見出し画像

未発売映画劇場「サント対物体X」

粛々と進むサント映画完全チェックの旅。はたしてこの道はどこまで続くのか(笑)

第35弾の今回は「Santo contra los asesinos de otros mundos」 メキシコでの公開は1973年2月。1970年代前半の数年は、それまでにも増してハイペースでサント映画が公開されていたのだが、そのなかでも1973年はじつに6本ものサント映画が公開されている。在庫一掃セールかよ。当時のメキシコの映画ファンはどういった受け止め方をしていたんだろうか。

画像1

アメリカでは「Santo vs. the Killers from Other Worlds」という英題がつけられていたようだ。「異世界からの襲撃者」みたいなニュアンスか。メキシコでは「Santo contra el átomo viviente」というタイトルもあるみたいで、こちらの「el átomo viviente」というのは、英語にすると「The living atom」  ここでいう「atom」はたぶん1950年代あたりのアメリカ製怪獣映画のタイトルに多かったものと同じような意味合いで、日本語に意訳すると「原子怪獣」といったところかな。ほら「原子怪獣現わる」とか「放射能X」とかと同類だよ。

といっても、ここでは原爆とか原発とかは関係ないみたいだから、まあテキトーなタイトルなんだろうな。

これまでは犯罪者と妖怪系モンスターが対戦相手のほとんどだったサントだが、今回は初めて「怪獣」と対峙することになるのか。

というわけで、映画冒頭、なんのタメもなくいきなり登場する「怪獣」がこちらだ。

画像2

いや、これじゃわからないか。じゃあ、サントと一緒に写っているこちらでどうだ。

画像3

このモニャモニャしたやつ、じつは過去の怪獣映画の歴史でも1ジャンルを成す「不定形怪獣」一族の一員なのだ。

たとえば有名どころでは、英国ハマープロの「原子人間」「怪獣ウラン」、あるいはかの有名な「マックイーンの絶対の危機(人喰いアメーバの恐怖)」とかそのリメイクの「ブロブ」、名作「遊星からの物体X」もこのジャンルか。わが国では例が少ないが「美女と液体人間」とか「宇宙大怪獣ドゴラ」あたり。ウルトラ怪獣でいえばバルンガとかグリーンモンスとかブルトンとかがそれだろう(古いのばかりでゴメン)

要するに、デカいアメーバみたいなので、ブヨブヨねばねばドロドロしてて、犠牲者を自分の体内に取り込んでしまうアレですね。

ちなみに名前からして不定形っぽい「ドラゴンクエスト」のスライムは、あれで形がハッキリしていますから、失格です。

さてとくに名前もないらしい、サント映画版不定形怪獣ですが……

次々と市民を襲う謎の怪獣。襲われた人々はあっというまに溶かされて骨だけにされてしまう。対策に苦慮する警察の会議中、突如としてテレビ電波をジャックした悪のボスから犯行声明がとどく。市民を守るために身代金を払えというのだ。どうやら怪獣を操っているらしいこの悪党を倒すため、指令を受けたサントが身代金の受け渡し現場に乗り込むが……

ま、そうしたストーリーはこの際あんまりカンケーない。この映画の主役はあくまで謎の怪獣なのだから。じっさい、悪のボスは映画中盤で早々に退場してしまう。あとは怪獣の独壇場だ。

さてその怪獣だが、ありていに言ってチープだ。上掲した写真ではわかりにくいかもしれないが、動く映像で見るとその仕組みがあからさまにわかってしまう。

どう見ても、数人の人間の集団が色つきのシーツを頭からかぶって、もそもそ這いまわっているだけにしか見えないんだよね。

子ども相手に、シーツをかぶってオバケだぞぅっていうのと、さして変わらないレベル。

まぁそもそも特撮の質に期待するような映画ではないし、そのへんにこだわってもしょうがない。とはいえ、これは1973年の作品。これより5年ほど前にはすでに「2001年宇宙の旅」や「猿の惑星」が出ており、5年ばかり後には「スター・ウォーズ」「未知との遭遇」が作られる。同じ年には「ポセイドン・アドベンチャー」「エクソシスト」も公開されている。ハリウッドと較べちゃ気の毒とは思うが、そんな時期の特撮としては、やはりこれはいかがなものか(笑)

画像4

だがまあ、そんなことは大した問題と思ってはいけない。少なくともこの映画、サント映画に「怪獣もの」というひと味違ったものを加えようとしたのは確かだろう。その意気は買いたい

しかし、その意気が逆に足を引っ張ることになるから、映画というのは難しい。

ここでの最大のエラーは、怪獣の形態を不定形にしたことだ。日本で多い恐竜タイプや、アメリカではおなじみの巨大化生物ではなく。

もちろん、恐竜や巨大化生物は撮影に必要な造形物を作成するのに、かなりの費用が必要になる。それに対して不定形怪獣は、だいぶんお安い。今回のこいつも、大型のシート一枚にペンキでも塗りたくれば事は足りる。巨額の予算を用意できるわけでもないし、もちろんCGなんてものもない時代のサント映画では、妥当なチョイスだろう。

だが一方で、これほどサント映画に向かないチョイスもなかったのだ。

サント映画のアクションは、銃撃戦やカーチェイスなどもないではないが、基本的には肉弾戦。そりゃそうだろう、なにしろサントは現役のプロレスラーなのだから。だからサント映画の観客が期待するのは、当然ながらサントがプロレス技を駆使して相手を叩きのめすことだ。これは相手がギャングだろうが吸血鬼だろうがミイラだろうが猛獣だろうが宇宙人だろうが、揺るがない。

ところが、このプロレス技、こと不定形怪獣と戦うのにはまったく向いていない。というかほとんど不可能だ。

格闘技の技は大雑把にまとめれば、パンチやキックの打撃技、スープレックスなどの投げ技、そして関節技に集約される。いわゆる「打・投・極」だ。

おわかりだろう、手も足も骨もなく上下左右もなく衝撃も吸収するような不定形怪獣に通用するようなプロレス技などないのだ。

ということでどうなったかというと、映画の後半、サントはひたすらこの不定形怪獣から逃げ回るだけなのだ。反撃のシーンはほとんどなし。これでは残念ながら、サント映画の魅力も半減だ。

この映画のアイデアが出たときに、この明白な欠点に誰も気づかなかったのか? いやさすがはサント映画の作り手だと、逆に感心すらしたよ。

いやさすがに気づいたのか、映画の中盤には取ってつけたような格闘シーンがセットされている。悪のボスに捕らえられたサントが、なぜか闘技場のような場所に連れ込まれ、どういうわけかグラジエイターのような剣闘士と戦わされるのだ。いかにも付け焼刃な見せ場だけどね。

画像5

このシーンがいかにも急場しのぎなのは、ふたりの剣闘士に続いて用意される3人目が、放射能防護服みたいなのを着て火炎放射器を持った怪人なのでもわかる。ほら、すでに格闘技じゃなくなってる。

ここをなんでいつものようなリング上でのプロレス対決にしなかったのかは理解に苦しむね。

この映画を撮った監督さんはルベン・ガリンド(Rubén Galindo) 1938年生まれというから当時まだ35歳くらい。1970年の監督デビューだから、このころはまだ新人監督(とはいっても、この映画が8本目)だが、この後にもサント映画を監督している。サント映画にも新しい世代が育ってきていたってことだろうか。

画像6

前記したように1973年には6本ものサント映画が並んでいる。サント映画完全チェックは、1年以内でこの6本を完走できるんでしょうか。

【前回】サント対コロンビア・ギャング 【次回】サント対廃墟の怪人

未発売映画劇場 目次

映画つれづれ 目次

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?