未発売映画劇場「サント対侵略火星人」
これまでは、犯罪サスペンスとホラーの両ジャンルを舞台に活躍してきたわれらがサントだが、ついに新たな分野に進出する。SFだ。
サント映画完全チェック第15弾は「Santo el Enmascarado de Plata vs. La invasión de los marcianos」 えらく長いタイトルだが直訳すれば「白銀仮面サント対火星人の侵略」 ちなみに「SANTO vs. MARTIANS」つまり「サント対火星人」というよりシンプルな英語タイトルもある。これまでのメキシコ題とはちがって「vs.」という英語が使われているのは、たぶんこのほうがカッコいいからだろう。
そう、今回の敵は地球に攻めてきた火星人なのだ。宇宙大戦争なのだ。超科学兵器を大量投入して侵略してきた火星人の大軍にサントとその仲間たちが知略を駆使して立ち向かう。「宇宙戦争」「インデペンデンス・デイ」に匹敵する超大作SFなのだ。
そんなワケないでしょ(笑)
とはいえ、オープニングはそれっぽい。
NASAのものと思しき宇宙開発の実写映像にかぶせて「人類は科学の発展とともに宇宙に進出した。だがそれを快く思わない者たちがいた。人類よりも500年進んだ科学文明を持つ火星人だ」という、いかにもなナレーション。おお、これはいままでのサント映画とは違うかも……
次の瞬間、風呂のプラスティック手桶を二つ重ねたような日常的な物体が、いかにも書き割りっぽい黒色をバックに、まさに糸で吊るしたように飛んでくるのだ!
いかにも作りものです的な安っぽい映像。その直前までの映像がリアルなものだっただけに、落差は凄まじい。
この映画、1967年7月にメキシコで公開されている。1967年だよ。同じころ、すでに日本ではテレビで「ウルトラQ」や「ウルトラマン」が放送されていたし、あの「2001年宇宙の旅」が登場するのはこの翌年の1968年なのだ。
なのにこのレベルの「特撮」 さすがに情けない。もっともこのあとの展開では、人がパッと消えるトリック効果くらいで、特撮はほとんど不使用なんだが。
で、攻めてくる火星人もなんとも頼りない。
ポスターではご覧のとおり、火星人はグリーンの体色だが本編ではもっとフツーだ(モノクロ映画だからね) なぜかメタリックタイツで上半身裸、そして輝くマントを着用……サントとどこが違うんだ! いや覆面をつけていないぶん、サントよりもずっとマトモっぽいぞ。
これが問題の火星人軍団。メキシコが誇るプロレスラー軍団ではないのだが、レスラーと区別つかんぞ。そのうえ女性だけはブラ着用とは、地球を舐めてんのか!
空飛ぶ円盤(UFOと呼ぶにはダサすぎる)で飛来した火星人、テレビ電波を乗っ取って地球人に宣戦布告。まずはなぜかメキシコを標的に、スポーツ大会を開催中のスタジアムを襲撃し、選手や観客を消してしまう。怪光線を当てると、人だけが文字通りホントに消えるのだ。その場にたまたま居合わせたサントは、火星人をプロレス技で撃退して子供たちを守る(が、多数の観客は見殺し) これを皮切りに、火星人たちとサントの死闘が始まる。
じつは、ここまででもけっこう出来のいい部分はある。
火星人はテレビを通じて宣戦するのだが、これを視聴者たちはコメディ番組と思い、まるで信じないで笑い転げる。テレビ局員だけが深刻な顔で見ていたりするのだが、このへんの描写はちょっとおもしろい。宣戦布告を無視された火星人たちが激怒するのもなかなかいい。
スタジアムが襲撃され、サントと彼が指導していた子供たち以外のすべての選手観客が消されてしまうのだが、そのあとの無人のスタジアムを呆然と眺めるサントのショットは秀逸。ちょっとサント映画ではありえないような不気味さが漂っているのだ。
とはいえ、地球よりも500年以上進んでいる科学力を誇るわりには、火星人たちの攻撃は人力がほとんど。殴る、蹴る、投げる、極めるという非常にシンプルな格闘ばかり。そのうえ、サントをなかなか倒せないと知ると、一転して女性火星人が色仕掛けで迫ったりするのだ。
どうですか、火星人にしては魅力的じゃないですか。こんな色っぽいオネーサンが迫っても毅然としていられるのだから、さすがはわれらがサントだ(サントに色仕掛けって、これが初めてじゃないか)
定番の格闘シーンも、けっこう上出来。火星人の怪光線は体の前面(額やベルトライン)から発射されるのだが、さすがはサント、それを見切ったのか、今回は相手のバックを取っての締め技が主体の攻撃を見せる。これなら敵の攻撃を浴びないからね。火星人もレスリング技術を知っているのか、バックの取り合いが続く格闘は、なかなかスリリングだ。
ただ残念ながら、今回はサントの試合シーンは無し。いちおう火星人とリング上で闘うシーンはあるが、あれは試合ではないね。しかし、無人のアレナメヒコで歓声もないなか、リングに叩きつける音だけが響くこの格闘シーンも、この映画の見どころのひとつではある。
という具合で、さすがはSF路線に舵を切っただけのことはあって? いままでのサント映画とはひと味、いや0.1味くらいは違ったものになっていたようだ。監督のアルフレド・B・クレベンナ(Alfredo B. Crevenna)は今回が初登板だが、まずまずの出来栄え。このあと再登板作品がいくつかあるから、期待しちゃおう。
あ、もちろん、いままでのサント映画とくらべればまだマシなだけですからね。
今回のDVDは、どうやらメキシコ製ながら、英語字幕も入った海外向けらしき製品(リージョンコードなし) 画質もいままでのものに較べると、かなり良かったほうだった。
次回作へ期待が高まるところだが、じつは次の作品はサント映画史上に重要な作品になる予定。そのうち見るから、期待しないで待っててね。
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