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掌編小説マガジン 『at』

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掌編小説マガジン at(あっと)。 これまで、ななくさつゆりがwebに投稿した掌編小説を紹介していきます。 とりあえず、100本!
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#私の作品紹介

情景97.「半透明でおぼろげな」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「半透明でおぼろげな」です。 窓ガラスごしに眺める景色。 窓ガラスが反射して映し出すもの。 重なったときに生まれる情景のこと。 ずいぶんと静かな情景です。 雨が降る日にそれを眺めていただけの、それだけの情景を書き出しています。 ただ、個人的にはかなりお気に入りの情景。 この「半透明でおぼろげな」は、雨が街を潤す景色を眺める、というシーンを描いてみたくて書いたものです。 そうして過ごす時間の、静かでゆったりと

情景86.「夜陰の風」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「夜陰の風」です。 季節の移り変わりを肌で感じ取ること。 時を忘れ、ひとり過ごしているときにふと、気づいたもの。 私はこういう過ごし方が結構好きなのですが、ヒトによっては退屈なのかも? 私の擦り切れ愛読書の中で、司馬遼太郎御大のエッセイ集『以下、無用のことながら』という一冊があります。 擦り切れ愛読書って何かって? そりゃあ、擦り切れるほど読み込んだ書物のことですよ。 実際、繰り返し読み、付箋も張り、マー

情景236.「気だるい静けさ」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「けだるい静けさ」です。 ふしぎと、小雨や曇りの印象がつよい。 ここからあそこまで、結構離れているんですよね。 だからみんな、妙な静けさを保ったまま、じっと着くのを待ってる。 静けさにも色々。 耳がキィンと鳴るような、淀みのような静けさを感じたことってありますか? どこかぎこちなくて、なんとなく居心地がよくない。 だけど、やることは決まっているから、流れに沿って進んでいくだけ。 こういうとき、空はふしぎと

情景243.「霧雨の日」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「霧雨の日」です。 霧雨と、けぶるもや。 広がる海はもやに飲まれ、その先は不明瞭なまま。 先の見えない不明瞭さを、霧雨のもやを眺める男女の関係に重ねてみる。 長谷川等伯の松林図屏風。 けぶるもやと場の湿度を感じさせる、とても好きな情景です。 現物は以前、九州国立博物館の特設展でたまたま拝見することができました。 魅入っちゃいますね。 ぼんやりとしていて、曖昧な有り様。 ただ、先には何かがあるのだろうと、そう

情景10.「カフェの壁を飾るもの」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「カフェの壁を飾るもの」です。 カフェの情景。 文字通りの紅一点。あざやかに映えるものなんだなって。 紙の本には、読んで楽しむ以外にインテリア的なおもしろさもありますよね。 私自身、子供の頃から本棚というモノ自体が好きでした。 かつて、はじめて自分の部屋というものを与えられたとき、壁際には大きな本棚が備えついていました。 その本棚は、引っ越しの際に母方の実家から譲り受けたものだそうで、叔母の結婚の際に大工さ

情景230.「花粉症ではない」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「花粉症ではない」です。 花粉症ですか。 いえ、花粉症ではないですね。 そんなやり取りを繰り返す季節がきました。 ちなみに私は……花粉症ではないですね! 単に、鼻がツンツンするだけです。 私は花粉症ではありません。 単に、春になると鼻がツーンってなったり、たまに目がかゆくなったりするくらいで、花粉症ではありません。 「いやそれ、花粉症ですよね?」 それは呪いの言葉です。 単に鼻がアレなだけです。 なんて

情景234.「乳白色のレンガ」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「乳白色のレンガ」です。 お菓子作りに初挑戦。 バターと砂糖の量に最初はビビりつつ、食べるのは一瞬。 「大丈夫。すぐに慣れるから」 ……何に? そういえば、先日はホワイトデーでしたね。 最近はバレンタインもホワイトデーも、形式ばった「お菓子を渡す日」というより、その日にちなんだアクティビティで、その日自体を楽しむような、そんなコト発信的なイベントでゆるふわに親しまれている感じがしますね。 バレンタインは女子

情景49-50.「送り雪」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「送り雪」です。 浅い春のなごり雪。 出立する子を見送るために車を走らせる親。 送る人のそばに舞う、ちりのような。 晴れているのに、粉雪が舞っている。 まれにある不思議な天気です。 おかげで空気はつめたくて、ダウンジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、玄関を歩いて駐車場へ。 見送る人に寄り添うように。 そういうふうに舞うから、“送り雪”。 そんな情景をこの掌編にしたためました。 余談ですが作中では、

情景06.「待ち合い」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「待合い」です。 駅のホームとかバス停とか。 もはや根付いてしまった光景。 正直、どう思います? 私はもう、また新しい端末が登場するまで、このままなんじゃないかなと。 電車で新聞を読むひと。 バスで小説を読むひと。 イヤホンで音楽を聞くひと。 飛行機でタバコを吸っていたひと。 時代の流れ。 技術の革新。 時の流行り廃りに沿って、通勤通学時のスタイルは変わっていきます。 そのスタイルの中で、たまたま台頭して

情景35.「車窓。夕の家並み【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「車窓。夕の家並み」です。 “がたん、ごとん” “タタン、タタン” 多様なオノマトペで語られる、馴染み深いあの音をそばに。 こちらの掌編を読んでくださった方から、 という、とてもありがたいお言葉をいただけました。 馴染みある空間。 色や匂いを想起させる雰囲気。 共感性を誘ってくれるもの。 読んでいて情景がフィットするとでも言うような、そんな感覚を読んで拾っていただけた。 とても嬉しいことです。 電車が

情景32.「記憶のうるおい。放課後のこと」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「記憶のうるおい。放課後のこと」です。 放課後、日が暮れるまで学校で遊んでいた。 アスレチックに乗って、みんなで暮れていく“遠く”を眺めていた。 瑞々しい記憶。 と、あえて言ってしまいたいところ。 自分の中で息づく思い出の中で、妙にうるおいやハリのある記憶って、ありませんか。 私はあります。 まるで昨日のことのような。 風化した記憶の逆を行くのであれば、潤いのある記憶。 記憶の水槽から取り出して、ぷるん

情景143.「張り詰める姿への羨み」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「張り詰める姿への羨み」です。 第一線で仕事を果たす作り手。 その姿に胸を焦がされる見習いの子。 私自身斬りつけられるようだ。 何かを作り、いったんカタチになり、そのあと。 みなさんは何を思われますか。 どうします? 「よし! できた! 出来は最高! じゃあ今夜は打ち上げね!」 なんて風には、なかなか切り替えられないのが私です。 麦わらの一味みたいに「宴だァー!」ってわーっとやってみたい気持ちもなくはな

情景168.「寒いけど漕ぐ。連なって漕ぐ。」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「寒いけど漕ぐ。連なって漕ぐ」です。 冬はあっという間に日が暮れるから、学校の部活もすぐに終わっちゃう。 いつものように同じ部のメンバーで自転車を漕ぐ帰り道。 そんなとき誰ともなく飛び出た、ひらめくような一言。 私のところでは、「チャリ通」って呼ばれてましたね。 自転車通学(自転車で学校に通うこと)のことです。 通っていた高校は最寄り駅から歩いて20分くらいの小高いところにあって、チャリ通派と電車通学派の2

情景200.「時津風、晴れた先」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「時津風、晴れた先」です。 時津風(ときつかぜ)とは、いい頃合いに吹く風のこと。 ふと見上げたとき、見えない風が山頂の雲を晴らす。 その瞬間を切り取るように。 私の田舎は福岡の西の方にある糸島という地域です。 田舎ですが、歴史あり海あり山あり川あり食べ物あり公園あり何より福岡市の隣ということで、居心地のいいまちです。 先日まで帰省していて、今日また福岡市内の方に移動してきました。 帰省したら必ず散歩をする