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未発売映画劇場「サント対ブラコラ男爵」

今回はサント映画完全チェックの第14弾なのだが、その前に一本触れねばならない作品がある。

1966年4月にメキシコで公開されている「Blue Demon contra el poder satánico」だ。「ブルー・デモン対悪魔の力」といったところか。

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悪魔対悪魔かよと思うようなタイトルだが、ご存知の方も多いだろう、ブルー・デモンとは、サントのライバル(のちには盟友)で、メキシコではサントと双璧を成す人気プロレスラーである。サント同様にリングのスーパースターで、またサントほどではないが多数の映画に出演している(そしてサントと同様、日本のリングには上がっていない)

この作品は、そのブルー・デモンの映画デビュー第2作。内容的にはサント映画と大差はなく、サントのポジションにブルー・デモンがつくだけ。本作では悪魔的パワーで美女を次々と操り、猟奇的に惨殺してゆく怪人との闘いを描く。

で、その映画にサントがゲスト出演しているのである。サント映画同様に、冒頭にブルー・デモンの試合が描かれるのだが、続いてサントの試合も挙行される。もちろん本編とは何の関係もない。そして映画の中盤にも登場して、試合の控室でブルー・デモンにいくつか簡単なアドバイスをする。

サントの出番は以上。なので、このサント映画完全チェックでは、第13弾にあたる本作は、場外戦ということにしよう。

さて、「サント対墓場教授」に続く正式のサント主演映画は、翌1967年の11月に公開された「El barón Brákola(ブラコラ男爵)」 どうやらこの前後の作品ではタイトルから「サント」の名が消えているようだが、そのことには大した意味はなさそうだ。それくらい、従来のサント映画と違いはない。

ところで、「ブラコラ男爵」って、誰だよ?

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冒頭に現われるのは、古びた地下墓所。ミイラや白骨がならぶなか、ひとつの棺桶の蓋が開く。なかから現われたのは、立ちカラーのマントを羽織った貴族然とした男。そう、かのド★キ★ラ伯爵そっくりの服装のこの怪人こそが、本作のタイトルにもなっている吸血鬼ブラコラ男爵なのだ。

それにしても、なんでまたあの有名なモンスターを起用せずに、こんな中途半端な変更を施しただけのキャラにしたのか。コウモリに変身したり、十字架を恐れたりと、まったく設定はいっしょなのに。

なにか著作権上の問題でもあったのか? いやそんなことを気にするような奴らではないような気もするが。

甦ったブラコラ男爵、どうやら18世紀に失った恋人(らしい)レベッカの死を嘆いている。彼女の棺桶の中には、白骨死体と打ち込まれた木の杭だけが残っていたのだ。そして、その復讐を求めた男爵が仇敵である白仮面の剣士(らしい)の子孫を狙うのだ。

吸血鬼映画の定番ですな。

「サント対女吸血鬼軍団」も同じような設定使ってたっけ。もちろん男爵の前に立ちはだかるのが、現代の聖者サントであるのは言うまでもない。男爵をめぐる18世紀の因縁と、現代のサントの闘いが並行して描かれるのも定石どおり。

ブラコラ男爵を演じるのは、サント映画のレギュラーにして、サントを映画の世界に導いた、プロレスラーとしても盟友のフェルナンド・オセス。クリストファー・リーとはいわんが、もうちょっと吸血鬼役に慣れた俳優を雇えなかったもんか。

というのも、サント対フェルナンド・オセスのファイトとなると、二人ともプロレスラーだけに、どうしても肉弾戦になってしまうのだ。殴る、蹴る、投げる、極める。

最後の対決でも、棺桶の上からダイブしたサントのボディアタックで勝負あり。そのあと、型通りに心臓に木の杭を打つのが余計に見えるほど、見事な必殺技炸裂でした。

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監督はホセ・ディアス・モラレス(José Díaz Morales) ここまでの完全チェックでも見てきた「サント対魔の斧」「サント対墓場博士」を手掛け、この後もしばしばサント映画を手掛ける常連監督。犯罪サスペンス系ではなくホラー系、それも過去の因縁が現代にたたるという、歴史的な因縁ばなし系をもっぱらにしているようだ。

この「サント対ブラコラ男爵」でも、そもそもブラコラ男爵と白仮面の剣士の因縁を描く18世紀のパートがやけに長く、本編の半分くらいを占めている。その部分だけならばコスチュームプレイ(時代劇)といってもいい(アクションのほとんどはチャンバラだし)

そこが見どころになっていればまだいいのだが、全体にもっさりした切れ味の悪いアクションで平板な出来栄えだ。まあ期待はしていなかったが。

ホセ・ディアス・モラレスは1908年スペインのトレド生まれで、スペイン市民戦争の際にメキシコに移住したという。監督デビューは1942年。1970年代半ばまで現役で、監督作品は100本近くにおよぶ(1974年没) 予想通りだが、日本での公開、発売作品はまったくない。

残念なことに、ウィキペディアにすら項目のない監督さんだが、フィルモグラフィを見ると、年に4~5本の作品を監督していることもめずらしくないようなので、どうやら量産型の監督だったようだ。なにしろ代表作のひとつに、この「サント対ブラコラ男爵」を挙げている資料が多いくらいだから。

そんな映画だが、唯一、強烈な印象を残すのが、このド迫力の女吸血鬼

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いや別にサントと対決して大立ち回りを演じるとかではなく、18世紀パートに出てくるだけなのだが、なにしろこのご面相、ちょっと怖いくらいだ。ホラー映画史上に数多い女吸血鬼のうちでも、トップクラスの迫力ではないだろうか。演じているのはスサーナ・ロブルス(Susana Robles)という女優さんらしいが、ほかの出演作は見当たらない。

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というわけで、ますます快調な(?)サント映画だが、この作品もなぜかソフト発売がないようで、ネット鑑賞となった。どうやらアナログのビデオソフトをデジタル化したもののようだが、画質は最低で、見にくいことこのうえない。ちなみに最初に入っているクレジットによると、SOMETHING WEIRD VIDEOのものらしい。このジャンルではそれなりの大手で、私も数本は持っているレーベルなのだが、残念ながら現在は廃版の模様だ。

さて、次回はついに大ネタが登場する予定。

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