【第29話】リーダーへのヒアリング⑤
飛田が声をかけたことで、子どもたちの注目が一斉に夏子に集まった。なかなか話し出さない夏子であったが、子どもたちは日常の話し合いでもそうしているように、じっと待った。
「・・・・・走り終わった人がゴールをやる・・・」
絞り出すようにして夏子が言葉を発した。
「あぁ、なるほど!それなら全員がリレーに参加できるね」
飛田が感心して言うと、周りの子どもたちも夏子の提案に反応し始めた。
「じゃあさ、じゃあさ、スタートの合図はどうする?」
子どもたちは、この問題に突破口が見えてきたことで表情も明るくなったようだ。夏子も自分の発言が受け入れられた嬉しさを感じ、少し頬を赤らめ笑顔を見せた。
飛田と子どもたちのやり取りを少し離れたところから順子は眺めていた。
順子は、飛田と子どもたちとのやり取りを見て、感動していた。まさしく順子が実現したいと考えている子どもの姿がそこにはあった。飛田のことをリーダーとして頼りないと感じていた自分を恥じた。
そして、先日研修後に言われた、栗田の言葉を思い出した。
「いえ。伝えるのではなく、聴く時間を設けて欲しいのです」
「そうか」と順子は思わず声を出していた。
自分はこれまで滝本と飛田の二人のリーダーに話をするときは、いつも説得しようとしていた。自分の方が保育者として経験もあり、自信もあるため、いつも自分の正しさを伝えようとしていたのだ。それは「聴く」ことではなかった。
リーダーの二人には、私と違った思いや考えがあるのだ。自分はそれを全く尊重できていなかった。
相手の思いや考えを尊重することは、私も保育ではやってきたではないか。これからは職員に対しても同じようにやってみよう。少しずつ「聴く」ことにシフトしていこうと決心していた。
「ストーリーで読むファシリテーション 保育リーダーの挑戦」一覧はこちら
https://note.com/hoikufa/m/mdab778217cb1
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