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作庭私論 「旅の中」 ①

これは2008年・平成20年9月1日発行 庭 No.183 建築資料出版社で取り上げて頂き、作庭私論のコーナーで書き留めた、自論というよりも自身を組み上げてきた成り立ちのようなものを書き綴ったものです。
それをnoteに分割して引用します。一部固有名詞など隠す場合があります。

屋久島でのデキゴト

屋久島尾之間。
この日はまれに良く晴れ渡り、真っ青な水平線の果てにトカラ列島が望め、後ろを振り向くとモッチョム岳が空に突き上がるようにせり立っています。
濃い緑の間に民家がポツリポツリと建ち、坂道はゆるやかに曲がりくねっていて気持ちがいいです。
その坂道をヤマモモの実を食べながら登って行くと、突き当たりが尾之間温泉、地域の住民が入る風呂です。
その脇に蛇ノ口の滝に行ける登山口があります。
ガケのような坂と亜熱帯の森の始まりです。常緑照葉樹とシダ植物が鬱蒼と繁る中、ツルツルと滑りながらはい上がっていきます。
しばらく進むと坂はだんだん穏やかになり、サラサラと水が流れていました。
あたりは苔に覆われ、オオタニワタリが木のうろから陽気に葉を広げています。
するとそのすぐ奥です。私は動けなくなりました。

凄い存在感です。
それは大きくて美しい花崗岩でした。
水はそこから流れていて、石の肌を滑らかに伝わり、しっとりとしていて緑が深く、ほど良い暗さで何とも言えないのです。
その石は表面的な美しさだけではなく、空の果てから地の底までつながっているようで、私はすっかりそのあたりの空気につかまっていました。
しばらくしてまた蛇之口の滝を目指しました。

屋久島に来た目的は縄文杉です。島に上陸してすぐ縄文杉を目指しました。
縄文杉を見に行くには、やさしい道でも普通は半日ほどかかります。
私は気軽に考えてそのルートを選びましたがその時点では、この島がこんなに凄いところとは全く知りませんでした。

ところがとんでもないのです。あちこちに今まで見たこともない景色が広がり動けないのです。
ここは私にとって庭がどうだこうだという前にある場所です。

子どもの頃、毎日のように裏山で遊んでいたあの感覚です。
今も庭の材料探しで「何かいい物落ちていないかなあ」と裏山によく出かけますが、いつの間にか子どもの頃に戻ってしまうのです。
「このバランスいいなあ、庭に取り込もう」とか考えればいいのですが、私の頭の中はツルッとしているのかそんな難しいことは考えられなくて、「あっオオタカだ、スゲー」とか「ああこの木倒れちゃった」、「おお、ガケくずれだスゲー」と、ちょっと恥ずかしいです。だから子どもの頃からあまり進歩していないようです。

とにかく好みに片寄りがあり、しかも勉強が嫌いだったため、中学生のとき担任に「このままでは高校に進めないなあ」といわれたほどです。
しかしまだ将来の目標が見えないので、中三のとき猛勉強をして高校にはいりました。
そして高校の3年間のうちに将来の目標を決めようとしていました。

つづく


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