手前にプロジェクターとスクリーン、そしてホワイトボードが設置された。そして、テーブルが5つ置かれ参加予定の職員20名は、ホールの入り口でくじ引きをし、4名ずつA〜Eの5つのグループに分かれて座った。
さくら保育園のこれまでの園内研修や会議では、テーブルをロの字に並べて座っていた。プロジェクターやホワイトボードなどを使用することもほとんどないため、いつもと違う環境に職員は少し戸惑っているようであった。

しかし、研修とは非日常の場であることが重要である。普段と違う環境にすることで、これまでの当たり前から脱して一歩を踏み出すことができる。保育においては環境を変えると子どもの新たな一面が見られるが、大人を対象とした研修も同じである。
栗田は研修において、「いつもと同じ」を壊すための環境づくりを意図的に行っていた。くじ引きによるグループ分けを行ったのもそのためである。

参加予定の職員がそろうと、栗田が口を開いた。
「みなさん、今日一日お仕事お疲れ様でした。そんな中、研修にご参加いただきありがとうございます。私は保育ファシリテーション協会から派遣されて来ました、栗田怜史と申します。大学卒業後、保育現場で5年ほど働いた後、大学院へ進学しファシリテーションを学びました。今は様々な保育現場にコンサルタントとして関わらせていただいています」
スクリーンに映し出されたスライドには、栗田の写真と簡単な経歴が映し出された。
「趣味は旅行です。特に船旅が好きで、先日もお気に入りのマウンテンバイクを持って沖縄に行ってきました。好きな食べ物は甘いもので、苦手な食べ物はしいたけです。よろしくお願いします」
随分個人的なことも話すのだなと、順子は思った。

「ストーリーで読むファシリテーション 保育リーダーの挑戦」一覧はこちら
https://note.com/hoikufa/m/mdab778217cb1

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