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未発売映画劇場「サント対贋札偽造団」

サント映画も第16作、第1作から10年余を経て、ここに画期的な作品が登場する。まさにサント映画史上のエポックともいうべき作品。

Operación 67」 これはまたかっこいいタイトル。はっきりいって今までのタイトルに較べると段違いだ。ちなみに、なぜ「67」かというと、この映画が1967年の作品だからだ(それだけかよ) サント映画にこだわらない邦題をつけるなら「秘密指令67」とかだろうか。

で、ワクワクしながらDVDをスタートすると、なんと!

カラーじゃないですか!

そう、この作品は、サント映画史上初のカラー作品なのだ。

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そうか、サントの覆面やコスチュームってこういう色だったんだね(いや知ってたけど) たぶん、テレビのカラー放送も普及していなかったに違いない、当時のメキシコの映画ファンたちは驚愕したことだろう(たぶん)

そして、そのインパクトはカラー総天然色だけではなかったのだ。

国際的な犯罪組織がドル紙幣の原版を入手。偽造したドルで世界経済を混乱に陥れようとする。これを知ったインターポールは、腕利きのエージェントコンビであるサントホルヘを調査に派遣。組織側は二人を抹殺すべく次々と殺し屋を放ち、ついには女ボスが自ら二人に接近するが……

ビックリである。ジャンル的にも、これまでの犯罪サスペンスや怪奇ホラーではなく、007ばりのスパイ映画なのだ。

製作された1967年といえば、世界的に007シリーズのヒットの影響を受けたB級スパイ映画の全盛時代。アメリカはもちろん、ヨーロッパ各国でも続々と秘密兵器を抱えたスーパーエージェントが誕生し、わが日本でも「百発百中」シリーズなどが登場した。

メキシコ映画もその例外ではなかったということだ。

スーパーエージェントに就任した、われらがサント。いままではせいぜいが私立探偵か警察顧問ていどだったのだから、当然その心構えも違ったのだろう。

従来の、マントがひるがえるリングコスチューム姿ではなく、きちんとネクタイも締めたスーツ姿なのだ。権威あるスーパーエージェントともなれば、社会人として当然なのだろう。マスクはそのままなので、かえって異様な風体ではあるが。

そんなサント、あいかわらずプロレス技を中心にした格闘アクションもあるものの、さすがにそれではスパイ・アクションにならないので、ちゃんと秘密兵器を使いこなす。ボンドカーばりの兵器搭載車で敵の車を破壊したりするのだから、サントらしくないといえばサントらしくない

いっぽうで、こればかりはサントには荷が重かったと見えるのが、やはりB級スパイ・アクションには欠かせない美女のお色気で、こっちのお相手はもっぱら相棒のホルヘの担当するところになる。

ホルヘ・リベラは正統派の二枚目アクション・スターでラテン系の色男。タキシード姿になると、ショーン・コネリーのジェイムズ・ボンドもかくやと思うほどピタッとハマる。組織側の女殺し屋や女ボスを篭絡するのなんかお手のものだ。だから、そういうシーンは全部ホルヘ担当。

コンビものなので、なんとなく雰囲気は「0011ナポレオン・ソロ」に似ているのだが、その伝でいえばモテモテのソロ役がホルヘで、相棒のイリヤ・クリヤキン役がサントの役回りか。

このホルヘ・リベラ(役名も同じなのだ)は当時売り出し中の若手俳優だったようだが、日本にはほとんど未紹介。この数年後にジョン・ウェイン主演のウェスタン「リオ・ロボ」でウェインの相棒役をつとめたことは前に書いたっけね。

秘密兵器をつかったりする普通のアクションでは、プロの俳優ゆえ、サントよりも一枚上手な感じだが、でもこれはサント映画だった。おかげでプロレスの試合シーンもあり(そもそもエージェント兼業のレスラー役なのだ)こっちでは当たり前だがサントに大きく譲る(リング上では代役も立てていたようだ)

とはいえ、彼の存在がいままでのサント映画にはないアクセントになっていることは間違いない。この映画の出来の良さ(サント映画としては、だが)のかなりの部分は、このホルヘ兄さんによるものと断じていいだろう。

もうひとつついでにいっておけば、組織の女ボスを演じるのがエリザベス・キャンベル。アメリカ生まれだがメキシコ映画で活躍し、これも前に見た女子レスラー」シリーズでは主役の美人レスラーのルビーを演じていた。なかなかの美女なんですよ。

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そしてこれはけっこう重要だと思うが、この映画、けっこう大人向けに作られているのだ。

これまでのサント映画は、基本的にお子さまもオッケイのファミリー映画。だから残酷な暴力シーンやお色気シーンはほとんど無し。まあ健全とは言い切れないものの、そうした一線は守られていた。

ところが本作では、そのあたりが変えられている。あきらかに大人の男性向けに進路を変更しているのだ。

映画冒頭でナイトクラブのシーンがあるのだが、これまでのサント映画では歌謡ショーなどで終わりだったのに、今回はがっつりとストリップ。それも乳首が露出するサービスぶりで、このへんは他国の同趣向の映画を凌駕している。

そもそもB級スパイ・アクションが成人男性ファン向けだという事情もあろう。だが、ファミリー映画としてのサント映画の役割が一つの限界に達してきたことや、(たぶん)メキシコでもそろそろテレビが普及しはじめ、子供らが映画館に足を運ばなくてもよくなったみたいな事情があるのかもしれない。

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さてそんなケッサク(?)なのだが、この手のB級スパイ映画の常としてシリーズ化されているらしい。そもそも映画のクレジットやポスターなどを見ると、サントとホルヘのコンビは「AGENTES SECRETOS」と名づけられている。つまり、最初からそのつもりだったのだ。

ということで、今回この作品を収録していたのが、メキシコ製のこのDVD。

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サントとホルヘの主演映画をそれぞれ2本ずつ、合計4本も収録したお買い得版。ここに、本作の続編も収録されているのだ(まあ、次作を見るのはちょっと後になります)

ということで高まる期待を抱きつつ、次回を待て(いつになるかわかりませんが)

【前回】サント対侵略火星人      【次回】サント対カルト集団

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