『優等生サバイバル(ファン・ヨンミ 作 / キム・イネ 訳)』を読む(2024年青少年読書感想文全国コンクール課題図書)
普段は近代文学の本を読んでいることが多いのですが、夏休みといえば、学生の皆さんには「読書感想文」の課題が出ているはず。
ということで、読書感想文を書くのに苦労されているかもしれない皆さんに向けてのnoteを書いています。
まず1冊目は、『優等生サバイバル(ファン・ヨンミ 作 / キム・イネ 訳)』。評論社から2023年に発行された本です。2024年青少年読書感想文全国コンクール課題図書、高校生部門の課題図書になりました。
日本より受験戦争が激しいと聞く、韓国の高校生たちがそれぞれに抱える悩みや葛藤が、生き生きとした生活の中で描かれる物語。
主人公は、名門高校に入学して、すぐに1位をとった秀才のジュノです。 女の子から注目されるポジションに、何でも話せる親友もいる。そんな彼でも、人生は決して順風満帆じゃない、と言います。
成績優秀で入学したのに、成績が振るわないと学校の先生から興味がないように扱われる。
病気療養して田舎で暮らしている両親と離れ離れの生活。
睡眠不足になるまで勉強していても、高額な塾や家庭教師をつけている同級生に、簡単に追い抜かされてしまう。
休みの日は、ボランティアやサークル活動で休む時間もない。
人並みに、人並み以上に頑張っているはずなのに、報われることがなくて。日々の課題に追われて、将来の夢も薄れていく毎日……。
高校生はもちろん、社会人になっても、苦しんでる人が多そうな問題が山積み……文字にしてみると、みんな本当によくやってるなぁ、って、思わず思いました。
優等生であること、努力することが当たり前になっていて、手の抜きどころがわからない。そういう状況が続くと……いずれ、破綻してしまう日が来ます。
ジュノは定期考査に怯えて、あまり眠れなくなってしまい、試験の点数が伸びない、という課題に直面しました。
中学の間はなんとかできていたのに、高校に上がって、周りのレベルが上がったことで、自分の良さが消えて、欠点だらけみたいに感じてしまう。
周りの学生たちがうらやましい、自分と誰かを比べて、勝っているところを見つけて、安心したい。そんな気持ちに気づいて、恥ずかしくなる。
そこから目をそらそうとして、また、自分の首を絞めてしまう……僕にも覚えがあります。
ジュノは、離れて暮らしているけれど、自分の頑張りを応援してくれる両親と再会して、大きく自分を変えることを決断します。
ジュノのお母さんは、日々を過ごすだけで精いっぱいになっているジュノに、素敵な言葉を教えてくれました。
サン=テグジュペリの、祈りの言葉だそうです。人生には、あらかじめ負けることも規定値として存在している。
そう思えば、少しは気が楽になるけど……ジュノは、それでも負けたくないといいます。
そんなジュノの心を支えてくれたのは、同じ部活の仲間たち。
ジュノは、誰かと話すだけで、一緒にいるだけで、気持ちが楽になることを知ります。
絶対に勝てない相手、諦めないといけないことって、きっと誰の人生にも存在している。敗北の悔しさはなくならないけど、せめて自分らしく生きることができたら、望む未来に近づける。
その先でまた会おうねと、ジュノの友達が語っていました。
ジュノが物語の後半で呟く、「どうか実力の分の結果が出せるようにしてください。実力以上の結果は望みません。ありのままの結果なら受け止めることができます」という祈りの言葉にも、同じように、自分の人生に向き合おうとする決意がこもっています。
僕がこの本を読んでよかったと思うのは、試験前の神頼みや、どうにもならない時の「祈り」は、韓国の高校生たちにも共通なんだなぁ、ということです。そして、海の向こうには過酷で、でも楽しい青春を送っている、高校生たちがいること。 自分の高校生活に、これからの未来に悩む人に、ぜひ読んでほしい一冊です。
『優等生サバイバル』は優等生の主人公が、自分の立ち位置からドロップアウトしてもいいのか、という悩みもお話の主軸のひとつになっています。そこで、真逆の立ち位置ながら、自分らしくドロップアウトの道を歩んでいく、格好のいい主人公が出てくる作品を、一緒にご紹介したいと思います。
『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(J.D.サリンジャー 著 |村上 春樹 訳)『ライ麦畑で捕まえて』の名前でもよく知られていますね。
学校を退学し、家に戻ろうとするホールデンが語るのは、彼にとっての「本当の話」。世間に逆らって、人の目に抗う。優等生とは真逆ながら、自分の言葉で考えて、歩き続ける主人公。彼の生き方そのものが魅力です。
そしてもう一つ、おすすめの本が『女生徒』。『走れメロス』『斜陽』『人間失格』で知られる太宰治の作品です。学生の女の子がもつ瑞々しい感性をそのまま写し取ったかのようなこの作品は、あの川端康成でさえ賞賛しました。
この作品が書かれたのは、太宰治が30歳の頃。
よく知られているように、太宰は自身のファンだった女性の日記をもとに作品にしたそうですが、少女の移り気でとりとめのない思考と、規律正しい行動の境界が丁寧に描かれています。
例えば、家族に代わって家事を担っているシーン。
お客さんに出す料理の内容を考える描写や、真夜中の洗濯中にほかの世界で同じような境遇の人を思う彼女の気持ちに、温かで、少し悲しげなものを感じます。ひとつひとつの動作、時間帯まで、一日の生活を完璧に計算されているのは、働かなければ生きていけない、少女の悲しみや憤りの裏返しです。
時間の流れを止めてしまうほど緻密な描写は、その瞬間ごとに、その人の人生を切り取っているのかもしれない、と思いました。読み進めるごとに、少女の人生を応援したくなる作品でした。
どちらの本も名作なので、お時間があれば読んでみてください。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
※掲載にあたり、評論社様より画像借用と引用の許可をいただきました。
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