六花亭が好きすぎる話

【六花亭というおやつ屋さんへの憧憬を綴っているだけの雑文】

　六花亭ろっかていが好きである。

　マルセイバターサンドをご存知だろうか。北海道土産として大定番の、クッキーでバタークリームを挟んだ、あのお菓子である。もはや説明するまでもないだろう。ほろりと崩れるビスケットにホワイトチョコレートの香るバタークリーム、アクセントを添えるレーズン。完璧である。観光客のお土産として定番であるだけでなく、道内でも愛されているそうだ。
　世の中でいちばん好きなお菓子はと問われたら、私は迷わずマルセイバターサンドと即答する。賞味期限が短いおかげで爆買いせずに済んでいる。
　そして六花亭は、そのマルセイバターサンドを販売しているお菓子屋さんである。

　私は関西人である。人生の2/3以上を関西で過ごしている。住んだ地域も親戚もすべて本州内で、特に北海道に縁があるわけではない。しいて言うなら、幼馴染みが一時期札幌で働いていたことがあるくらいである。だがそうはいっても、マルセイバターサンドのことは彼女が札幌勤務になるより前から愛していたはずだ。いったいどこであの美味を覚えてしまったというのか、謎である。
　しかし。私がマルセイバターサンドのみならず六花亭それ自体のファンになってしまったのは、恐らくこの幼馴染みが原因である。

　ある年のことである。彼女が誕生日プレゼントを贈ってくれた。北海道から空輸されてきたのは、可愛い缶に詰められた六花亭のギフトセットであった。

　なんだこれは。
　可愛すぎる。
　美味しすぎる。

　季節によって絵柄の変わる、丸い大きな缶である。開けると、可愛いイラストや文字で彩られたお菓子たちがぎっしりと詰まっている。見慣れたマルセイバターサンドだけではない。えっ、このメーカーのお菓子ってこんなに種類があったの？
　六花亭とは地元民御用達のおやつ屋さんでもあるということを、そのとき初めて知った。
　素敵すぎる。この素朴で上品で美味しくて可愛いお菓子たちは、単なるお土産ではなく、地元密着で愛されているおやつなのか。

　お菓子の賞味期限は長くない。缶の中身を全部出して賞味期限順に並び替え、1日1つずつ頂いた。おかげで理論上の最長期間でお菓子を楽しむことができた。至福とはこのことである。

　気がついたときにはすっかりファンになっていた。
　どれくらいかというと、お取り寄せの送料を無料にするために職場で共同購入メンバーを募ったり、同封されていたハガキにファンレターを綴って送り返したり、お菓子の箱がたまりすぎて普通に収納に使っていたりするくらいである。具体的に言うと、お菓子の箱が5つ、大きな丸缶が2つ、掌サイズの小さな丸缶が2つある。いやさすがに多くないか？

　ところで、六花亭の実店舗には喫茶室が併設されているところがある。カフェではない。喫茶室である。良い響きである。
　取り寄せることは絶対に叶わない、現地でしか味わえない軽食やスイーツ。何年か前に札幌を訪れた際、店舗に行ったことはあるのだが、時間かなにかの都合で喫茶室に入ることは叶わなかった。だから余計に、憧れが募っていた。

　先日出張で北海道を訪れた際、現地の友人に頼んで喫茶室に連れていってもらった。
　遂に！　テンションが上がって写真を撮りまくってしまった。ただの観光客である。

クッションが既に可愛い

　まとまった人数で訪れたので、ピザを何種類か頼んでシェアすることにした。シェア。まことに良い響きである。憧れのピザはどれもこれも大変に美味しかったし、バタークリームの代わりにアイスを挟んだマルセイアイスサンドは予想を超える幸福感をもたらしてくれた。それにしても、お菓子のみならずご飯も美味しいだなんて、なんて罪深いのだろう、六花亭。

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　ピザを食べながら、誕生日に訪れると「ハッピーバースデー」を歌ってもらえるという話を聞いた。しかも、数人でコーラスしてもらえるとのこと。なんだそれは。聴きたすぎる。しかし私の誕生日までにはあと1ヶ月ほどある。無念。
　と思っていたら、なんと隣のテーブルがお誕生日様だったらしく、噂のコーラスが始まった。ハッピーバースデーってハモれる曲だったっけと思っていたのだが、品の良い歌声が聴けて大変満足した。

　帰りに、通販では買えない品物をいくつか店舗で購入した。もちもちで上品なおはぎ。ほくほくの栗きんとん。賞味期限の短さゆえか、店舗でしか買えないお菓子がある。これこそ現地訪問の醍醐味である。
　その日の私はたいそう幸せそうな顔をしていたそうである。

　六花亭のお菓子は空を飛ぶ。
　私のスーツケースに収まって西へ飛ぶ。
　北海道から遠く離れた私の家に、小さなおやつ屋さんが開店する。