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インターネット広告の過去と未来が見えるIR情報の歩き方

■IR情報とは

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IR(インベスター・リレーションズ)とは、企業が投資家に向けて経営状況、財務状況や業績動向の情報を発信する情報提供活動を行うことを指します。「投資家向け広報」とも訳されるIR情報には、決算報告(決算書、決算説明会、決算説明会資料)の開示が含まれます。近年では、四半期ごとの決算発表に合わせて様々なコンテンツが追加され、マーケティングコミュニケーションを兼ねた取り組みとしてわかりやすさを重視した補足スライドの作成に力を入れている企業も増えてきています。※後ほど一部のスライドをご紹介します。

■IR情報の特徴

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公式文書として開示されるIR情報の特徴としては「正確性の高さ」「鮮度の高さ」「網羅性の高さ」の3つが挙げられます。IR情報に目を通すことで企業の将来の展望や経営計画を理解したり、事業内容を理解するのに役立ちます。いわゆる広告媒体資料と比べて広告事業問わず「網羅性が高い」という点が最も異なる性質と言えるでしょう。

■決算書とは

一般に決算書と呼ばれるものは、正式には財務諸表と呼ばれるものになります。財務諸表とは、企業の経営成績や財務状態等を明らかにするために作成される書類を指します。財務諸表はいくつか種類があります。中でも「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュ・フロー計算書」は財務諸表の代表格として財務三表と呼ばれています。財務三表を総合的に読み解くことで、企業の「収益性」「安全性」「資金繰り」を把握することが可能になります。

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【引用URL】株式会社 東京商工リサーチ 決算書とは

■広告担当者が優先して押さえたいソース3選

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もしあなたが株主といった利害関係者であれば、財務三表を始めとした決算書すべてに目を通す必要があるのかもしれません。しかし、私のような広告担当者が広告媒体の広告収益を知りたい場合は決算書の中でも財務三表の一つ「損益計算書」だけで十分でしょう。加えて、広告事業を中心とした媒体理解を深めるために特に役立つのは「損益計算書」「決算説明会(カンファレンスコール、ウェブキャスト)」「決算説明会資料(スライド)」の3つです。広告関連のTOPICに関しては、決算説明会にて言及される傾向にあります。その決算説明会の内容を資料化した「決算説明会資料」は特に重要です。この3点にさっと目を通しておくだけでも、インターネット広告の過去、そして少し先の未来を俯瞰して理解を深めるのに役立ちます。

■IR情報からインターネット広告の何が分かるの?

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「損益計算書」「決算説明会資料」「決算説明会(カンファレンスコール)」の3点に目を通すことで、広告に関連する以下のような情報が得られることがあります。広告担当者向けの情報のみ抜粋します。

■①企業の結果(過去)を把握する
・広告の売上高(広告収益)
・地域別の売上高(米州、欧州、アジア)
・広告媒体の利用者数(MAU、DAU)
・エリア別の利用者数(MAU、DAU)

■②企業のこれから(未来)を理解する
・広告事業の経営戦略(進むべき方向性 etc)
・広告事業の経営戦術(手段や施策 etc)
・広告を取り巻く外的環境変化(Cookieレス etc)
・CEOの情報発信(創業者の手紙 etc)

■IRから得られる広告媒体情報の例

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各社の2021年Q2 IR情報から読み取れる最新情報の一例を紹介します。

例えばGoogle広告に関して

2021年Q2ではYouTube広告は70億ドル(YoY+83%)、検索広告は358億ドル(YoY+68%)、検索広告、YouTube広告を中心に大幅に売上が増加しました。YouTubeの新機能であるYouTube Shortsの勢いは留まる所を知りません。世界100カ国以上で展開されているYouTube Shortsの1日の再生回数が150億回を突破しています。(省略) 急速に変化する世界において、自動化の価値が高まっています。AIを活用した最新キャンペーンである「Performance Max」(β機能)に力を入れています。広告主は1つのキャンペーンからすべてのGoogleプロパティに広告配信することが可能になり、オンラインセールス、リード獲得、店舗訪問の増加を促進するのに役立ちます。この「Performance Max」を導入した広告主の成果は素晴らしいものでした。

例えばFacebook広告に関して

2021年Q2では、DAU19.1億人(YoY+7%)、MAU29.0億人(YoY+7%)、ともに着実に増加しました。広告収益が増加した要因は、広告単価が大きく増加(YoY+47%)した点、広告配信量が着実に増加(YoY+6%)した点、これら2点によるものになります。今後も、広告単価の増加によって、広告収益の増加を見込んでいます。プラットフォームによる広告ターゲティングの規制強化、特に直近のiOSのアップデートによる逆風が強まると予想されます。Q2に比べてQ3に大きく影響が出るため、2021年下半期の成長率はQ2の成長率とくらべてわずかに減速すると予想しています。

例えばAmazon広告に関して

Amazon広告は、40以上の新機能、セルフサービス機能を提供することで広告主がお客様に商品を発見してもらうことを支援し、ビジネスを成長させることができるようになりました。最近では、地域別のスポンサープロダクトキャンペーン生成ツール、パートナーネットワークを通じた教育、技術、マーケティングリソースへのアクセスやクリエイティブアセットマネジメント機能が実装されています。 Amazon広告は、オーストラリア、ヨーロッパ、インド、日本、サウジアラビアでの広告サービス強化を図っています。Amazon Streaming TV広告にTwitch Nowが連携したことで、米国内の月間1億2,000万人の視聴者にリーチできるようになりました。これにより広告主は様々な広告配信面(IMDb TV、Twitch、Fire TV、Prime Video)などを活用してより魅力的でインタラクティブな商品発見体験を生み出すことが可能になりました。

例えばTwitter広告に関して

DAU(mDAU)が2億600万人(YoY+11%)に到達しました。売上高 11.9億ドル(YoY+74%)と大幅に売上が増加しました。日本市場は2番目に大きく、Q2総売上高の13%に相当する1億5,100万ドルを計上しました。Twitterは広告価格よりも広告主のROIを重視しています。年齢別・地域別のターゲティング精度やフォーマットの改善、オーディエンスの増加、ブランドからダイレクトレスポンス広告へのミックスシフトが進む事を期待すると、広告主にとって価値を感じられる方法が沢山あります。これらの中には価格が高くなる物もある一方で、価格が大幅に下がり、より多くのリーチとリターンを得られる物もある為、拡大し続けるTwitterのオーディエンスに対して広告投資が可能になります。

■Tips① IR情報の調べ方(Googleの場合)

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「企業名xIR」で検索してみましょう。多くの場合は、コーポレートサイトの上部を確認するとIR情報(IRページ)が容易に見つかります。もし見つからない場合は、親会社の名前で検索しましょう。Google 広告の情報を調べたい場合は、Googleの親会社であるAlphabetで検索しましょう。Alphabetは2015年に設立された持株会社であり、複数のビジネスを世界中に展開している多国籍コングロマリットです。決算発表の情報にはGoogle 広告以外の情報も含まれています。

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■Tips② 決算説明会(カンファレンスコール)はどこに?

2021年Q2 決算説明会の電話会議(カンファレンスコール)のリンクを青枠で囲った参考画像を載せておきます。左から順にAlphabet、Facebook、TwitterのIRページを並べています。「Conference Call」「Webcast」と記載があるものが決算説明会(電話会議)の動画リンクになります。下の方にある「transcript」は動画をテキスト化したものになります。英語が聞き取れない人は「transcript」を翻訳するというのも一つの手です。

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また、AlphabetのウェブキャストはYouTubeに公開されています。
https://www.youtube.com/channel/UC9RZRAPdKRM91k1XwbELJEg

■Tips③ 広告収益(Advitising revenue)はどこに?

2021年Q2 の「Press release」「Earnings Release」「Earnings Press release」を開いてみましょう。リンクを緑枠で囲った参考画像を載せておきます。左から順にAlphabet、Facebook、TwitterのIRページを並べています。

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リンク先からPDFをダウンロード可能です。2021年Q2 の上記画像の緑枠をクリックして「Press release」を開きます。広告収益に関しては「Advitising revenue」「Advitising」といった項目名が該当します。

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■Tips④ 主要広告7媒体 広告収益比較

IR情報を参考にしながら、2021年 4~6月の広告収益を調べてみました。前年比ではPinterestが最も成長している一方で、最大規模を誇るGoogle 広告は500億ドルを突破しており規模を拡大し続けています。

【Google 広告】
504億4400万ドル(YoY+68.9%)
【Facebook広告】
285億8000万ドル(YoY+56.0%)
【Amazon広告】
79億1400万ドル(YoY+87.5%)
【Twitter広告】
10億5300万ドル(YoY+87.0%)
【Yahoo! 広告】
8億2900万ドル(YoY+16.3%)767億円※
【Pinterest広告】
6億1300万ドル(YoY+125 %)
【LINE広告】
3億9000万ドル(YoY+34.1%)427億円※

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2021年4-6月 広告収益 IR情報調べ
※外国為替レート:1ドル109.28円で換算
【引用URL】Alphabet IR 2021 Q2(PDF)
【引用URL】Facebook IR 2021 Q2(PDF)
【引用URL】Twitter IR 2021 Q2(PDF)

■Tips⑤ 決算発表はいつ行われるの?

具体例としてAlphabet 2020年 四半期決算の発表日を確認してみましょう。

■Alphabet 決算発表の日程(期首が1月の場合)
Q1 第1四半期 (1~3月期)
→発表日 2020/04/28
Q2 第2四半期 (4~6月期)
→発表日 2020/07/30
Q3 第3四半期 (7~9月期)
→発表日 2020/10/29
Q4 第4四半期 (10~12月期)
→発表日 2021/02/02

四半期の決算発表は、期末の1ヶ月後を目安に公開される傾向にあります。2020年の四半期の決算報告は4月末、7月末、10月末、2月末に公表されています。正確な情報が知りたい場合は、IRカレンダーを参考にすると良いでしょう。会計期間に関して補足として、Q1と書かれていても企業単位で指している期間が異なるため注意が必要です。日本企業は「4/1~翌年の3/31迄」を一事業年度としている企業が多い一方で、グローバル企業の場合は「1/1~12/31迄」を一事業年度としている企業が大半です。参考までに例を上げると、期首が1月(Q1=1~3月)の企業はAlphabet、Facebook、Twitterです。期首が4月(Q1=4~6月)の企業はZホールディングスが挙げられます。

■Tips⑥ IRスライドは眺めるだけで楽しい

一部の企業に関しては、四半期決算の結果が直感的に伝わってくるようにグラフや図を用いたスライドを作成して公開しています。例えばこんなことが載っていますよ、という一例を参考までに引用して紹介します。単純な数値のハイライトだけではなく、経営統合に伴う事業戦略の刷新に関する情報も端的にまとめられていることがあります。

■【Facebook】(MAUs/DAUs推移)

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【引用URL】Facebook Q2 2021 Earnings Slides(PDF)

■【Pinterest】(エリア別収益、MAUs、ユーザー1人当たりの平均収益)

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【引用URL】Pinterest 2021年Q2 プレゼンテーション(PDF)

■【Zホールディングス】(LINEとの経営統合に伴う事業戦略の刷新)

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【引用URL】Zホールディングス株式会社 決算説明会 2021年度 第1四半期(PDF)

■Tips⑦ CEOの情報発信(Alphabetの例)

AlphabetのIR情報には「Founders’ letters」というページが存在します。一部抜粋すると「Googleが掲げるミッションの柱の一つはニュースである」と明言されている箇所が見当たります。また、Googleが世界のローカルジャーナリズムにどう取り組んでいくのか?姿勢についても言及されています。

最近になって日本で最近ニュースとして取り上げられたGoogleニュース ショーケースは、実は突然に湧いて出た話ではありません。IR情報で示唆されていたことがわかります。CEOの情報発信などをチェックすることで、例えばGoogleニュース ショーケースが私達の生活にどのような変化をもたらすのか?その先のGoogleの広告ビジネスとどう関係していくのか?といった未来への想像力を働かせるのに役立つこともあるでしょう。

以下、「Founders’ letters」の一節の引用になります。

News is another big part of our mission to organize the world’s information. In March 2018, we launched the Google News Initiative, committing $300 million to help journalism thrive globally in the digital age. A major focus for us has been supporting local journalism, which plays an important role in our communities, our democracy, and our daily lives. Alongside McClatchy, we launched the Local Experiments Project to test new approaches in local business models to help the industry learn what works. We’ve also helped train 100,000 journalists around the world to use digital tools, and we’ve partnered with multiple newsrooms worldwide to combat misinformation during elections with initiatives like Verificado in Mexico and Comprova in Brazil. 

以下、直近で取り上げられたニュースです。

以下、Googleニュースショーケースの画像です。

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■おわりに IR情報を仕事にどう活かすか

広告媒体の仕様や最新情報だけを知りたい場合は、広告代理店向けの広告媒体資料だけで十分です。しかし、グローバルで何が起こっているのか?少し先の未来はどうなっていくのか?考える上でIR情報が役立つことがあります。

また、インターネット広告を取り扱う者として、広告媒体の立場を理解した上で向き合っていくことも重要です。例えばリリースされたばかりの新機能、リリースされる前のβ機能を導入することで享受できるのはメリットだけではありません。

飛びつくことで発生しうるリスクを加味する上でも「広告サービスを展開する企業がどのような未来を目指しているのか」「どういった背景で、どんなコンセプトで新規広告プロダクトが開発されているのか?」を把握しておくとより良く仕事に取り組めるでしょう。「世界よし」「顧客よし」「パートナーよし」「自社よし」しっかり四方良しを実現するために、パートナーの目指す方向性、パートナーとの利害も理解した上で、仕事に向き合っていきたいと思います。

■参考文献

【参考URL】Alphabet Investor Relations
【参考URL】Facebook Investor Relations
【参考URL】Amazon Investor Relations
【参考URL】Zホールディングス株式会社 IR情報
【参考URL】Twitter Investor Relations
【参考URL】Pinterest Investor Relations


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