で、何を歌うの?<演奏曲解説(1)>
いままでバンドやグループでしか音楽をやってこなかった51歳が、人生で初めて単身弾き語りライブ(5月4日・土 14時スタート/会場:DOMA HACHIOJI)に挑むにあたり、『どんな準備をしているのか』を書き残している当マガジン「弾き語り始めました」。本番が今週末に迫るなか、演奏予定の曲について語っていくことにする。
ライブで演奏する曲は「当日までのお楽しみ」というのが普通だと思う。でも、初出しの誰も知らない曲がほとんどなので、すべて明かしたところで新鮮味は変わらない。ということで、積極的に演奏曲目の情報を明かしていく。プロミュージシャンのように誰かが取材してくれたり、評論家が解説してくれるわけでもないので、自分から紹介していくスタイルでいかせてもらいたい。
歌詞を書き始めたのは高校時代にオリジナル曲を作るようになってから。授業中、ノートの端に稚拙で直情的な歌詞を書きなぐっていた。当時のノートの切れ端は、いまもファイルにパンパンに綴じてある。先日読み返してみたら、照れ臭いのを通り越してなんだか微笑ましかった。
20代後半から40代にかけては、気恥ずかししさから直情的な歌詞は書けなくなった。物事の一面をとらえた説教くさい歌のうすら寒さを見抜ける年齢にもなっていたので、そういうこともしたくない。ラブソングをさわやかに歌える年齢でもないし、だからといって大人びた情愛を歌えるキャラじゃない。などなど、年齢を重ねて変に知恵がついてしまったせいで長い間「曲はいくらでも書けるけど、歌詞が全然書けない」という状況に陥っていた。
しかし、51歳になったいま、弾き語りのために作詞をしてみたところ、思いのほかスラスラ書けた。びっくりだ。年齢を重ねて気負いがなくなったからなのか、少年漫画の主人公のような言葉も、幼稚なラブソングも不思議と照れずに書ける。10年前には生々しくて言葉にできなかったネガティブな出来事も、いつの間にか題材として扱えるようになっていた。「一周回って」というやつなのかもしれない。こんな風に楽に歌詞を書けるようになるのだから、年齢を重ねるのも悪くないと思える。
さて、前置きが極端に長くなったが、ここからは5月4日のライブで演奏するオリジナル曲の紹介をしていく。まずは1曲目「俺は俺の歌を歌う」という曲から。
【解説】 所属しているサンバチーム「サウーヂ」が、2023年の浅草サンバカーニバルに出場するにあたって「Eu Sou Saúde」(私はサウーヂ)というテーマでパレード表現に取り組んだことに刺激を受けて、「俺も俺の歌を歌わなきゃな」という思いに。弾き語りをやろうか、どうしようかと、まだ悩んでいた2023年の8~9月頃のある日、八王子市堀之内の「すき屋」付近を原付で走っている最中に、ふと「俺は俺の歌を歌うぜ」というフレーズとメロディーが同時にひらめいた。すぐさま原付を停めて、安全な場所でスマホのボイスメモに天から降ってきたばかりの鼻歌を吹き込み、後日、曲の全体像を固めていった。
何をもって「俺の歌」なのかはともかく、まずは決意表明しようと思い、最後まで作り上げた。曲調は、ザ・ブルーハーツか、JUN SKY WALKER(S)か、といったアップテンポなパンク。平成を経て令和となったいま、同世代の人にとっては懐かしさがあるかも。少し前ならこれほどストレートな曲は気恥ずかしくて歌えなかったけれど、年齢が重ねたいまだからこそ思い切って歌える。
お次は「きみのために僕は祈る」という曲。
【解説】 私がボーカルとベースを担当する「青のクラウン」というバンドが2014年夏にリリースしたアルバム「MOON DISC」の収録曲。元のタイトルは「I Pray for you」だったけど、弾き語りで歌うにあたって題名を日本語表記にした。手掛けた当時は、本当に歌詞が書けず、収録した全13曲の歌詞は「世界が終わりを迎えるなか、少年たちはどんな青春の日々を送るのか……を描いた近未来SF物語」みたいな設定をイメージして、やっとの思いでひねり出した。
そんななか、本作はもっともSF感が薄い一作で、「僕には何もできないけれど、歌を通じてきみの幸せを祈ることならできる」というのがざっくりとした内容。ずばり「祈り」が題材である。一説によると、地球上の動物のなかで、人間だけが唯一誰かのために『祈る』のだという。離れ離れになってしまった恋人、違う道を選んだ仲間、遠くで暮らす家族の幸せを、私たちは祈る。
応援しているスポーツチームの健闘を願って大声で歌う「チャント(CHANT)」も、その意味は「祈りを込めた詠唱」であり、単なる応援歌ではない。私自身、関東女子フットサルリーグに籍を置くフットサルチーム「VEEX TOKYO Ladies」の応援席で、太鼓を叩きながらチャントを歌い、選手たちを鼓舞してあちこちをめぐっているし、サッカーではFC東京のゴール裏に通っていた時期もあって、チャントには非常になじみがある。本当かウソか、選手たちからは「応援してもらえたおかげで頑張れました」という声をよく聞く。サポーター冥利に尽きる。これが本当なら〝祈り〟が実を結ぶ経験を何度もしてきたことになる。科学的に考えるなら、祈ったところで何もならない気はするけれど「祈りの力ってバカにならないんじゃないだろうか」と思える。
この年になったからなのか、神社にいって手を合わせたり、先祖の墓参りにいったりすると心が安らぐようになった。また、天皇陛下の最大の仕事は、日本国の安寧を祈ることだという。祈りの力で国を守ってきたという逸話を見聞きすることがあるが、そういう話は嫌いではない。誰かの無事を祈る、健闘を祈る、平和を祈る、祈りを通じて尊い先人と心を通わせる、など、私たちは思いのほか頻繁に祈っている。
歌詞を書いている最中は無意識だったけれど、「MOON DISC」のレコーディング時にこの曲を歌っていて、泣けて泣けて仕方なかった。自分で書いた歌詞なんだから、感情移入できるのは当たり前なんだけど、自分自身の心と体にこの歌が共鳴する感じが絶妙で「この曲を歌うために自分は音楽をやってきたのかもしれない」とまで思えた。今回「弾き語りをやろう」と思えた背景には「この曲を歌いたかった」という一面もある。
ライブの一曲目で「俺は俺の歌を歌う」と高らかに宣言し、2曲目は自分のテーマソングともいえる「きみのために僕は祈る」を歌う。初の弾き語りだからこそ、どうしてもこの並びでライブをスタートさせたいと思った。
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