【第24話】ファシリテーションとは
「栗田さん、少しよろしいですか?」
「どうしました?」
園の門を出て帰ろうとする栗田を、順子は呼び止めた。
「先程のことで、一つだけ気になることがあって」
「気になること?」
「ええ、リーダー会議についてです」
栗田から乳児・幼児リーダーを参画させる方法を検討するように言われて、戸惑った順子と油井園長だったが、その後、栗田からいくつかヒントをもらい、具体的なアプローチを検討することができた。そして、乳児・幼児リーダーと順子、油井園長を含めた四人でリーダー会議を行うことになったのである。
リーダー会議の目的は、「自分たちのリーダーシップをふりかえる」となった。人がリーダーシップを発揮する時、自分の経験や偏った知識に依存してしまう。つまり、カンやコツに頼ってしまう。さらに、リーダーシップに関してふりかえることもないため、軌道修正や改善がなされない。そのため、リーダー会議という、リーダー層が自分たちのリーダーシップについてふりかえる機会を持つことにしたのだ。
順子は思っていることを栗田に率直に伝えた。
「新たな会議の時間を設けることや、リーダーとしての役割を今以上に求めることは、乳児リーダーと幼児リーダーの二人に過剰な負担をかけるのではないかと・・・」
「なるほど。お二人の負担になることが心配なのですね」
栗田はしばらく腕を組み片方の手を顎に持っていって考えた。
「・・・水澄先生にお願いがあるのですが、リーダーへのヒアリングを行っていただけませんか?」
「えっ?」
「私が最初にこちらにお邪魔して実施したように、乳児リーダーと幼児リーダーお二人の話を聴いて欲しいのです」
「話を聴くというのはどういうことでしょうか?保育のアドバイスを二人に伝えることは、これまでもしてきましたが」
「いえ。伝えるのではなく、聴く時間を設けて欲しいのです」
「聴く時間?」
「そうです。二人のリーダーの話を聴いてください。今、水澄先生がおっしゃった不安も分かります。なので、実際に本人たちに話を聴いて確かめて欲しいのです」
そんなの聴かなくても分かる、と順子は思ったが、とりあえずやってみようと思えた。それは、今日の研修とその後のふりかえりの時間を通して、栗田の言う事に納得することが多かったからかもしれない。栗田が職員に対してできたことが、自分ができないのは悔しい気持ちもあった。
「わかりました。とりあえずやってみます」
「お願いしますね。では、次回お合いした時にご報告を楽しみにしています」
「ファシリテーションって、会議を円滑に進める方法だと思っていましたけれど、それだけじゃないんですね」
「そうです。ファシリテーションの目指すのは自立です。個人の自立、対人関係の自立、チームや組織の自立を目指して、必要な援助促進を行うことです。対症療法的なアプローチをしても、変化が一過性のものになってしまいます。水澄先生や油井園長、そして乳児・幼児リーダー、みなさんがファシリテーターになって、課題を自己解決できる組織・チームづくりができるようになることが、最終目標です」
栗田の言葉を聞いて、順子は考え込んでしまった。「ファシリテーションが目指すのは自立」と栗田言っていたが、本当にそんなことが可能なのだろうか。今の職員を見ていると、自立の程度は人それぞれだ。しっかり自立して仕事ができる職員もいる一方で、お世辞にも仕事の面で自立できているとは言えない職員も多い。栗田の言葉を半信半疑で受け止めている自分を順子は自覚していた。
栗田は、そんな順子の様子から気持ちを察し、声をかけた。
「いきなり結果を求めるのは難しいです。大事なのは、『できるかどうか』ではなく、『一生懸命取り組もうとする姿勢があるかどうか』です。その姿勢があれば、必ず一歩ずつ前に進んでいくことができます。一緒に園を良くしていきましょう」
その言葉を聞いた順子の脳裏には、学生時代の瑠璃の母とのやり取りが浮かんでいた。
「ストーリーで読むファシリテーション 保育リーダーの挑戦」一覧はこちら
https://note.com/hoikufa/m/mdab778217cb1
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