牛持ちおくま

山古志闘牛会所属。 角突き牛・飛将の牛持ち。 毎週末、往復2時間かけて飛将にバナナを運…

牛持ちおくま

山古志闘牛会所属。 角突き牛・飛将の牛持ち。 毎週末、往復2時間かけて飛将にバナナを運びます。

最近の記事

すでに始まっている静かな闘いと、激しい後悔に学んだこと

 牛の角突きの取組は、事前の会議で決まる。  「取組」と呼ばれる牛持ちや勢子、闘牛会のメンバーが集まり、場所の10日ほど前の夜に開かれる会議で決めていく。平日の夜にあんな山奥によく集合するよね、みたいな感じで山古志の牛舎の二階に集まる。必ず出席しなくてはいけないのではなく希望制。遠方の牛持ちの場合は、会長に出欠を一任したり、親しい人と相談の上出欠や希望を伝えておいたりする。私は山古志まで車で約1時間はかかるので、飛将が4歳のうちは師匠の庄八さんに希望を伝えておまかせしていた

    • きゃわわなちいちゃこいうし、ぱげたろう

       飛将が5歳の年のある日。  春に岩手からやってきた3歳の牛たちの部屋の移動をするという。庄八軍団の3頭、薬師大力・庄八・飛将は、左からこの順に並んでいたが、飛将のとなりの部屋は、長老・平畑が引退したため、空き部屋になっていた。  3歳のちいちゃい牛は6頭来た。黒が3頭に赤(茶色のことを赤という)が3頭。そのうち赤牛の1頭は、若手勢子のすずきくんが牛持ちになった。名前を「真醒斗(まさと)」という。鼻筋のしゅっとしたイケメンな牛。すずきくんは牛をじょうずに扱えるとってもいい

      • いやなものはいや、という頑固なところは誰に似た牛持ちに似た

         飛将の面綱が出来上がった日。春の午後の牛舎に4、5人集まっていた(最近は牛舎で庄八さん以外に会うことはめったにない)。みんな5月の連休にある初場所が楽しみでいてもたってもいられず、牛持ちもそうでない人も、冬を越した牛たちの様子を見にやってきたのだ。半年ぶりに顔を合わせて、久しぶりに近況を伝えあったりするのも楽しい。  私は新しい牛持ちとなったわけだが、次々に、 「このたびはおめでとうございました!」 と声をかけられた。そうか、牛を持つということは、おめでたいことなのだ

        • 最初に面綱かけたやつサイコパス©ネオホラーラジオ

            角突き牛には、正装がある。   入場するときには、「面綱(おもづな)」といわれる装飾を顔につけ、鼻に「鼻綱(はなぎ)」を通され、装飾付きの「とち金」を経由して「引き綱」につながれてのお出ましとなる。一応の習俗の伝統としてはこんな感じらしいが、最近の牛持ち、つまり山古志在住・出身の古参以外の外部牛持ちで準備できている牛持ちはあまりいない。  私としてはイベントとしての角突きを続けていくだけでなく、こういった形も残していくことが大事だと思っているので、これはフルセット揃え

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          おじさんでもママでもなく、ポケモンマスターに俺はなる!ということでもない話

           角突き牛のことは、「おじ」と呼ぶ。  というのが、伝統的な角突きの文化の中にある。  私の暮らす魚沼地方では「おじさん」のことではなく「弟」のことで、アクセントは「お」にあり、聞いてみたことはないけれど山古志でもそんな感じだろうと思う。〇〇さんのおじ、というと〇〇さんの弟のこととなるし、△△さんちのおじ、というと△△さんの息子のうち次男三男・・・を指す、みたいな住む人暮らす人の感覚に頼る独特のニュアンスもあったりする言葉。  元々の角突き牛は農耕に用いられていた短角牛

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          犬に対して精一杯の虚勢を張ってみたものの、端から見たら何も起こっていない生か死かの話

          とぼとぼ歩いていたら、向こうから品の良さそうなちいちゃいおばさんが、自分くらいあるシェパードっぽい犬連れてこっちに来た。 こう言ってはなんだが、私は犬が大の苦手だ。 生き物自体、心から苦手だ。 犬なんて知ってか知らずか高確率で吠えてきたり向かってきたりする。 得体が知れなすぎて心底怖い。 話の通じない人間の次に怖い。その次はおばけ。 おばさんの様子からしておそらくしつけはきちんとされていそうだ。 しかし事故というものは「万が一」に起きると相場は決まっている。 もしあのでか

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          適正な距離を保つことが大切なのは、コロナ禍だけではないのかもしれない

          かくして、飛将は私の牛になったわけだが、実のところ、私は動物が大の苦手だ。 犬も猫も、見ればかわいいと思うし、鳥はとっても好きだが触れない。子どもの頃からどうも、動きに予想がつかないところが苦手なのだと思っている。おそらく何とは言わず毛のアレルギーがあるらしいし、体が拒否をしている模様。 となれば牛など触れるはずもなく、犬や猫以上に動きの予想はつきにくい。おまけに角はあるし、意外かもしれないが、ものすごく俊敏だ。 もしかしたら牛は普段、のんびりとしていて、「牛歩」と言わ

          適正な距離を保つことが大切なのは、コロナ禍だけではないのかもしれない

          「牛を決める」というイベントが発生する我が人生

          牛は自分で決めた。 牛持ちになることを決めたので、今度は牛を決めなくてはならない。 角突きをさせる牛なので強い牛がもちろんいいのだけれど、どの牛が強いか強くなるのかは、どんなベテランの牛持ちでも見極めは難しいらしい。 牛持ちの中には勧められた牛に決める人もいるらしいが、私は自分で決めることにした。 自分の決めた牛にすることで、一切の後悔や言い訳をしたくなかったからだ。 どんなに弱い牛になったとしても、自分で決めた自分の牛だ。 誰かに無理やりあてがわれたわけではない。 すべて

          「牛を決める」というイベントが発生する我が人生

          どれにつけるか決まっていないが命名だけする

          私の牛は「飛将」という。 「飛将」は「ひしょう」と読む。 アクセントは「ひ」。 安室かアムロかでいったら、アムロの方でお願いしたい。お願いしたいが、わりと安室で呼ばれてしまい、それを聞いた人がまた安室で呼んで、という悪循環で少し困惑している。「飛翔」ではなく「飛将」なので、よく変換されずに間違えられてしまうので、これをその都度訂正するというのも若干気が引けている。 「飛将」という名前は、三国志最強の武将と言われる呂布からつけた。 自分で牛を持ったら、私が惚れ込み推し牛で

          どれにつけるか決まっていないが命名だけする

          石橋を叩いて渡らず壊して終わりの私が牛持ちになった話

          私には自分の牛がいる。 「角突き牛」といって、角突きをする私の牛だ。 「角突き」というのは、新潟県の山古志地域と小千谷地域で行われている「牛の角突き」という習俗で、国の重要無形民俗文化財に指定されている牛と牛との闘牛のことだ。 私は角突き牛のオーナー、「牛持ち」である。 牛持ちになったのは去年の春のこと。 それまで5年ほど観客として角突きを楽しんでいた。 山古志にいた横綱級の黒牛に魅せられて、毎回のように足を運んでいたのだが、しばらくして、その黒牛が絶頂期にもかかわらずや

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