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 1982年に第一巻が発行された田中芳樹の大ヒットSF小説。

 アニメ版は1988~2000年の『銀河英雄伝説』、2018年にスタートした『銀河英雄伝説 Die Neue These』の2シリーズ存在しており、後者である本作は第2シーズンまで作られ、第3シーズンもすでに予定されている。
 原作は累計部数1500万部を超え、アニメ版や漫画版をはじめ多彩なメディアミックス化がなされている日本SF史上に残る大ヒット作。
 ただしSFといっても宇宙航行以外の技術的変化の描写は最低限に抑えられており、架空の未来世界を舞台にした大河歴史小説といった趣がつよい。君主制の銀河帝国と民主制の自由惑星同盟という、銀河を二分する体制の対立と興亡を、銀河帝国皇帝ラインハルトと同盟の天才軍略家ヤン・ウェンリーの戦いを軸に描いている。
 ありがちな「邪悪な帝国」対「正義の民主主義陣営」という単純な善悪図式を相対化し、民主制における権力闘争の醜さも含めて描かれた群雄たちの多彩な人間模様が魅力といえる作品である。

 この第3シーズンについて【社会学】者の津田正太郎氏が次のような「予想」を口にした。

 これは原作では、主人公のひとりヤン・ウェンリーは彼の副官フレデリカという女性と結婚するのだが、その新婚生活にまつわるエピソードが入ると考えられたためである。

 というのはヤンはいわゆる「生活力のない学者肌」のステレオタイプとして描かれている人物であり、フレデリカもまた「職業面では有能だが反面で料理が苦手」という「ギャップ萌え」的なキャラクター付けをされている。
 ここでヤンはともかくフレデリカの「家事が苦手」という描写は「女性は家事をするもの」であるという性役割意識が前提にあるからこそいわば「ウィークポイント」となっている。このようなキャラクター描写は高橋留美子『らんま1/2』の天童あかねや、藤子・F・不二雄『エスパー魔美』の佐倉魔美など、80年代当時にはよく見られたものである。
 このような新婚家庭の描写に対し津田氏は「さすがに時代にそぐわない」といって「ジェンダー的な違和感」を述べたのであるが、これが(津田氏にとっては)予想以上の反感を買った。

 そもそも原作でも家事はヤンが「女なんだからお前がやれ」と強要しているわけではなく、フレデリカ自身がやろうとして苦戦し、見かねたユリアンが助けているエピソードである。
「家事が苦手」というキャラクター付けはベタといえばベタなのだが、常識的には世話をされるべき役割であるヤンの養子ユリアンが、家事面では2人の面倒を見る役になってしまうという彼らの家庭のユニークさを描くための前提ともなっている。
 また銀河帝国側にとってはおそるべき強敵である彼らが、互いを思いやりながらも苦手な家事に向き合い、役割分担を探っていくという微笑ましい描写を構成するものなのだ。
 つまり原作の魅力に大いに貢献している描写なのである。

 批判に対し津田氏は次のように自己弁護している。

 が、「さすがにまずい」「さすがに時代にそぐわない」「変更せざるをえない気がする」などの連呼を「違和感があると言っただけ」と呼ぶのは無理があり、言い訳臭さがぬぐえない。

 そもそも彼が用いた言葉「ジェンダー描写に違和感」だの「時代にそぐわない」だのという言葉は要するに「性差別だ!!」というフェミニズムによる言い掛かりの「言い換え語」として常に用いられてきた言葉であった。「性差別だ」と断言してしまうと「どこがそうなのか」という反問をされてしまうので「自分の感想」「時代だから」と、立証責任を避けながら要求を押し付けるための卑劣なレトリックとしてこれらの言葉は悪用されてきたのである。
 事実、しばらくは津田氏は批判に対して、このように延々と食い下がっていた。

 津田氏が「ただの他愛ない感想を述べていただけ」というのは無理があり、実際には火付けに失敗しただけだ、というのが正確なところだったのだろう。最初から、変更「せざるを得ない」などと、もしも変えなかったら大変なことになるぞと匂わせて脅していたではないか。
 
 また、この津田氏に対する批判ツイートは、津田氏の名前よりも「社会学者が」と代名詞的に使って批判するものがかなりの数を占めていた。
 これまで【宇崎ちゃん献血ポスター事件】の千田有紀や、【空飛ぶひよ子ファミリー】、「ラブライブみかんポスター」を叩いた牟田和恵、【累積的抑圧経験】発言の小宮友根など多くの(特にジェンダー系)社会学者がオタク文化に対して、成功失敗をとわず表現弾圧を試みてきたことを考えれば、当然の反応である。
 あるいは津田氏の肩書きが「社会学者」でなければここまでは警戒されなかったであろうという想像も成り立つ。

 けっきょく津田氏は自分で名乗っていた「社会学者」のプロフィールを書き換えている。

 
 また2021年7月にはまたもツイッターで「日本アニメは白人コンプレックス!」と主張した【海外出羽守】が、明らかに作品内容について無知なまま本作をその例に挙げてしまい、笑い者になった。


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