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研究の問い(research question)を立てる

Chat GPTが昨年から話題になり、AIの活用がますます活発化する中、1950年のアラン・チューリングの論文が再度注目を集めています。アラン・チューリングとは「コンピューターの父」と言われる、イギリスの数学・暗号解読科学者です。第二次世界対戦時に、ドイツの暗号エニグマを解読する機械を開発したことで有名で、映画にもなりました。

このチューリングの論文、タイトルは’Computing Machinery and Intelligence’ (オリジナルの出典はMind: A Quarterly Review of Psychology and Philosophy 59 (236): 433-460, October 1950です)。私も読みました。書かれて70年以上経った今でも色褪せず、示唆に富んだ論考です。

この論文の最初の文で、チューリングは‘Can machines think?’という強い問いを提示しています。直訳すると「機械は考えることができるのか?」私たちが昨今盛んに議論していることです。「機械には感情があるのか?」という問いもよく立てられていますよね。そして、70年以上経った今でも私たちは議論を続けています。この論文は、チューリングの思考の旅がわかりやすく表現されているので、「論文の書き方」という観点からも非常に学びの多い論文ですので、是非ご一読をお勧めします。このリンクから無料で読めるようです。

私が今回のこの記事で申し上げたかったことは、このチューリングの論文の素晴らしさだけではなく、研究の問いの大切さです。研究では必ず「問い」(research question)を立てます。私も学生に、’What is your research question?’ と必ず聞きます。これが研究の出発地点だからです。研究の「問い」、すなわち、解決したい、解きたい問題は何か。これがなければ研究は始まりません。チューリングにとっては「機械は考えることができるのか?」が解決したい問いだったわけです。「解決したい問い」は、もちろんまだ誰も解を見つけていないものになりますし、それを見つける方法(すなわち研究の方法'research methodology')がなくてはいけません。研究の方法がない場合は、新しい研究の方法を考える、作り出すことも、研究の1部となり得ます。ただし、学生さんの研究の場合は、イチから研究方法を確立することは非常に難しく、時間もかかるため、すでに確立された方法を用いることがほとんどです。

研究の問いは、研究にとって最も大事なものでしょう。それゆえ立てるのもそう簡単ではありません。私の学生も、問いを何回も考えて、それでもアップデートすることがよくあります。ある程度研究が進んでからも変えることもあります。本当にそれを問いたいのか?の視点も重要ですし、一定の期間で、「解決できる可能性がある」ことも学生さんにとっては大事です(そうでないと、解が与えられないまま修士・博士論文を書き上げることは至難の業です)。チューリングのような、70年以上経っても議論される問いを立てる必要はありません。何か1つ学術の分野でまだ明らかにされていないもの、自分が興味を持って深く掘り下げたいもの、であれば充分だと思います。そのためには、文献を読んで、「何が今まだ分からない状態にあるのか」を理解することが重要ですし、その分野でリーダー的な研究者が書いてきた論文をいくつか読んで、その方がこれまでどういう経緯を辿って今このテーマを深掘りしているのか、を理解することが重要です。

これから研究者を目指す方々は、是非ご自身の「研究の問い」をよく考えてみてください。そして、その研究の旅が楽しいものになる「問い」であればなお良いです。

*6月末から約1ヶ月間、イギリスで研究をしております。これからの1ヶ月はイギリスでの研究活動のご報告もさせて頂ければと思います。

天皇皇后両陛下が訪英された直後のバッキンガム宮殿正面。歓迎ムードの名残。

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