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最後の20分の強度:川崎フロンターレ対鹿島アントラーズ(9月22日)<2>

 9月22日の川崎フロンターレ対鹿島アントラーズのレビュー2回目。1回目は、フィールド写真を元に両チームのフォーメーションを見てみた。

 いずれのチームも、攻撃時4-2-1-3、守備時4-4-2。
 対称的なフォーメーションではないという意味でミラーゲームではないのだけれど、どちらが攻撃側でも同じ形、どちらが守備側でも同じ形という興味深いかみ合わせだった。

 今日はこの試合をボール奪取マップを元に見てみる。ここでいうボール奪取は、文字通り相手からのボールを奪うこと。ただし、そのままタッチに蹴り出したり、アバウトなクリアは対象とはしない。キーパーがペナルティエリア内でボールを処理した場合も含まない。青字はボール奪取がシュートにつながったもの。その下にカッコ付で表示されている数字はシュートまでのパスの数。赤字は得点に至ったボール奪取。

フロンターレのボール奪取:ほぼ平均値だがシュート率が低下

 まずはフロンターレ。

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 合計で70。うち敵陣24(34.3%)、シュートにつながったもの4(5.7%)。前半戦の数字と比べてみよう(レイソル戦を除くホームでの試合のみ。以下同じ)。

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 前半戦のボール奪取の平均値が68.2だから、ほぼ平均。敵陣ボール奪取の平均値が39.6%なので、これについてはやや低くなっている。大きく低いのはシュートにつながったボール奪取。前半戦平均値が14.0%なので、半分以下になっている。

 なお、アントラーズとのホームでの試合は、ボール奪取合計80、うち敵陣が32.5%の26、シュートにつながったもの12.5%の10なので、やはりシュートにつながったものが大きく下がっている以外はほぼ同じ数字だ。シュートにつながるボール奪取は、田中碧が多く記録していたから、このあたりから田中碧の穴を読み取ることができる。

谷口彰悟復帰の重み

 個人別データも。
  谷口:16
  ジェジエウ:10
  登里:9
  シミッチ:9
  橘田:6
  山根:5
  旗手:4
  脇坂:3
  山村:3
  家長:2
  チョンソンリョン:2
  マルシーニョ:1

 最多は谷口彰悟。圧巻の16。谷口のディフェンスの特長は、アバウトなクリアが少なく、味方ボールにできることが多いこと。それが遺憾なく発揮されている。やはり谷口の復帰は大きかった(逆に言えば、不在も大きかった)。

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 このあたりは、谷口、ジェジエウが不在だったルヴァンカップのレッズ戦と比較してみるとよくわかる。


敵陣ボール奪取率とシュート率でフロンターレを上回ったアントラーズ

 一方のアントラーズ。

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 合計ボール奪取65。うち敵陣26(40%)、シュートにつながったもの6(9.2%)。ボール奪取自体はフロンターレよりわずかに少ないが、敵陣ボール奪取率は高い。それだけ、アントラーズの高い位置での強度の高いディフェンスが機能していたと言うことだ。

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 こちらも前半戦のデータと比較してみよう。

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 アントラーズの場合、前半戦の等々力での試合では、ボール奪取数こそ71で上回るものの、敵陣ボール奪取はわずかに22.5%。それと比べると、9月22日の試合でははるかに高い位置でボールを奪取していたことがわかる。そもそも、敵陣ボール奪取率とシュート率の双方でフロンターレを上回ったチームは、自分が観戦してデータを取った試合の中では存在しない。フロンターレにとってやはり厳しい試合だったと言うことだ。

ディフェンシブサードまで攻め込まれてのボール奪取の多さと、70分以後の形勢逆転

 どのような厳しさだったか、フロンターレをもう少し細かく見てみよう。もう一度全体を見てみる。

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 敵陣ボール奪取率は34.3%だから、極端に悪いわけではないが、自陣でのボール奪取位置を見ると、ペナルティエリア内7を含め、ディフェンシブサードまで入られてからのボール奪取が多い。アントラーズにそれだけ攻められていたと言うことだ。

 前後半に分けてみてみよう。

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 前後半を並べてみて気づくのが、後半の方が、ボール奪取位置の分布が広いこと。これは前半がコンパクトな陣形での中盤での潰し合いに終始していて、後半になってようやく両軍とも攻撃の形が作れてきたことを反映している。

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 後半を見てみると、自軍ペナルティエリア付近でのボール奪取が多いが、面白いことに敵ペナルティエリア付近でのボール奪取も多い。シュートにつながるボール奪取は後半にしかなく、しかも決勝点もペナルティエリア付近でのボール奪取によるものだ。一方、前半は敵ペナルティエリア付近でのボール奪取がない。

 そして敵ペナルティエリア付近でのボール奪取は70分以降に集中している。この点は、速報レビューで指摘した、交代選手が、チームの戦い方にフィットした形で高い強度のプレーを見せたことによると考えられる。

 

アントラーズのカウンターの刃と、70分以後の形勢逆転

 アントラーズのボール奪取も前後半に分けてみてみよう。

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 アントラーズも、後半になって分布が広がっているのがわかる。ただ、敵ペナルティエリア付近でのボール奪取は少ない。後半になって、シュートにつながったボール奪取が5個あるが、自陣ペナルティエリアが1つあることを除けば、いずれもハーフライン付近でのボール奪取だ。

 アントラーズ戦をライブ観戦するたびに思うのだが、プレスの時でもカウンターの時でも、アントラーズの選手は最初の2、3歩の加速が早いと思う。

 何か特別なトレーニングをしているのではないかと思っているが、この試合は特に、ボールを前を向いて奪取すること、そして前を向いて奪取できそうなときには近くの選手はボール奪取を待たずしてスプリントをかけることが徹底されていたように思う。

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 ハーフライン付近でボールを奪取されると、あっという間にゴール前まで攻め込まれてしまう。フロンターレは、前後半を通じて、この手数をかけずにスピードに乗って仕掛けてくるカウンターに手を焼いた。アントラーズの先制点はまさにこの形から取ったものだ。

 一方、70分以後、自陣ボール奪取位置が後退していることも顕著に見てとれる。

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 このことから、フロンターレの交代選手の働きでプレーエリア自体が押し込まれていたことがわかる。

勝負の決め手は交代選手だった 

 こうしてみると、やはり印象通り、70分以後、フロンターレが優勢にゲームを展開していたことがわかる。4-2-1-3対4-4-2の戦いの中で、最後に勝負を分けたのは、終盤に投入された前線の選手たちのプレー強度の差だった。

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(終わり)



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