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掌編小説マガジン 『at』

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掌編小説マガジン at(あっと)。 これまで、ななくさつゆりがwebに投稿した掌編小説を紹介していきます。 とりあえず、100本!
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#カクヨム

情景275.「天境線」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「天境線」です。 地平線じゃないんだ? たしか、椎名誠のエッセイで昔、見かけたことがあって……。 とても好きな響き。 「天境線」というフレーズを、実際に小説の書きぶりのなかで使ってみたかったんです。 地面にではなく、天空側に着目したフレーズ。 これはこれで透き通った響きがして好きですね。 この言葉を見かけたのは、確か国語の教科書だったと記憶しています。 調べると、椎名誠さんの「遠く、でっかい世界」で使われて

情景133.「光の溜まる場所」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「光の溜まる場所」です。 シンプルに、こういう空間が好き。 胸がすくような。 ここに居たいと思ううちに、時を忘れてしまうような。 夏が来ますね。 ななくさつゆりです。 司馬遼太郎のエッセイ集、『以下、無用のことながら』に収録されているエッセイの中で、司馬遼太郎が博多の承天寺を尋ねた時のものがあります。 いきなり余談ですが、博多の承天寺、ご存知ですか? なにやら、うどん発祥の地、らしいのですが。 具体的に

情景55.「半ドン」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「半ドン」です。 覚えてます? 半ドン。 ウチのおひるはだいたい焼き飯でした。 半ドンって、もう死語なのかな。 半分ドンタク(お休み)の略。 小さかったころの私は、土曜日が好きでした。 まァ、大人になっても土曜日は好きなのですが、たぶん好きの理由が変化していますね。 土曜の正午あたり。 下校時間になって学校を出て、家路を辿ります。 家に帰ると、お昼ご飯が用意されていました。 我が家は結構焼き飯が登場しま

情景#04.「山林を抜けた先」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景・追録』から「山林を抜けた先」です。 足もとの土気とぬかるみ。靴底にはりつく赤土。 陽射しをさえぎり、風を通す木立。 山道、歩いてます? 山の舗装路をある程度登るじゃないですか。 すると、駐車場らしき広い場所に出ることがあって、そこに車を止めたとしますよね。 先には、丸太とか加工された木材でそれっぽく整えられた階段らしき坂道がある。 そこから先こそ、山の道。 山の土って、靴の裏とかに結構べったりつきますよね。 砂

情景236.「気だるい静けさ」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「けだるい静けさ」です。 ふしぎと、小雨や曇りの印象がつよい。 ここからあそこまで、結構離れているんですよね。 だからみんな、妙な静けさを保ったまま、じっと着くのを待ってる。 静けさにも色々。 耳がキィンと鳴るような、淀みのような静けさを感じたことってありますか? どこかぎこちなくて、なんとなく居心地がよくない。 だけど、やることは決まっているから、流れに沿って進んでいくだけ。 こういうとき、空はふしぎと

情景288.「人差し指と中指にだけ」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「人差し指と中指にだけ」です。 隙間から漏れ入るように差し込んでくる陽のひかり。 お気に入りの光のかたち。 私は、情景描写において光と風をよく使います。 光も影も、常に在るものですから、日頃ふと目に留まった光のかたちはなんとなく記憶してしまいがちで、地の文を書くときにそれを取り出し、文章にふりかけるように使ってしまうようです。 おかげで私は、手クセで地の文を書くと、光や風がつい出がち。 それで、光の話なの

情景141.「この子は笑いの沸点が低い」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「この子は笑いの沸点が低い」です。 学校の帰り道。押しチャリをして歩く男子女子。 ところで、笑いの燃費ってなにさ。 帰り道。たまたま女子と一緒になった……。 ホントにたまたまだったかは、ともかくとして。 話してはじめて知る一面って、いっぱいありますよね。 笑いの沸点低くしてどんどん笑っていく日があってもいい。 というわけで、よい一日を。 よく笑ってる女子の情景、お楽しみください。 ※※『あなたが見た情景

情景139.「目覚まし風時計」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「目覚まし風時計」です。 週末までがんばって、疲れた体を投げ出して寝て、次の日の朝。 風が額をやさしく撫でてくれました。 疲れて帰宅して、だらりと寝てしまって。 そのまま翌朝を迎えてしまった女性のワンシーンです。 でも、朝の風がきもちいから。 だから、今日は何をして過ごそうかと思ってしまう。 おたのしみください。 ※※『あなたが見た情景』は、目の前の景色を眺めるように情景を思い描ける、ちょっとしたお話の

情景72.「薄く伸びる雲の筋」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「薄く伸びる雲の筋」です。 白い雲の筋を目で追って。 どうやら飛行機雲らしい。 ただ、なんとなく気になって、眺めてみようと思った。 晴れ渡った日に空を眺めたひとの情景です。 飛行機雲をみかけると、つい先まで追ってしまうのですが、みなさんはいかがでしょうか。 では、たゆたいながら浴びる海と空がかさなるひとときをお楽しみください。 ※※『あなたが見た情景』は、目の前の景色を眺めるように情景を思い描ける、ち

七夕の風が坂を下る【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『七夕の風が坂を下る』です。 「でもほら、今日は七夕だから」 学校の帰り道。 夕暮れどきにふたりで坂を下る同級生のひと幕。 そんな掌編です。 彼はいつもそばにいたから、私がここにいる限りはコイツもきっといるのだろう。 そう疑わずにいられたあの頃。 当たり前だったこと。 当たり前でなくなったこと。 自分の心に整理をつける暇もなく、ただ目の前の現実があっという間に「当たり前」をそうでなくしてしまった。 それでも、 「ほら、七夕だ

大樹に立ち、青空を天に。【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『大樹に立ち、青空を天に。』です。 大樹から地べたを見下ろす誰かが、ひとり。 かすれていく記憶を胸に秘めたまま、眼下の在り様をありのままに捉えたショートショートです。 ……なんて、上記のような紹介の仕方だと、正直よくわからないですね! なんか、煙に巻かれてるような、わかるようでわからないような、でも、ホントそういうショートストーリーなんです。 読んでください! 「あとがき」にもこの旨をちょっと(いやかなり)率直に白状したのですが

薄れゆく夏の陽【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『薄れゆく夏の陽』です。 都会を「向こう」と呼び、故郷(こちら)に戻ってきた青年・染谷修司。 彼はそこで、女子高生の涼香と再会します。 都会を「向こう」と呼び、向こうでがんばってきた青年が、故郷(こちら)でのひとときを過ごすショートストーリーです。冒頭で、夏の夜の情感を味わってください。 実は、ほぼ4000字で〆ることを最初から決めて書いた掌編です。 なので、今こうして振り返ると、もうちょっとじっくり長めのお話にしてもよかったか

言葉が焚きつけてくる【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『言葉が焚きつけてくる』です。 焚きつけてくる、とは。いったい、何が何を? ぜひ、読んでみてください。 これは、創作活動を続けるとあるふたりのショートストーリーです。 創作をつづけていると、自分以外の誰かが手がけたものを、必ずどこかで見ることになりますよね。 時には自分の意思と関係なく、巻き込まれ事故のように、他人の成果や鮮烈な創作物を目にしてしまうこともしばしば。 自分が踏み込んだ分野で。 はたまた自分とは全く違う領域で。 奮

そばにいる彼は空気のようで【掌編小説 at カクヨム】

【カクヨム掌編小説】『そばにいる彼は空気のようで』 今回ご紹介する掌編小説は、カクヨムに投稿している『そばにいる彼は空気のようで』です。 いつもふたりでいるときの落ち着いた雰囲気がすき。 ふたりでいる時間が経つほどに、目新しさも新鮮味も薄れていくのかもしれない。 それでも、それは失くしてしまいたくない。 そんな彼と彼女の思いが穏やかに交差する、大人の恋愛掌編です。 なお、こちらの掌編ですが、ありがたいことに大変ご好評いただき、2021年に新潟のキャスdeわらしべ企画様の