未発売映画劇場「サント対カルト集団」
サント映画の軌跡をたどる大河シリーズ(笑)サント映画完全チェックも第17作。1968年1月にメキシコで公開された「Santo, el Enmascarado de Plata contra los villanos del ring」 「銀覆面のサント対……」というところはいつもどおりだが、その後の部分が「リングの悪役」
いやま、そりゃ別にいいんですが、でもリングで悪役レスラーと闘うんじゃ、サントのふだんのお仕事じゃないですか?
せっかく、ゾンビ、吸血鬼、火星人などなどと積み重ね、前作では大人向けスパイ映画にまで昇りつめたのに(いや昇ったかどうかはともかくとして)ここで悪役が単なるレスラーになるんでは逆行ではないか!
などと激高することはないか。なにしろ50年以上前の映画だからね。
実際に見てみると、悪役レスラーは冒頭に登場する悪の手先のレスラー(演じるのはほんとに悪役レスラーだったエル・ナチらしい)くらい。はっきりいって、タイトルに偽りありである。
今回サントが対峙するのは、交霊術師をボスとする集団。こいつらが富豪の未亡人をだまして遺産を奪おうとするのを、サントたちが阻止するというお話。なんか数作以上前のサント映画に逆戻りした感がある。やっぱり逆行じゃないか。
これで面白く出来ているんならべつにいいんだが、肝心の映画の出来栄えは……
正直いって、これまで見てきたサント映画のなかでは、最低の出来である。私もずいぶん不出来映画には耐性ができたと思っていたのだが、それでも見ていてテンションが下がりまくった。この私がそういうのだから相当なものだ。
これ、一にも二にも、監督の腕前の悪さによるものだろう。
なにが不出来なのかというと、サント映画最大の見せ場であるはずの格闘シーン。ここがモタつくのだ。ほとんどの格闘シーンがこんな感じ。
相手は、交霊術師に洗脳された(んだろうと思うよ)大勢の男たち。まぁその設定自体は、いまの時代でも厳然と存在して問題になるカルト宗教みたいで、ひょっとしたら社会の動きを鋭く先取りした……いやいや。
ということで、アクションシーンでは、どうしても相手は多人数になる。そうなるといくらサントとはいえ、プロレス技でバッタバッタとなぎ倒す、というわけにはいかない。
作り手たちもそう思ったのか、サントに味方をつけることにしたようだ。
はい、筋骨隆々の覆面レスラーふたりがサントをアシストする。たぶん当時売り出し中の若手レスラーなんだろう。
それ自体はアイデアとしては悪くない。もうちょっと後の時期になると、前に見たマスカラス映画のように、レスラーたちが特撮戦隊ものよろしくチームを組んで悪の組織と対決したりするんだから、このアイデアも時代を先取りした……いやいや。
アイデアはよくても、それを活かせていないのでは台無しになる。
結果的に多人数対多人数の乱闘ばかりになり、それが長々と続くのだから、格闘シーンとしてはまったく盛り上がらないのだ。おまけに(ここがこの監督のダメな点)敵の人数がハッキリ提示されないまま乱闘に突入するので、はたして今サントたちは勝っているのか劣勢なのか、まったくモヤッとしたままに終始するのだ。これでは台無し。
おそらく、監督がこうした格闘シーンの魅力をきちんと押さえていなかったんだろう。
サント映画から格闘シーンの面白さを除いたら、いったい何が残るというんだ。
と、酷評したのだが、この監督さんであるアルフレド・B・クレベンナ(Alfredo B. Crevenna)は、あの「サント対侵略火星人」を監督した人。うーん、今回は体調が悪かったかなんかしたんだろうな。このあともサント映画を3本手がけている。
今回見たのは、この映画ともう一本がカップリングされたお買い得DVD。ちゃんと英語字幕がついていてリージョンコードも有効な正規品。そしてカップリングの相棒は、嬉しいことに「サント対贋札偽造団」でサントの相棒をつとめたホルヘ・リベラの主演作。これは楽しみだぜ。
ということで不平を述べつつも、次なるサント映画でまたお会いしましょう。
未発売映画劇場 目次
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?