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未発売映画劇場「サント対コロンビア・ギャング」

年が改まっても続くサント映画完全チェック。今年もよろしくお願いします。今回は第34弾。いよいよ残り20作ほどになりました。

前回の「サント対エクアドル・ギャング」に続いて、今度の舞台はコロンビアです。

サント海外雄飛、南米転戦の第2弾!

タイトルは「Santo frente a la muerte」 英語題「Santo Faces Death」も同様で「サント、死に直面す」くらいの意味。1972年の12月にメキシコで公開されました。

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と、紹介しましたが、これは正確ではありません。

この作品、純粋なメキシコ映画ではなく、スペイン、コロンビアとの共同製作。そしてじつは1969年製作の作品なのです。

本欄ではメキシコでの公開順で観ていっているので、順番が前後しています。今回は3年ほど前の作品にさかのぼったことになりますね。ちなみに初公開されたのはスペインで、1970年4月

なんでまた本国たるメキシコで、そんなに長くおクラ入りになっていたのか?

推測に過ぎないんですが、1969年には2本、1970年には5本(!)、1971年には3本のサント映画がメキシコで公開されているせいではないでしょうか。3年間で10本。つまりこの時期のメキシコは、サント映画が飽和状態だったので、スペインで作られたこの作品の公開は後回しにされていたのでは?

そんな推測にも、じつは根拠があります。

この「Santo frente a la muerte」、じつにもって面白くないのです

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舞台はほぼ全編がコロンビア。この点は嘘はありません。全編海外ロケです。そう言われないとわかりませんが。

で、開巻からいきなり、軍隊まがいの連中のハデな銃撃戦。正規軍っぽい兵士たちが守る貧相な建物を、ゲリラっぽい連中が襲撃します。ドンパチの末に襲撃者たちが勝利すると一味のリーダーが手にしたのは、貴重な宝石の原石。貴重品なんですよ、ただの石の塊に見えるけど決してそんなことはありません。しかもリーダーがゲリラっぽいマスクを取ると、なんと女性だったりします。彼女らは奪った石、じゃなかった宝石を謎めいた黒幕のもとへ持ち込みます。

という発端からして大して期待は盛り上がりません。そしてこの宝石をめぐって、コロンビアに飛来した国際捜査官(らしい)サントが奪回に乗り出すのです。

このストーリー自体が、およそ魅力的とは言いかねるシロモノですが、その後の展開はもうグダグダ。サントは何をしようとしているのか、追われる連中も何をしたいんだか、さっぱりわからないまま、時間はどんどん過ぎて、わりと唐突に映画は終わります。ハッキリいって、途中の経過はよくわかりませんが、それはセリフがすべてスペイン語だからだけではないです。

演出がモタモタしてリズムが悪い、カメラワークが拙くて画面が見づらい、アクションの振りつけがなってない、などなどが次々と襲いかかってきて、映画の筋を追う気にもなれないのです。

最初のほうで、街中をサントたちが行くシーンがあるのですが、周囲を歩いているフツーの人々が洩れなく振り返ってまじまじとサントやカメラのほうを見るのであります。いやこれじゃシロウトの自主映画だよ。

いちおうロープウェイや飛行機などアクションのネタになりそうなシーンがありますし、どうもホンモノの軍隊臭い(コロンビア軍かな)連中が出動するシーンもありますが、ほとんど活かされず。

見せ場といえば、敵が企画したサントの偽物と本物が鉢合わせしてサント対サントの乱闘(服まで同じでどっちがどっちかすぐにわからなくなる)が起きるシーンと、サントが軍用機からパラシュート降下するあたりでしょうか。ことにサント空挺隊員のスタイルはなかなかどうして笑えます。

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サント自身も、どうもカッコ悪い。いままでもリングコスチュームじゃない私服のサントは登場していたし、そこにけっこうな違和感があったのも事実ですが、今回の主なスタイルであるタートル姿は異常に野暮ったく、サントがやけに太って見えます。たぶん色の選択がよくないのでしょう。

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いままで見てきたサント映画にも相当なモノがありましたが、今回のこれは文句なしに最下位グループです。責任者出てこい!

その責任の大部分を担うべき本作の監督ですが、なんと3人がクレジットされています。いずれもスペインサイドの監督らしい、マニュエル・ベンゴア(Manuel Bengoa)、エンリケ・ロペス・エグイレズ(Enrique López Eguiluz)、そしてメキシコ組らしきフェルナンド・オロズコ(Fernando Orozco)

3人がかりでこれかよとツッコむべきか、船頭多くして船山にのぼるの実例とすべきか、監督の無駄づかいというべきか。このうちオロズコはのちにもう一本サント映画を撮っていますが、ほかの2人も含めてロクな作品も残していないようだし、日本ではまったく知られていません。

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そうそう、サント映画では非常にめずらしいシーンがありました。じつは悪役ギャング団の女性リーダーのアリシアが、じつは女子レスラーであると設定されていまして、なんと彼女のプロレス試合が劇中に登場するのです。

生粋のルチャムービーであるサント映画では、毎回サントの試合が登場するのですが(今回も2戦ほどマッチメイクされていますが、いずれも凡戦です)、サントがまったくからまない試合が披露されるのは、たぶん初めて。それも女子プロレスですから、けっこう希少物件であります。

アリシアの試合は映画の中盤で突如始まりますが、金髪のはずのアリシアがなぜか黒髪。どうやらこれはスタントを使うためらしく、試合中はあんまりハッキリ顔が写りません。で、試合が終わってドレッシングルームに戻ると、さっと黒髪のウィッグを外して本来の金髪に! なるほど、そういう手があったか。

このあと、赤いコスチュームの選手とマスクウーマンの試合もマッチメイクされ、その試合中にドレッシングルームでの女子レスラー同士のキャットファイトもあったりして、映画の見せ場にするつもりだったのでしょうか。

まったく効果ありませんでした。

ちなみに、アリシアを演じたのはエルザ・カルデナスというちゃんとした女優さんで、悪女役を得意とし、多くのメキシコ映画に出ているほかハリウッド映画にも進出して、「ジャイアンツ」や「ワイルド・バンチ」などにも出演しています。

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この「アカプルコの海」(1963年)ではエルビス・プレスリーと共演し、一時は恋人関係にあったとかなかったとか。ある意味、サントよりも大物だったんじゃないですかね。

なんでそんな人がこんな映画にと思いますが、これが映画界というものなんでしょう。彼女はこの前後にも数本のサント映画に出ていますしね。

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開始以来、一貫して低空飛行をつづけてきたサント映画ですが、1970年代に入るあたりから、どうも高度がいちだんと低下してきたようです。

御大のサント自身が年齢を重ねて動きがしんどくなってきたせいもあるでしょうし、さすがにマンネリがひどくなってきて身動きがとりにくくなったのかもしれません。また、この時期になると世界のどこの映画界でもあった、テレビに喰われて劇場興業の映画というものが苦しくなってきたせいもあるでしょう。

そのせいか、この時期から後のサント映画は、前回のエクアドルや今回のスペイン&コロンビアのように、外国(メキシコから見て)との合作が目立つようになってきます。もはやメキシコ国内では資金調達が苦しくなってきたのでしょうか。

ま、そんなことは置いといても、サントは映画に出続けますし、本欄も粛々と続けていくつもりですので、覚悟しておいてください(笑)

【前回】サント対エクアドル・ギャング           【次回】サント対物体X

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