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終わる恋、始まる恋

''足元失礼しま〜す''

先輩の足元の引き出しを開けようとした。

…開かない

見ると、先輩がわざと膝で扉を押さえていた。

''ちょっと、やめてくださいよ。膝の皿割りますよ?''

''やめて(笑)''

たった数秒のやりとりが、こんなにもくすぐったいのは
わたしの気持ちが揺らいでいるからなのだろう。


恋の始まりは唐突だ
そしてまるで少女漫画のように
鐘の音が聞こえるのだから
ほんとうに不思議だね

先輩から頼まれて、退勤前にちょっとした掃除仕事を始めた。

始めたら、綺麗にしなければ気が済まなくなるのがわたしの性格なので
タイムカードを一度切って、作業を続ける。

自分の部屋はどんなに汚くても、みんなが使う場所は綺麗にしていたい、というのが先輩とわたしの共通点。

''なんでこんなことになるのかな〜あり得ないよね。こんな使い方するやつはアホだ!''

いつも温厚な先輩がちょっとだけ口悪く文句を言っていて面白かった。


15分ほど残って作業をして、キリがついたところで帰ることにした。

''雨降ってると思う?賭けようよ''

''降ってないですよ、わたし晴れ女なので''

''さすが、明るいもんね(笑)俺は絶対降ってると思う''

外に出たら少しだけ雨が降っていて、先輩の勝ちだった。

今日もまた、改札でお別れ。

しばらくシフトが被らないから、ちゃんと目を見て
''お疲れ様でした''と伝えた。

先輩も目を見て、手を振ってくれた。


紛れもなく、わたしの心は先輩の方に動いている。

だけど、わたしには今恋人がいて
先輩にも恋人がいる。

お互い、相手と冷戦状態であるとはいえ
関係が終わっているわけではない。

先輩と過ごす、こんなにもあたたかい時間が
この状態では''清いもの''ではなくなってしまう。

この時間も、この気持ちも、真っ直ぐに愛したい。

覚悟は決めた。

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