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掌編小説マガジン 『at』

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掌編小説マガジン at(あっと)。 これまで、ななくさつゆりがwebに投稿した掌編小説を紹介していきます。 とりあえず、100本! ※2024.6.18 いったん目標の記事10…
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2024年2月の記事一覧

情景32.「記憶のうるおい。放課後のこと」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「記憶のうるおい。放課後のこと」です。 放課後、日が暮れるまで学校で遊んでいた。 アスレチックに乗って、みんなで暮れていく“遠く”を眺めていた。 瑞々しい記憶。 と、あえて言ってしまいたいところ。 自分の中で息づく思い出の中で、妙にうるおいやハリのある記憶って、ありませんか。 私はあります。 まるで昨日のことのような。 風化した記憶の逆を行くのであれば、潤いのある記憶。 記憶の水槽から取り出して、ぷるん

情景222.「待ち合わせ」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「待ち合わせ」です。 最近は“タイパ”なんて言葉をよく聞くようになったでしょう。 これを書いたころはまだなかったと思うんですけどね。 実際、3日前とかに予定を詰めようとすると結構しんどいものがある……のかな。 当日だとなおさら。(イヤではない) 物理的に可能かどうか以上に、「うぉっ」と思って断ってしまうかもしれません。(べつにイヤということではない) 私の場合、飲みの予定ならいつでもいいのですが、ある程度

情景143.「張り詰める姿への羨み」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「張り詰める姿への羨み」です。 第一線で仕事を果たす作り手。 その姿に胸を焦がされる見習いの子。 私自身斬りつけられるようだ。 何かを作り、いったんカタチになり、そのあと。 みなさんは何を思われますか。 どうします? 「よし! できた! 出来は最高! じゃあ今夜は打ち上げね!」 なんて風には、なかなか切り替えられないのが私です。 麦わらの一味みたいに「宴だァー!」ってわーっとやってみたい気持ちもなくはな

情景168.「寒いけど漕ぐ。連なって漕ぐ。」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「寒いけど漕ぐ。連なって漕ぐ」です。 冬はあっという間に日が暮れるから、学校の部活もすぐに終わっちゃう。 いつものように同じ部のメンバーで自転車を漕ぐ帰り道。 そんなとき誰ともなく飛び出た、ひらめくような一言。 私のところでは、「チャリ通」って呼ばれてましたね。 自転車通学(自転車で学校に通うこと)のことです。 通っていた高校は最寄り駅から歩いて20分くらいの小高いところにあって、チャリ通派と電車通学派の2

情景220.「遠出と葛根湯」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「遠出と葛根湯」です。 模様入りのすりガラスの窓、あまり見なくなりましたね。 確か、おばあちゃん家の窓はすりガラスだったかな。 古い旅館や和室にはすりガラスがはめてあるイメージ。 曇りガラスとも言いますね。 その不透明さが照明とも相性がよく、案外身近にあるものです。 また、最近はプライバシー保護にも活用できるとか。そういう観点もあるみたいですね。 それはそれとして。 私の場合、花や十字の模様が入ったすりガ

情景194.「朝、土鍋で炊飯」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「朝、土鍋で炊飯」です。 アク(灰汁)と戦うなんとやら。 灰汁、取ります? 私は場合によりけりかな。 土鍋でお米を炊く。 蓋を開けるとぶわっと湯気が立って、その奥で「米が立つ」というのを目の当たりにする。 ……本当に、湯気が「ぶわっと」あがるんですよ。ふわっとではなく。 最初はステンレス鍋だったかな。 高校生ぐらいの頃、母がしばしば炊飯器以外でご飯を炊くようになり、炊いた余りは冷凍して使う、といったスタイル

情景101.「空港のカーテンウォール」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「空港のカーテンウォール」です。 高い天井、好きですか。 私は大好き。 ガラス壁、好きですか。 それもかなり好き。 私にとって、空港は魅力が尽きない場所です。 ほどよい非日常感。 行き交う人々のそれぞれの“旅感”。 役割ごとにしっかりと管理された空間。 レストランが街場より輝いて見える。 カツカレーもいつもより2割増くらい美味しい気がする。 (お値段も2割増な気がしなくもない) そして何より、場の開放感。

情景246.「土曜日のお昼」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「土曜日のお昼」です。 さて。今日は何をしようか。 ほんのりウキウキとした感触を覚えながら、そう思える。 土曜日を、そんな軽やかな一日にしたい。 「足取りが軽い」と言うように、「指が軽い」と言えるような感じ。 覚えはありませんか。 原稿を作っているとき、私はしばしばそういう“感じ”を覚えることがあります。 体の調子に引っ張られるように、神経の張り巡らされたような感触を指先まで拾えるバイオリズム。 「調子がい

情景#03.「神社と寒の雨」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景・追録』から「神社と寒の雨」です。 雨がしとしとと降る朝。 ビニール傘を差して、傘布越しに空の薄鈍びた雲を見上げる。 ぱつぱつと耳に残る寒の雨。 曇り空。 ひんやりとした空気。 一晩中、雨を受けた街の空気は冷え込みつつも水気をたたえてしめっぽい。 そういう雨の日、私は結構好きです。 だれかと会話するとき、つい枕詞のように「せっかくの休日なのに雨で……」とか「雨、やーですね」とか「晴れるといいですね」とか言ってし