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未発売映画劇場「サント対エクアドル・ギャング」

サント映画完全チェック、次なる第32弾は1972年2月3日にメキシコで公開された「Las momias de Guanajuato(グアナフアトのミイラ軍団)」 Guanajuato(グアナフアト)ってのはミイラ博物館が有名な、メキシコ中央高地の町の名前。

いまさらっと「サント映画」と書いたが、じつは……

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ご覧のとおり、サントがセンターじゃない

はい、この映画の主役はサントではなくて、サントの永遠のライバルにして盟友のブルー・デモンなのだ。ケースとしてはブルー・デモンの主演2作目「ブルー・デモンと悪魔の力」にサントがカメオ出演したのと同じか。あれよりももうちょっと出番は多いし、きちんとストーリーに絡んではいる(いささか強引なカラミなんだが)けれど、あくまでゲスト出演。

この映画で見逃せないのは、ブルー・デモンの若き相棒をつとめるのが、あのミル・マスカラスなことだ。サントとは初共演。もちろんこの当時はサントやブルー・デモンのほうがはるかに格上なので、若きマスカラスは両巨頭にパシリあつかいされてる。まぁ仕方ないよな。

とはいえ、ブルー・デモンとマスカラスのコンビが、ミイラ博物館から甦ったプロレスラーのミイラ怪人と戦うだけの、言ってしまえば変わりばえのしないこの映画が、人気のマスカラスが出ているおかげで、わが国でも国内発売されている

邦題は「ミル・マスカラスのゴング1」 マスカラス主演じゃないけど、サントもブルー・デモンも邦題には姿なし。

資料によっては1983年作品なんてことも書かれているが、これは明白な間違い。ついでにいえば「ミル・マスカラスのゴング2」も出ているが、こちらは「El robo de las momias de Guanajuato」という1972年の作品で、サントもブルー・デモンも出ていない。

なんにせよサント出演映画で、たぶん唯一の国内発売映画なんだが、VHSで出たきりなので現在は入手困難だろう。持ってる人は自慢できるぞ。オレは持ってないが。

というわけで、この「サント映画完全チェック」では番外としておこう。未発売映画じゃないからね。

前置きが長くなった。正調サント映画の第33弾は1972年9月にメキシコで公開された「Santo contra los secuestradores」 アメリカでは英語題の「Santo vs. the Kidnappers」で知られているそうだ。メキシコとエクアドルの合作

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もう毎度のように書いているが、サント映画のクオリティは概して高くはない。そこに独特な「味」があるのは間違いないし、そのせいで私のようにドハマりするスキモノもいるわけだが、それでも客観的に見て決して人様に推薦できるような代物なわけではない。

ところがそんな低クオリティのサント映画のなかにも、ひときわ程度の低い作品がある。いままでも、あったよね。

今回のこれは、間違いなくそんな一本。サント映画に32本もつきあってきた私のヒイキ目で見ても、救いようがないのだよ。

オープニングは船上。貨物船らしき船の甲板で、何人もの荒くれ男(船乗りか沖仲士か不明)とサントが大乱闘。多勢に無勢もモノともせずに、次々と男たちをぶちのめすサント。強いぞサント、すごいぞサント。

これは本筋とは無関係。まあツカミとしては悪くないんだが、いかにも雑なのだ。

そもそもアクションの振り付けがなってない。サント映画なのだから、路上プロレスよろしくファイトすればいいのに、ひたすら殴る蹴る倒すばかりで、技らしい技はなし。だいたい名レスラーのサントと対峙するのに、いかにも貧弱な兄ちゃんかデブのオッサンが多いのでは迫力も何もない。戦いの舞台となる甲板も、狭い。大乱闘が窮屈なんだよ。もうちょっとダイナミックにいってほしいな。

おまけに船上のこの大乱闘、甲板の周囲や隣りに停泊中の船の上にまで、見物客がワンサカいるのはいかがなものなのか。これでは、まさしく路上プロレスに見えてしまう。乱闘に巻き込まれた一般人の設定なのか、それとも撮影見物のヤジ馬なのか、それすら判然としない。

このユル過ぎる雰囲気のおかげで、大乱闘のさなかにカメラマンが写りこむという初心者並みのエラーすら許容できてしまう。どれじゃダメだろ。

で、冒頭の大乱闘には何の説明もないまま、インターポールの要請でサントはエクアドルへ飛ぶ。現地でギャング組織に誘拐された技術者を救出するためだ。どうやら贋札を作るために拉致されたらしい……っていうような背景は、すべてセリフで説明される。それじゃダメだよ。いやこちらがスペイン語がわからないからってばかりじゃなくてさ。

背景は英語の資料を調べてようやく解明したのだが、映画なんだからちゃんと映像で表現してほしい。サントがインターポール本部で説明される言葉だけで、被害者の写真一枚提示されるわけでもなく、拉致シーンの再現映像もなし。これではねぇ。

ちなみに原題は「サント対誘拐団」みたいなニュアンスなのだが、犯人サイドは別に誘拐を専門にしているわけではない。このタイトルも不適切。

その後も、さほどの魅力もないし、やたらと欠点やミスばかりが目につく。サント映画にしても、かなり不出来の部類。

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ちなみに、ここまでレベルが低くなったのは、ひょっとしたらエクアドルとの合作のせいなのかもしれない。メキシコ映画の撮影技術の水準だってそんなに高いわけではないのだが、エクアドル映画はさらに下なのか。そのへんは、ほかのエクアドル映画を見たことがないのでわからないが。

そんな作りの雑さにもましてマズい点は、映画そのものの企画にある。

エクアドルでのサントの周囲で、協力しているのか邪魔しているのか判然としない小男でチョビ髭のオヤジ。サントの真似をしたり、酔っぱらってドタバタしたり、ドジを繰り返してくれる。コメディリリーフといえば聞こえはいいが、映画の緊張感(いちおうこれ犯罪サスペンス映画だよね)をいちじるしく削いでいるに過ぎない。

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こんなやつなんだが、じつはこのオッサン、エクアドルでは国民的な歌手でボードビリアンのエルネスト・アルバン(Ernesto Albán)というおかた。1912年生まれで、1930年代から舞台や映画で活躍している超人気スター。エクアドルのチャップリンといったところか。この映画を見るかぎりではとてもそうは思えんが。でもこの写真にあるように伝記まで出版されている大物なのだ。

この映画ではエヴァリスト(Evaristo)という愛称でクレジットされ、どうやら役名もそれなのだが、これは彼が演じ続けてきたキャラクターの名前で、彼の代名詞にもなっている人気キャラなんだとか。うん? どっかで聞いたような話だな。

そう、以前にみたサント対暴走野郎カプリナと同じような趣向。カプリナも自分の演じた人気キャラクターの名前がそのまま役名になっていたっけ。

メキシコ喜劇王と組んだ結果は「うまく融合せずにバラバラ」だったのだが、今回もまた同じようなことになっている。サスペンスとコメディがまったく別々に同じ映画の中に同居してしまっているのだ。

学習してなかったんだな。

もっともこの映画、はたして「サント映画にエヴァリストが参加した」のか、それとも「エヴァリスト映画にサントが担ぎ出された」のか、どちらなのかよくわからない。もしも後者だとしたら、全面的にサント側のせいではないことになる。まあ罪は軽くないが。

映画の舞台やベースがエクアドルであること(いちおうメキシコとエクアドルとの合作だが)、映画のラストをエヴァリストがさらうこと(サントに譲られた車で颯爽と走り出したとたんに事故る)あたりを考えると、やはり「エヴァリスト映画にサントが担ぎ出された」のが真相だろうか。

この時期のサント映画の公開ペースを見ても、相当の過密日程で撮影していたのは想像がつく。1960年代には年に2~3本くらいだったのが(それでも多いぞ)70年代に入るとぐんと増え、1970年には5本、この「サント対エクアドル・ギャング」が公開された1972年にも4本ものサント映画が公開されている。要するに粗製乱造の時期なのだ。

だとしたら、その合間にこうした「テキトーにつきあった」映画があっても不思議ではなかろう。

そうした質の低下の背景には、メキシコにおける映画産業の斜陽などもあるのだろうが、そこまではよくわからんよ。

ともあれ、メキシコにおけるサント映画(を含むルチャ映画)が終末期に入っていたのは間違いないだろう。このあと10年ほども続くサント映画、見るのが怖くなってきたぞ。

そうそう、例によってサントの試合シーンもあるのだが(エヴァリストがサントになって試合をする夢を見るシーンもある)、どうもショボい。察するに、メキシコからレスラーを連れてはいかず、現地エクアドルのレスラーを使ったのではないか(会場もショボい) エクアドルにもちゃんとプロレスがあるのだが(1980年代には確かタイガー・ジット・シンが進出していたし、2000年代にはディック東郷も参戦していたと思う)、少なくともこの時代にはあまりいいレスラーはいなかったようだ。知らんけど

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エクアドル色が強い(らしい)映画だが、監督はサント映画を9本手がけたフェデリコ・クリエル(Federico Curiel)、サント映画ではおなじみの準レギュラーのフェルナンド・オセスらもちゃんと参加してはいる。

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