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包括的性教育から考えるジェンダー問題

みなさんこんにちは!心理カウンセラーのHitoeです🌹

昨今「女性の性と健康」について度々話題になります。

そこで出てきたのが「包括的性教育」という言葉。

包括的性教育とはどのようなものなのか。
どのようにして学ぶのか。
そしてなぜ今の日本に必要なのか。
今回はこの「包括的性教育」についてのお話です📖

日本における「女性の性と健康」の問題点

・確実性の高い避妊法の選択肢が狭く、きちんと広まっていない

・人工妊娠中絶は年間16万件。未成年で、平均日に37件という数。

・緊急避妊薬が病院での処方に制限されており入手しにくい

・多くの先進国で60%以上の接種率であるHPVワクチンの接種率がわずか0.6%という低さ

これらは全て日本の現状です。

日本は、医療や公衆衛生において全体としては非常に高いレベルであり
世界各国から注目されている項目も多数あることは事実
です。

一方でこうした「女性の性と健康」という視点でみると…。

これらの問題に対して個別の対策はもちろん大切です。
この瞬間にも困っている女性の不安や苦痛を
最小限にするために必要不可欠です。

ただ、これらに共通する潜在的かつ、かなり大きな問題があります。

「きちんとした性教育」そのなかでも「包括的性教育」の普及です。

「包括的性教育」という概念

「包括的性教育」という言葉の意味を知っていますか?

日本で多くの人が思っている「性教育」とは
「性に関する知識やスキル」として
妊娠・出産の仕組みや避妊、性感染症予防法を学ぶことなのではと思います。

「包括的性教育」は、これとは異なる概念です。

国際的に広く認知・推進されている
性に関する知識やスキルだけでなく
人権やジェンダー観、多様性、幸福を学ぶための重要な概念なのです。

日本ではまだ普及しておらず
教育では「性に関する知識やスキル」も十分に教えられていないこともあるのが現状といえます。


包括的性教育の基本概念

包括的性教育に関して
国際連合教育科学文化機関(UNESCO)が中心となって作成された
「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」というものが公開されており
国際的な標準的指針として利用されています。

主なコンセプトにはこのようなものがあります。

1. 人間関係
2. 価値観、人権、文化、セクシュアリティ
3. ジェンダーの理解
4. 暴力、同意、安全
5. 健康と幸福(well-being)
6. 人間の身体と発達
7. セクシュアリティと性的な行動
8. 性と生殖に関する健康

そして、包括的性教育の特徴は以下のようなものが挙げられます。

(1) 科学的根拠に基づいていること

性や生殖、セクシュアリティに関する情報は
人類にとって非常に重要なものであると同時に
非常に個別性の高いものであり
「ある人の持つ身体的構造や嗜好、感情」が
別の人に当てはまるわけではありません。

つまり「誰かの経験や好みに基づいた情報」
教育として用いることはできません。
このため、包括的性教育は医療と同様に
「科学的根拠(エビデンス)に基づいた情報」をベースとして
提供されるべきだと考えられています。

適切なカリキュラムに基づく包括的性教育プログラムによって
以下のことが得られるとされています。

・初交年齢が遅くなる
・性交渉の頻度が減る
・性的パートナーの数が減る
・リスクの高い行為が減る
・コンドームの使用が増える
・避妊具の使用が増える(感染症予防)


*早いうちからの性教育は
「寝た子を起こす」といった意見や
性に奔放になって危険だという指摘は
全く科学的根拠に基づかない考えであることがわかります。

(2) 子どもの年齢や成長に沿って進むこと

包括的性教育は、幼少期から始まる継続的な教育とされています。

例えば、一番最初のステップでは「5〜8歳」が対象となっています。

少し驚かれる方もいるでしょうが
「家庭で、自然に子どもが疑問に思う点を少しずつ説明していく」
というスタンスが取られているのです。

子どもたちにとって
最も適切な時期に、性や発達に関する話をしてあげるー。

これを成長のペースに合わせて
提供してあげることが大切だと考えられています。

(3) カリキュラムに基づいたものであること

「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」には
教育者(保護者や教師)をサポートするカリキュラムが掲載されています。

重要となる教育目標
コンセプトの紹介
論理的かつ明確なメッセージの伝達
などが書かれており
「情報を提供する側」への支援を重要視していることがわかります。

同時に
「個々人が独自にカリキュラムを作ることによる混乱」
回避する目的もあります。

(4) 包括的であること

包括的性教育では
「性と健康」に関するトピックだけを扱うわけではありません。

・セクシュアリティ
・人権
・健康的で互いに敬意を払う対人関係
・価値観の尊重
・暴力(性暴力を含む)の回避
なども含みます。

多様性を認めるという観点で
例えば性的マイノリティの人々への
根拠なき無理解や
差別をなくすことにも言及
しています。

日本ではきちんとした性教育の機会があまりないため
多くの子どもや若者はインターネットや
アダルトコンテンツから誤った情報やイメージを入手し
それを現実のものとしてパートナーへ要求してしまう人も…

このような指摘を目にすることも少なくありません。

相手を尊重し、性的なことにもきちんと同意を得て
お互いに幸福を得られるような関係性を築くこと
にも
包括的性教育は重要なのです。

(5) ジェンダーの平等に基づいていること

「包括的性教育にジェンダーの平等性に関する視点を含むことは
より有効な内容とするために不可欠である」

「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」

日本の現状は…
ジェンダーギャップ指数
世界121位かつG7で最下位(2019年度)

世界的にみても低い日本のジェンダーの平等性は
包括的性教育の遅れが影響しているとも考えられます。


日本の課題に対してどんな変化が望ましいのか

 
⚠個人の見解です⚠

(1) 確実性の高い避妊法の普及

日本ではコンドームが避妊手段として最も多く使用されていますが
実はコンドームの避妊効果はあまり高くないため
国際的には「避妊手段」として扱われていないことも多いのです。
「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」でも同様です。

過去の研究では
現実的なコンドームの使用で
避妊に失敗する確率は20%程度にもなることが示されています。

一方で
避妊効果の高い手段の代表が
「経口避妊薬(低用量ピル)」
「子宮内避妊具」です。

経口避妊薬(低用量ピル)は
基本的に毎日薬を内服することで高い避妊効果を維持でき
飲み忘れなどがなければ99%以上の避妊成功率とされています。

欧州では若い世代の3〜7割、
米国でも3割程度の女性が
低用量ピルを利用しているというデータがあります。
それに比べて日本での利用率は3%と非常に少ない状況です。

これには様々な理由が影響していると考えられますが
公費補助がないことや
性知識の不足などの影響も大きいのではと思います。

海外では
「避妊手段へのアクセスは全ての女性に提供されるべきだ」として
公費補助があったり
学校で校医から無料で配布してもらえる国もあります。

日本では自費になるため
若い女性にとっては毎月の出費が大きな負担になりうることも
普及しにくい要因だと思われます。

また、同じく高い避妊率を保つことができる手段として
「子宮内避妊具」があります。

ホルモン効果の有無によっていくつかの種類がありますが
単純に避妊目的であれば「銅付加IUD」
ホルモン剤を含み月経痛の改善に使用される「薬剤付加IUD(IUS)」と呼ばれています。
一度子宮内に挿入すれば5年ほどそのまま効果が持続し
飲み忘れがないといったメリットもあります。

包括的性教育による適切かつ十分な知識の取得と並行して
これらのような確実性の高い避妊手段がより広く使用され
安全にパートナーとの関係を持てる環境作りは
国全体にとって大事なことだと思います。

そして
これら以外の手段(パッチやインプラントなど。日本では未承認)が
日本でもより自由な選択肢として当たり前に存在するようになればと思っています。

(2) 緊急避妊薬のアクセス改善と人工妊娠中絶の回避

2020年10月に
「日本でも薬局で緊急避妊薬が購入できるようになるかもしれない」というニュースが流れました。

まだ実現するか未定ではありますが、非常に大きなトピックだと思います。

というのも、緊急避妊薬を薬局で入手できることは
セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツを守ることに
強く繋がります。

人工妊娠中絶は女性に非常に大きな負担をかけ
稀ながらも重篤な合併症を引き起こすこともあり
避けるに越したことはありません。

緊急避妊手段の確保は国際的に強く尊重されていますが
日本では体制の整備が遅れてきた経緯がありました。
(現在では、医療機関の受診と処方が必須です。)

先進国を含む世界のおよそ100ヵ国では
緊急避妊薬が市販化または処方箋なしに薬局で購入できます。
そして、ここにも包括的性教育が大きく関わってきます。

「安易な緊急避妊に頼ることになると良くないのでは」
「勘違いする男性が増えるのでは」

などの意見を目にすることもありますが
これはあくまでも憶測であって
世界各国で緊急避妊手段への
アクセス確保が重要視されていることからも
「エビデンスに基づかない意見」だと考えるのが妥当だと思います。

性教育とこうしたアクセス改善は
セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツを守るために
同時に進められるべきものであって
「どちらかが不十分だからまだ時期尚早だ」という考えは
今を生きる多くの人々を救うことにはならないのではないでしょうか。

また、緊急避妊薬を使用する際には、
「なるべく早く飲む方が効果が期待できる」
「100%避妊できるわけではない」ことを理解しておくこと
も重要です。

(3) ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種率向上


日本ではHPVワクチンが定期接種に定められているにもかかわらず
接種率が0.6%と驚異的な低さとなっており
これはここ7年間ずっと改善されてきませんでした。

2013年までは日本でも70%ほどの接種率でしたが
ニュースなどで
「HPVワクチン接種後の重い症状(全身の筋肉や神経への影響)」が
報道されたことから
厚生労働省からの「積極的接種の勧奨差し止め」をきっかけに
接種率が1%を切る状況となっています。

しかし、この間にも世界中でHPVワクチンに関する研究が進められ
HPVワクチンは「特別に重い副反応を起こしやすいわけではない」ということが示されています。

世界中では
すでに8億回以上接種されており
非常にメジャーなワクチンと言えるでしょう。
日本でも、名古屋市での大規模な調査の結果
「HPVワクチンの接種により重い副反応が増えたという証拠はない」
ことが報告されています。

また、HPVワクチン接種後にみられる副反応のほとんどは
軽い痛みや注射部位の腫れ、めまいなどの一時的な症状です。
失神なども含めた重い症状の報告があることは事実なのですが
頻度は1万人あたり5人程度で、その中でも9割の人が回復しています。

また、男性が接種することで
HPVに起因する咽頭がんなどの予防にも繋がりますし
男女間での社会的な感染率が減ることから
近年では男性への接種を推奨し
公費で接種費用を負担する国も増えてきました(米国、英国、豪州など)。

そして、国民の接種率が高い状況となった国では
「子宮頸がんの撲滅」が遠くない将来に可能だと試算されています。

2020年10月には、
世界的に有名な医学誌の1つである
New England Journal of Medicineから
「HPVワクチンは子宮頸がんを予防する」という研究結果が発表されました。

4価のワクチン接種により子宮頸がんのリスクを約63%下げられた
(リスクが約1/3になる)

New England Journal of Medicine

しかし、今の日本では
こういった科学的根拠に基づいた情報を
みなさんが得られているわけではありません。

なかなか日常会話では出ないですし
「なんとなく怖そう、不安」というイメージを
持っている方も多いのが現状です。

ただ、世界各国では全く状況が異なっており
「子宮頸がんで苦しむ患者を国からなくせるかもしれない」
と思える段階まできています。

(4) 不妊症にも繋がりうる性器クラミジア感染症の予防

性器クラミジア感染症は
日本でもっとも感染者数の多い性感染症で
特に若年者での感染が増えていることがわかっています。

男女ともに感染する可能性がありますが
症状はどちらも比較的軽く、無症状の場合もあります。

このため、気づかずに他の人へ移してしまう恐れがあります。

クラミジアに感染しても初期は症状が軽いことが多いとはいえ
時間が経過するにつれて様々な症状を引き起こします。

例えば
女性の骨盤内にまで広がってしまうと
骨盤内で炎症を起こし
非常に強い腹痛(骨盤内炎症性疾患:PID)
に繋がります。

この場合
入院による点滴治療が必要となることも…。

また、こうした炎症によって子宮や卵巣に癒着が起こり
卵管が閉鎖することで不妊症となってしまうことがあります。

同時に
受精卵がきちんと子宮内にたどり着きにくくなり
異所性妊娠(いわゆる子宮外妊娠)のリスクも上昇します。

性感染症の予防のためには
まずこうした疾患の知識を正しくもち
コンドームを用いた予防が重要です。

新しくパートナーができた場合には
お互いに隠れた性感染症を持っていないか
検査してみるのも〇


まとめ

いかがでしたか。
様々なことに包括的性教育は関係してきます。

包括的性教育の普及と実践のために
ここまで、日本に包括的性教育の普及が必要な理由を書いてきました。

それでは、どのようにこれを実践し、広めていけばいいのかー。

まず「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」でも示されているように
子どもへは5歳から介入していくことが推奨されています。

これはつまり、家庭が性教育の最初の場ということです。

ただ、今の親の世代も
大多数の人がきちんとした性教育を受けてこなかった状況です。
それを自分の子どもにどうやって教えれば良いのかわからないと
困ってしまう方もいます。

しかし紹介した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」のように
情報提供者へのガイダンスがすでに存在しています。
最近では日本語版もありますので
内容を把握することは比較的容易になってきています。

一方現状では
学校教育のなかで実践可能な性教育は非常に限られています。

具体的な性行為について教えることはほとんどありません。

しかし、このまま数十年間先も変わることがなければ
日本のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツは
世界最低レベルとなってしまうかもしれません。

私は、今の子どもたちが大きくなったときに
「なぜ日本はこんな社会になっているのか」と思ってほしくはありません。
これからの日本を支える子どもたちに
しっかりとした知識と考え方を持ってもらえるように
今を生きる全ての大人が
性別に関係なく「包括的性教育」に真剣に向き合い
一歩を踏み出すときなのではないでしょうか。

最後までお読みいただきありがとうございました🌹

hitoe💋

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