未発売映画劇場「サント対廃墟の怪人」
サント映画完全チェックの旅、粛々と続けて第36作。メキシコでの公開が1973年2月なので、前回の「サント対物体X」とほぼ同時期の公開だけど、たぶん撮影時期はだいぶ違うんだろうと思う。
タイトルは「Santo y el águila real」 上掲のポスターの絵にもあるように、「サントとイヌワシ」といったところか。英語題でも「The Royal Eagle」がポピュラーなようだ。
サントが助けることになるヒロインのペットとして飼われているワシがその由来。むろん、ただのペットではなく彼女の守護神みたいになっているのだ。
女地主のイルマは、何者かに何度も襲撃を受け、命を狙われていた。思い余った彼女は旧知のサントに救いを求める。さっそく駆けつけるサント。だが敵はその正体をなかなか見せない。イルマの農場に隣接する地所の持ち主が彼女の土地を狙っているのか。やがてサントが突き止めた敵の正体は……?
相変わらず、大してヒネリのある展開でもないし、スリルもサスペンスもほとんどない。まったくいつものサント映画テイストで、ハッキリいって見せ場もない。
お楽しみのサントの試合シーンも一つしかないし、その試合もなにやらモッチャリした展開で面白くない。
ただ、この映画の目玉は、じつはそのへんにはないのである。
今回の目玉商品は、女地主のイルマを演じる彼女なのだ。ポスターの左下で艶然と微笑む彼女が、この映画最大のエンジン(らしい)
彼女の名はイルマ・セラノ(Irma Serrano)
きみは知らないだろうけど、じつはかなりの大物なのである。
今回のタイトルカットに借用したアド・デザインをご覧あれ。英雄サントと真っ向から対面しているのがイルマ嬢。ほぼサントとダブル主演あつかいされているでしょ。
じつはこのイルマ嬢、メキシコでは女優であると同時に人気歌手であり、1960年代のメキシコ音楽シーンを代表するアーティストなのだ。そのうえ後年には舞台プロデューサーや作家としても活躍し、また政治家として上院議員にまでなっている。
日本でいえば、美空ひばりと吉永小百合と山東昭子を合わせたような……いやわかりにくいな。まぁ日本には匹敵する者がいないほどの存在だと言ったら言い過ぎか。
サント映画にはいろいろな俳優がゲスト出演しているが、間違いなくそのなかではもっとも大物の部類。
サント自身に匹敵するような大物との共演となると、たぶん大物コメディアンのカプリナと共演した「サント対暴走野郎カプリナ」以来ではなかろうか。
この時期にはサント映画の人気にも陰りが出ていたので、大物との共演でシリーズ延命を図ったのか。いやそれはうがち過ぎかもしれないな。
ちなみに、このイルマ・セラノの映画デビュー作は、これより10年前の1962年の「サント対ゾンビ軍団」だったりする。記憶にないけど(見直してみたら女刑事役で、それなりに目立ってはいた) まぁ、もともとご縁があったってことか。
これは別タイトル「Santo y la Tigresa」を使ったポスターだが、ここにある「la Tigresa」というのはイルマ・セラノのオフィシャルな愛称。「あばずれ女」といった意味らしいが、それでいいのか(笑) こんな別タイトルがあるのも彼女がサントに伍する存在であることの証明だろう。
「サント対ゾンビ軍団」で映画デビューしたイルマ嬢、その後の10年でここまで成りあがったわけで、さぞ感慨無量だったことだろう。知らんけど。
そんな記念すべき作品だけに、じつはこの映画、サント映画史上最長の作品なのである。
これまでほとんど触れてこなかったが、サント映画は、そのほとんどが90分よりも短い80分台。なかには70分台のものもある(最短は「サント対悪の頭脳」の70分)
本作は資料によれば100分だが、DVDのランニングタイムは105分。どちらにせよ、サント映画でここまで長い作品は他にない。
サント本人だけでなく、ゲストスターにも時間を割いたせいで長くなったのか。じっさい、イルマ嬢の歌唱シーンがどーんとフィーチャーされており、メキシコの歌姫(当時)の歌声も堪能できる仕組みである。
監督は「サント対侵略火星人」「サント対カルト集団」のアルフレド・B・クレベンナ。この映画の後も登板して、たぶんサント映画をもっとも多く手がけた監督さんなのだが、今回は(今回も?)冴えた演出とは言いかねる。なんかマッタリしてるんだよね。そのへん、いかにもサント映画らしいのだが。
マッタリしていて時間も長いとなると、とても耐えきれない作品になりそうなものだが、じつは意外と長さを感じさせない。
最初は土地乗っ取りにからむ犯罪ミステリふうに始まるが、犯人たちがおぼろげに姿を現わす途中からはスーパーナチュラル系のホラー・タッチに転じ、最後は「悪しき血の呪い」みたいなハナシに落とす。
だるくなりそうなところで、上手いことギアチェンジされるのだ。
これは意図しての演出なのか、それとも脚本が未整理で右往左往しただけのことなのか、たぶん後者なんだろうが、結果オーライだ(甘い採点)
ところで、今回タイトルにつけた邦題は、このモノクロ写真の男に由来。
本欄ではいちおうネタバレを回避するために、詳しいことは書かないが、最後のオチが「悪しき血の呪い」なのは、現在ではちょっと政治的に正しくない。現われた「犯人」が遺伝的な奇形で、そのために存在を隠蔽されていたというのはちょっとね。
だがそんなことをまったく問題視させそうにないのが、シリーズ屈指の脱力系なクライマックス。
【ネタバレだけど書いちゃうぞ!】
出現した犯人コンビが、サントをKOし、守護神のイヌワシも排除し(取っ捕まえて袋詰め)、ヒロインのイルマ嬢に迫るのだ。孤立無援のイルマ嬢の運命やいかに?
というところでどうなると思う?
なんと犯人コンビが勝手に仲間割れして共倒れになってしまうのだ!
そのあとに、気がついたサントが駆けつける……おいおい(笑)
脱力することが多いサント映画の中でも、いまのところ最大の脱力オチなことは間違いない。そのすべてを見てきた私が太鼓判を押そう。
豪華2本立てのDVD。もう片方を見るのはもうちょっと先になります
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