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鴉というバンドの話

【最愛推しバンドのアルバムを紹介しているだけの雑文】

 鴉というバンドが好きである。

 それはもう、気が狂うほど好きである。というか実際人生を狂わされている。こんなはずじゃなかったのだ、本当に。

 鴉。
 秋田在住、秋田を拠点とするスリーピースバンドである。
 ギターボーカルの近野淳一をフロントマンに、何度かのメンバーチェンジを経て、現在はドラム・千葉周太とベース・古谷優貴の3名で活動している。秋田在住でありながら、東京や大阪までもやってきてライブを行うようなタフなバンドである。
 ギターボーカルの近野氏はギター1本での弾き語りライブも行っており、ソロでは九州辺りまで足を延ばしていたこともあるのだから本当にタフである。ちなみに主な移動手段は車だそうだ。

 曰く、「秋田発・激情激唱スリーピースバンド」である。
 激唱という言葉が本当にぴったりとあてはまる。喉の奥から激情を絞り出すようなシャウトだ。それでいて、伸びやかな高音も心地良い。というかそもそも音域が高い。私は女性だが、鴉の楽曲は高すぎて歌えない。私の音域が低いせいもあるのだろうけれど。
 こぶしのきかせかたやメロディラインは、どこか和の空気をまとっている。
 ところで私は「高音を掠れた声で苦しそうに歌う人」が好きなのだが、近野氏はそのお手本のような歌声である。あの色気はどこから来るのだろうか。

 歌詞はどこか文学的である。
 内に篭るような詞を激しい叫びで歌い上げられると、いっそ凶器のように思えてくる。あるいは、胸をきりきりとテグスで締めあげられているように苦しくなる。けれど時に、春風のような希望を歌うこともある。
 そんな世界観のバンドである。

 私が鴉に出会ったのは、2014年の春のことだ。
 鴉の結成は1999年なので、比較的日が浅いファンということになるのだが、そんなことなどお構いなしの勢いで転げ落ちていった。それはもう、これまでの人生で経験したことのないような速さと深さであった。

 せっかくだからこのバンドの楽曲をいろんなかたに聴いていただきたい、と思ってこの文章を綴っている。

 CDは廃盤になってしまっているものもあるのだが、便利な世の中になったもので、配信などで今でもほとんどのアルバムを聴くことができる。YouTubeにも公式で上がっている曲がいくつかある。
 少しでも興味をもってくださったらぜひ聴いていただきたい。そして、一緒に語りあえたら嬉しい。

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①『影なる道背に光あればこそ』

 2009年発売のミニアルバムで、初の全国流通音源である。今でもライブの定番として演奏されている曲が多く、なんだか歴史を感じてしまう。

 このアルバムから挙げるなら、やはり「爽鬱」だろう。静かな呟きのような歌い出しから一転、強烈なシャウトで叩き落とされる。この狂気に惹かれたら、きっと堕ちる資格がある。

 あとは「Am」だ。エーエムではなくエーマイナーと読む。コードの名前である。
 私はこの曲の「肩に手をかけるような言葉は好きじゃないだろ」という歌詞が堪らなく好きだ。肩に手をかけるような言葉。どんな言葉だろう。どんな言葉であったにせよ、その言葉をこんな表現で書き表してしまえるのは、なんというか、痺れる。

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②『未知標』

 これでミチシルベと読む。洒落がきいていると思う。
 鴉でどのアルバムから手を出すかと迷ったら、とりあえずこのフルアルバムを聴いてほしい。間違いない、絶対に。ドラマタイアップ曲の「夢」「巣立ち」が入っているうえ、私からの熱烈な支持を誇る超定番曲「黒髪ストレンジャー」が収録されている。ぜひとも聴いていただきたい。

 最愛曲「黒髪ストレンジャー」は、「あっという間に心は奪われてしまったよ」という歌詞で始まる。一目惚れを歌った曲である。そして、私が鴉に一目惚れした、因縁の曲でもある。イントロからして身体がリズムを取るのを止められない。大好きなのに、好きな理由を語ることができない曲だ。本当に好きな曲というのはそういうものなのかもしれない。

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③『感傷形成気分はいかが』

 名曲揃いのミニアルバムである。特に冒頭2曲「幻想蝶」と「居場所」が良い。私はこの2曲を、アルバムジャケットの画像とともに記憶している。どちらも、暗闇に煌めくステージライトのような青色の印象がある。

 ところで、「居場所」はライブで2曲目に入るのが至高の立ち位置だと思っているのだが、同志のかたは居ないだろうか。1曲目で上がったテンションを使ってその勢いで跳ねまくる、これぞ「居場所」の醍醐味であると信じて疑っていない。(イントロとサビでジャンプするのがお決まりなのである)

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④『天使と悪魔』

 フルアルバムである。ややポップな曲が多くて聴きやすいかもしれない。やはり良い曲ばかりで困ってしまう。

 これも冒頭2曲が好きだ。1曲目「演者の憂鬱」は、このアルバムの中でいちばん好きな曲である。のみならず、鴉の全楽曲の中でも5本の指に入るくらいに好きだと思う。イントロの「ラララ……」で悶えてほしい。もうここだけでくらくらするのに、歌い出してからがまた堪らない。Aメロの歌いかたが本当に色っぽいと思う。

 2曲目「花びら」。これもライブの定番楽曲である。「ベースで始まる曲」といえばこれ、という共通認識がある。個人的に、この曲の良さはライブでこそ際立つと思っている。Aメロを、やや舌足らずにおもちゃのような歌いかたをするのが良い。本当に良い。サビ直前で拳を煽って、爆発するように咲き誇るのが最高である。運が良ければ、ここでステージライトが色とりどりに咲き乱れるのを見ることができる。そんな照明さんには喝采を送りたい。

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⑤『終繕』

 しゅうぜん、と読む。どちらかといえばコア向けの曲が多いアルバムだと思う。
 これは「憧れ」を除いては語れまい。ライブの最終盤でぶちこまれて、演者と客の体力を最後の一滴まで喰らい尽くしていく凶器のような楽曲である。「えっこのタイミングでやるの!? 馬鹿じゃないの!?」と思ったことが何度もある。無論褒め言葉である。

 あとは、「愛の歌」にも触れておきたい。このタイトルからどんな歌詞を想像されるだろうか。「目と目が合うその度に/君が汚れてしまいそうで」と歌えるボーカリストは、なかなか居ないと思う。

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⑥『還り咲』

 かえりざき。2018年発売のフルアルバムだ。2014年に鴉と出会った私にとって、初めてリリースに立ち会ったアルバムだった。その意味で非常に思い入れがある。

 アルバム10曲の中で、四季が展開していく。そんな構成になっている。リードナンバー「桜」は春の曲だ。ギターと歌だけで始まる歌い出し。次いでずんと低音へ落ち、3人のコーラスが舞い上がって、更に激しく叩き落とされる。イントロの展開があまりに好きで、そこだけ延々と聴いていられるくらいだ。サビに至っては、ひらひらと散ってゆく桜の色が見える。

 あまり目立たないのだが、このアルバム内でどうしようもなく好きな曲がある。秋の「楓」だ。鴉の狂気を、じっとりと味わえる曲だと思う。「染まれ染まれ紅く/ご希望通り/風が吹いたら報われるのだから」などと歌われてしまったら。叩きつけるような音とともに、壊れた笑みで鷲掴みにされるしかないのである。

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 シングルもたくさんある。会場限定音源もある。まだ音源化されていない新曲もある。ここに書けなかった曲が数えきれないほどある。
 良かったら、これから一緒に聴いていただけないだろうか。そして語っていただけないだろうか。

 ライブハウスに行くのがなかなか難しいご時世だが、ツイキャスや配信で気軽にライブを楽しめるようにもなった。
 最近はTwitterの情報がいちばん早いので、この機会に触れてみてほしい。

 私は沼の底あたりで待っている。

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