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未発売映画劇場「サント対魔の斧」

サント映画完全チェック、第9弾は「El hacha diabólica」 原題から映画の主役たる「SANTO」の文字が消えているのだが、安心してほしい、当時のポスターではサントの名前のほうがタイトルより大きいものもある。

ここまでの諸作は、多少のバリエーションはあっても、基本的にワンパターン。事件が起きる→警察困る→サント呼ばれる→大活躍→事件解決してサント去る。このルーチンが、ほぼ守られている。

ところが今回のこの「魔の斧」はそうではないのだ。これだけでもかなり意外だ。

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冒頭、いきなり古い修道院だか教会だかの地下、たいまつを掲げた黒頭巾の集団がしずしずと遺体を運んでくる。なんと遺体は白覆面にタイツとマント姿のサントその人ではないか! 集団はサントを用意されていた棺に納めてしまう。その棺の蓋には年号が……1603年!!

そう、あとでわかるのだが、これはサントの祖先の死と弔いなのだ。そうか、あのスタイルは先祖伝来のものだったのか。だが17世紀にはまだメキシコ式プロレスのルチャリブレはおろか、プロレスそのものもいまだ存在していなかったはずだが……

そんな疑問もさめやらぬなか、弔いを終えて地下墓地に安置された棺の前に、突如として大きな斧を携えた黒覆面の男が……と思った瞬間、その姿は掻き消すように消えた。

そして場面はさっさと20世紀に。何事もなかったかのように試合に臨む、われらがサント。白熱の三本勝負の三本目、とつぜんリングに黒覆面の斧男が出現。いやほんとにパッと現われるのだ。驚く相手レスラーやレフェリーをリング外に投げ捨てて、斧でサントを襲う。さすがはサント、プロレス技で斧男とわたりあう。この斧男、ちゃんとプロレステクニックを使いこなすのだ(演じているのはサントの盟友で今まで何度も共演している俳優兼プロレスラーのフェルナンド・オセス) 苦戦するサント。そこへ遅ればせに駆けつけた警備の警官が拳銃を発射するが、斧男はびくともせず、いきなり斧もろともぱっと消えてしまう。

この冒頭だけでも、いままでのサント映画とはかなりの違いが感じられる。そしてこのあと、斧男は出現してはサントとその周囲の人々に襲いかかるのだ。

おわかりだろうか、いままでのサント映画との違いはこの部分なのだ。

これまでは、映画の中心になる事件は、サントその人とは直接の関係はなく、あくまで町で起こった怪事件。サントは、探偵小説の名探偵よろしく、その事件の解決を依頼されるだけなのだ。つまりサント自身はいつも事件の「外」にいる。

ところがこの「魔の斧」では、サントは事件そのものの中心にいる。やがて明らかになるのだが、黒覆面の斧男は、17世紀のサントの祖先との因縁を持った亡霊で、祖先サントの子孫にたたりを成そうとする存在なのだ。

つまり、今回のサントは事件の被害者で当事者であり、誰かに依頼されたからではなく、自らの身に降りかかる火の粉を払うために奮戦するのだ。この違いはけっこう大きい。

じつはこの「魔の斧」、メキシコ公開は1965年8月。前作の「サント対蝋人形館」が1963年6月の公開だから、2年以上の間隔が開いている。1964年にはサント映画がなかったのだ。

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そして製作会社も、前作までの「Filmadora Panamericana」や「Películas Rodríguez」から、新たな会社「Cinecomisiones」に変わっている。監督のJosé Díaz Moralesも今回が初登板。

要するに、これまでとは陣容を一新し、マンネリ打破へ向かった一作、サント映画の新局面なんだろう。

とはいえ、じゃあ今までのサント映画とはまったく違うものかというと、そんなこともない。相変わらずのトンデモぶり。

たとえば事件解決のカギとなる、17世紀の祖先たちの因縁をどうやって知るかというと、いとも無造作にサントの知り合いの科学者が用意するタイムマシンで、過去の事件を目撃するのだ。1965年のメキシコには、フツーにタイムマシンがあったらしいぞ。

そして、斧男だけでなく、因縁の元凶となる美女(「サント対女吸血鬼軍団」などでおなじみの美女ロリ―ナ・ベラスケス)もさらりと幽霊として現代に出没する。これまた誰もさほど疑いもせずにあっさりと受け入れるのだから、1965年のメキシコでは、フツーに幽霊もよく出たんだろう。

ま、いろいろツッコミどころがあるのは相変わらずだし、その点ではやっぱりサント映画なので、安心して(?)見られるってもんだ。

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今回のDVDはちゃんとリージョンコードが付されていた(1番と4番) メキシコ製のきちんとした正規版だよ。画質も、まあ良好といえよう。比較的クオリティの高いソフトだっただけに、せめて英語字幕くらいはつけてほしかったが、まあないものねだりはやめておこう。

さあ、次回はいよいよ10作目なんだが、じつはここでちょっと困っている。

次回作は「Santo contra el estrangulador(サント対絞殺魔)」なのだが、これのDVDが入手困難なのだ。これは困った。首尾よく完全チェックを続けることができるのか、案じつつ待て!(笑)

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