ひとりなのにうっかりコース料理を予約してしまった。【四十路の日常】
私は友人がほぼいないので一緒にご飯を食べたり、旅行へ行きたいと思う相手がすぐに思い付かない大人である。それ故行きたい場所には1人で行くしかない。
すでに1人での行動が基本となっているので、その事自体苦ではないが、たまには誰かと行きたいと思っている。
美味しいがすぎると、誰かと分かち合いたいたい気持ちが溢れ、行き場を無くしたその感情が四十を超えて「鼻歌を歌い、スキップしそうになる」という不審者風情となって外に溢れてしまうからだ。
私は日本中の行ってみたいお店をメモしている。
行けるとチェックを入れ、それをコツコツと増やしている。
この日は仕事終わりに京都へ向かった。
予約しておいたホテルにすぐさまチェックインし、荷物を下ろしてそのまま夕食を食べに向かう。もちろん1人で。
以前から行きたかったお店。
京都市内でも決して繁華街ではない、落ち着いた路地で唯一灯りが灯る小さなお店。
ご夫婦で営まれており、入ると大きなダイニングテーブルがあり、他のお客さんとそれを囲む。
私以外は2組。
うち1組はカップル。
私はお店の雰囲気と間違いなく美味しいであろう食事にワクワクしていた。
一品目が運ばれてきた。
口にすると食べたことのない風味、そして期待を上回る美味しさ。
器も洒落ていてワクワクが最高潮に達してニヤけてしまう。
食べ終わり、ドリンクを一口飲んで「やっぱりえぇお店やった…」としみじみと噛み締めていた。
店内を見渡し、なんと素敵なのかとため息を吐きながら、ふと次の料理はいつ頃来るのかと思った。
そうか…コース料理…
その時初めて「しまった」と思った。
美味しいご飯を食べたい一心で計画を立て、予約を入れてワクワクを最高潮にして今食事をしている。
コース料理であることなど本当にこの時まで意識していなかった。
私はどこへでも1人で出かけるが、コース料理にかかる時間を1人ではまだ上手く過ごせない。
私はそこまで仕上がっていない。
それを意識した瞬間、ワクワクの中に一滴の不安が混じった。
しかも他のお客さんと共に大きなダイニングテーブルに着いている。みなさん楽しくおしゃべりなさっているが、私はどのように過ごそうか。
本など持っていない。
頼りはスマホのみ。
しかし素敵なお店でコース料理の合間にスマホを見る。
それは絶対にスマートではない。
私はこなれた風を装ってスマートに過ごしたい。
そう見られたい。
しかしもう頼れるものは他にない。
「店内を見渡す」なんて首がちぎれるほどやった。
それでもまだ料理は来ない。
結局諦めてスマホを取り出す。
せめて、との思いでテーブルの下にて見る。
友人の投稿にいいねをし、一通りSNSの巡回を終える。
まさかここで雀魂をするわけにもいかずどうしたものか…
先ほど閉じたばかりのSNSを開き、更新はないものかとスワイプし続ける。
ない。
何もない。
そして料理はまだ来ない。
これを私はデザートまで繰り返すのか。
ピンチすぎる。
電子書籍でもダウンロードするか?
何が読みたいだろう。ご飯のエッセイ?
旅のエッセイ?
と思っているうちに次のお皿が運ばれてきた。
耐えた…
ゆっくりと食事を進め、またあの時間…
スマホをスクロールするうちに気になるヤフーニュースを見つけ、読み終わるとそのままヤフコメを読んでいた。
そして次のニュース…ヤフコメ…
私は、暖かいおしゃれなお店の美味しい食事の合間にずっとヤフコメを読んでいた。
考え得る中で一番スマートではない過ごし方ではなかろうか。
しかし食事は本当に美味しかった。
お会計を済ませ、隣のお部屋などご好意で見学させてもらい、店を後にした。
灯の灯る素敵な外観を写真に撮り、帰路に着く。
私はあの時間までも1人で素敵に過ごせるようにレベルアップしたい…
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