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AIで創薬プロセスを革新!目指せ、一人ひとりにあった個別医療の実現!〜DX事例37_中外製薬株式会社〜

ITコンサル×パートナーCFOのタナショーです。

このnoteではDX事例やIT活用事例の紹介を通して、経営者の方がITを身近に感じたり面白いと思ってもらえることで、企業の成長に役立つ情報をお届けしていきます。

今回は医薬品業界からの紹介です。日本の大手医薬品メーカーである中外製薬株式会社の創薬に関するDXです。


AIを活用して創薬プロセスの革新を目指す

中外製薬は医療用医薬品を開発・販売する会社です。「医療用医薬品」とは医師の処方が必要な医薬品であり、ドラッグストアなどでの店頭で見かけることはありません。さらに医療用医薬品は薬事法により広告が禁じられていることもあり、中外製薬は広告や自社CMを出すのに消極的ですが、実はがん領域の医薬品で国内シェアNo.1を誇る会社でもあります。

そんな中外製薬は医薬品のなかでもバイオ医薬品の一つである「抗体医薬品」の開発に力を入れています。

抗体医薬品:
抗体の「特定の抗原(異物)だけに特異的に結合し、その異物を生体内から除去する」という特徴を活かして作られている。従来の医薬品と比べて、病気の原因となっている物質をピンポイントで攻撃する精度が高いため、正常な細胞を傷つける危険性も低い。次世代の医薬品として注目を集めている。

この抗体医薬品を開発するには分子構造や分子配列レベルで研究・設計をする必要性があり、開発には非常に高度かつ時間がかかります。中外製薬はこの抗体医薬品をスピーディに開発し、もっと患者に寄り添う医療を実現するために、下記取り組みを行っています。


①AIによる創薬プロセス(抗体創製プロセス)の高速化
前述のように、抗原に有効な抗体医薬品の開発には分子レベルでの開発が必要となりますが、この開発工程をAIで高速化します。

この開発工程を「抗体創製プロセス」と呼ぶそうですが、このプロセスは大きく「対象となる病気(標的分子)の設定」と、「候補となる抗体分子の選定」、「治験薬の作成」「臨床試験」4つに別れます。
2つ目の「候補となる抗体分子の選定」ですが、抗体となるアミノ酸配列のうち、候補となる分子配列の組み合わせは天文学的なパターンとなりますので、ここでAIを活用して最適な組み合わせを算出します。研究者の経験と感で組み合わせを決めていることも多いプロセスでしたが、この領域を機械学習や深層学習を用いることで最適かつ、スピーディな分子デザインができるようになりました。

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中外製薬株式会社「中外製薬 デジタル戦略説明会」より抜粋


②リアルワードデータ(Real World Data:RWD)の活用
電子カルテデータ、検診データなどの日常の実医療の中で得られる医療データをRWD(リアルワールドデータ)と言います。限られた被験者および限定的な条件下で行われる臨床試験データに比べ、実際の医療行為から得られるデータはその量としても膨大なものとなり、医療実態のリアルタイム把握や、実臨床における医薬品の有効性・安全性の評価への活用が見込まれています。

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中外製薬株式会社「中外製薬 デジタル戦略説明会」より抜粋

中外製薬はRWDを含む医療データを適時適切に活用可能とするエコシステムを構築し、患者中心の医療を実現する基盤を作っていきたいとしています。


③デジタルバイオマーカーのデータで患者の状態把握を実施
ウェラブル機器やモバイル、またインプラントで体内に埋め込んだデバイスから得られる生理学的データを活用します。代表的な例で言えば、アップルウォッチから得られる血圧や脈拍、心電図などの整体データや、健康アプリなどから得られる生活習慣や申告された症状のデータなどから、患者の状態把握や疾患の発症予測に活用します。

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中外製薬株式会社「中外製薬 デジタル戦略説明会」より抜粋

②のRWDにはこのデジタルバイオメーカーも含まれていますが、この取り組みにより臨床試験データやRWDの実医療データに加え、健康体の人のデータも取得できるようになります。より幅広いデータを収集・活用することで医療業界への発展と貢献が可能なります。


DXと経営戦略の関連性について

中外製薬は2021年に「デジタルで変える、ヘルスケアの未来。」というメッセージとともに、デジタルトランスフォーメーション「CHUGAI DIGITAL」を発表しています。

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中外製薬株式会社「デジタルトランスフォーメーション”CHUGAI DIGITAL"」より抜粋

基本戦略は3つで、前項で紹介したAIを活用した「①デジタルを活用した革新的な新薬創出」。生産プロセスや営業プロセスをAI等で効率化することによる、「②すべてのバリューチェーン効率化」。中外製薬で行う全てのプロセスを横断するデジタルIT基盤の開発や、デジタル人材を育成する「③デジタル基盤の強化」となります。

この3つの基本戦略を軸に、中外製薬はDXに力を入れることで患者に寄り添う医療である「個別化医療」を実現し、2030年までに社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するトップイノベーターを目指すとしています。


まとめ

いかがでしたでしょうか?中外製薬はDX専用ページやコンセプト動画がたくさんあったので詳細に触れず、概要レベルでの紹介が多くなってしまいました。

タナショーは「DXは最適なサービスを実現するために、人と組織をガラリと変えること」と紹介したことがありますが、中外製薬は「最適なサービス実現」のためではなく、「2030年という未来において自社のあるべき姿」を実現するためにDXを行っていました。約10年後という中長期の未来に対してのDXとなり、随分先を見据えた施策となります。

遠い未来のことを考え、中長期のスパンでDXや経営戦略を考えることも大事ですが、もちろん短期的な目線で考えることも大事です。「遠い未来のこと」も「ちょっと先の未来」においても、自社のあるべき姿を実現するためにはITの利活用やDXがきっと重要になってきます。引き続き、経営者の皆さんに有用な記事をお届けしますので、次回も楽しみにしていただければ嬉しいです♪
タナショー


参考にさせていただいた情報
中外製薬株式会社HP
https://www.chugai-pharm.co.jp/index.html
中外製薬株式会社「デジタルトランスフォーメーション”CHUGAI DIGITAL"」
https://www.chugai-pharm.co.jp/profile/digital/index.html
中外製薬株式会社「2020年12月期決算説明会」
https://www.chugai-pharm.co.jp/cont_file_dl.php?f=FILE_5_54.pdf&src=[%0],[%1]&rep=119,54
中外製薬株式会社「中外製薬 デジタル戦略説明会」
https://www.chugai-pharm.co.jp/cont_file_dl.php?f=FILE_1_107.pdf&src=[%0],[%1]&rep=117,107
note「ITベンダー役員から製薬会社にキャリアチェンジして1年。志済聡子が語る、本気のDX。」
https://note.chugai-pharm.co.jp/n/n7f0d92adc24e
note「中外製薬 科学技術情報部の社員が解説! リアルワールドデータ(RWD)とは?」
https://note.chugai-pharm.co.jp/n/n0f2228b3f2c0

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