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未発売映画劇場「サント対墓場博士」

サント映画、続いては「Profanadores de tumbas」 「墓場荒らし」といったところかな。1966年4月にメキシコで公開されている。第12弾だ。

このタイトルのほかに「Traficantes de muerte(死の商人)」というタイトルもあるらしい。今回拝見したバージョンのメインタイトルでは、この両方が併記されていた。

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英語タイトルでは「The Grave Robbers」 なお、これらの最初に「Santo contra」を追加したタイトルでも知られている。

前回触れたように、このへんの作品は、DVDなどのソフトが希少品

今回も入手できなかったので、ネットにあがっていたものを鑑賞したのだが、これが画質の悪いシロモノ。どうやらテレビ放送を録画・編集したものらしく、本編中にはさまるCMをカットしてあるのだが、それが中途半端。本編はモノクロなのに、一瞬うつるCMはカラーなので、いかにも邪魔だ。まあしょうがないが。

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じつは、正直言ってストーリーはよくわからない。3回も見たのに。これは、画質が悪いせいもあるのだが、それ以上に、映画の作りに起因する。

設定や説明の大半を、画ではなく、登場人物のセリフで説明するからだ。

これは映画作りの手法としては、ダメの見本のようなもの。映画はやはり「画」で見せなければいけませんな。

もちろん、そのセリフがスペイン語なので、よくわからないせいもあるし、そもそもストーリー自体が破たんしている(サント映画ではよくあること)のもあって。この映画の悪役である墓場博士が、何を企んで、何を狙っているのか、けっきょくよくわからなかった。

映画冒頭では、タイトルにあるように墓場博士が子分とともに墓あばきに励んでいる。棺を掘りあげて壊し、中に眠る男女の死体を運び出すと、車でアジトへ。

屈強な黒服のコンビと、奇怪な風貌のセムシ男を率いるこのヒゲ男、子分からは「マエストロ(ご主人様)」などと呼ばれているが、科学者だか医者のようだ。演じるのはひげ面の巨漢、マリオ・オレア。これ以前にはサントの好敵手でパートナーでもあるブルー・デモンの映画などに出ている(下図上部を参照。こいつです)

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盗んできた死体になにやら電流のようなものを通す実験を開始。まるでフランケンシュタイン博士のようだが、あえなく失敗。怒った博士は子分に当たり散らしたあげく、なぜだかサントを狙うことにするのである。なぜかって? 訊かないでよ

このあと、なにやら悪趣味な絵柄の卓上スタンドから発する怪音やら、謎の毒薬やら、人間が触れると狂死する(らしい)液体やらと、意味不明のアイテムを次々と投入する博士と、サントと相棒になるサッカー選手(ホルヘ・ペラル)、それにその恋人の歌姫(ジーナ・ロマンド)のトリオが丁々発止の対決をくりひろげる(みたいだ)

監督ホセ・ディアス・モラレスの演出は、ちょっと難アリだ。くどいんだよね。

たとえば冒頭の墓泥棒。この工程を、じつにつぶさに、そこまで細かくうつさんでもというくらい描写する。車に乗るドアの開け閉め、アジトの戻ると扉を開け、車を入れると、ていねいにまた扉を閉め、施錠する。それらをいちいちカット割りしてゆく。いらんだろ、それ?

万事がその調子で、サントが自宅から、おなじみのオープンカーで颯爽と出発する際も、自らの手で門を開錠して開け、車を出すと、いったん停車して車を降りて門を閉じると施錠してから、ようやく出発。スーパーヒーローの出発シーンとしては、無類にカッコ悪いぞ

ただし悪いところばかりではない。編中に挿入されるプロレス試合のシーンでのカメラワークはうまい。これまでのサント映画にはなかった、巧みにツボを押さえた撮影ぶりだ。

フィルモグラフィを見ると、このモラレス監督、1940年代からのベテランで、サント映画は1965年の「サント対魔の斧」に次ぐ登板。ほかにも多くのルチャ映画で腕を振るっている。そっちの専門家なのかもしれない。

ということで、なにやらモヤモヤしたまんま見終わったのだが、妙に印象に残ったのが数カ所。

ひとつは、サントの自宅のシーン。なんと、サントは自宅でくつろいでいるときも、マスクにタイツ、マント姿なのだ。この分だと、シャワーを浴びるときもこのままなのか。もはやコスチュームが体の一部になっているのだろう。それはそれでスゴイが。

そのサントが、この映画で初めて披露するのが、変装だ。ほかの名探偵やヒーローならばフツーのことだろうが、サントのそれは非常にめずらしい。なにしろ、顔面マスクによる変装を、多羅尾伴内ばりにバッと脱ぎ捨てると、その下から現われるのは、やっぱりマスク姿のサントなのだ。いやそれ、ふだんの白覆面を脱いでおけば済むことじゃないのか?

まあそれもやはり、このコスチュームが、サントがサントたる所以なのだから仕方ないのか。クライマックスは敵アジトがある鋳物工場での乱闘になるのだが、稼働中の機械にマントが巻きこまれるんじゃないかとヒヤヒヤしたぞ。実際、敵の一人は機械に巻きこまれて死ぬんだからな。

もうひとつ、サントのプロレスラーとしての才能を垣間見せるのが、卓上スタンドとの死闘。死の怪音を発するスタンドの電源プラグを抜こうとするサントだが、すでに身体の自由を失いかけており、なかなかうまくいかない。スタンドに組みつき、絡みつく電源コードと格闘するサントの奮闘ぶりは見事なものだ(冗談ではないよ)

ホウキ相手でも試合ができるのが一流のレスラー」というプロレス界の格言があるが、卓上スタンド相手の闘いを見せたサント、さすがは超一流のレスラーである(本気だってば)

ということで、結局のところは、あちこちツッコむことで、けっこう楽しんでしまった。これぞサント映画の醍醐味といったところなんだろうか。

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