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未発売映画劇場「サント対蝋人形館」

お待たせしました。誰も待っていないサント映画完全チェックの第8弾。ようやくDVDが到着したのでさっそく拝見しましたよ。

Santo en el museo de cera」 サントと蝋人形博物館ってところかな。1963年6月のメキシコ公開だから、前回の「サント対悪の帝王」からは、わずかに1カ月後。ずいぶんハヤワザじゃないか。

タネを明かせば、じつは前回と今回では映画そのものの製作会社が違うのだ。前回までの犯罪サスペンス風3作品(「犯罪王」「死のホテル」「悪の帝王」)はPelículas Rodríguez、その前の2作品(「ゾンビ軍団」「女吸血鬼軍団」)と本作はFilmadora Panamericanaという会社の作品なのだ。

なので、前作までの犯罪サスペンス風サント映画とテイストが違うのも当然だろう。今回はスーパーナチュラル路線なのだ。

そう、サント映画といってひとくくりにしてきたが、実際には複数の映画会社がぞれぞれにサント映画を作っていたのだ。いってみれば、寅さん映画を松竹と東映と東宝がそれぞれ独自に作るようなもんなんだね。日本では考えにくいことだけど。

だから、犯罪サスペンスと怪奇ホラーみたいなテイストの違いがあるわけだ。細かい設定が違っているのも当たり前。共通点は、必ずサントが出ていてプロレスの試合が挿入されるってくらいなのか。

これは、当時のサント人気の凄さの証拠でもあるわけだ。こんなシリーズもの、あんまり他にないだろう?

で、肝心のお話だが……

謎の誘拐事件が続発する。道行く人が突然拉致され行方不明になるのだ。そんなおり、蝋人形博物館を取材した女性記者が、やはり行方不明になる。彼女が拉致された現場にあったカメラに残されたフィルムから、事件の背後にその蝋人形博物館があるとにらむサントたち。はたせるかな、その蝋人形館には、恐ろしい秘密があったのだ。

怪奇ものの定番のひとつ、蝋人形もの。はい、名作「肉の蝋人形」などを思い出したりしましょうね。むかしの少女マンガにもよくあったよな、このネタ(楳図カズオとかね)

ただ、再三書いてきたように、基本的にはサント映画はお子さまオッケイのファミリー映画。なので「美女をとらえて生きたままワックス漬け」「バラバラ死体を蝋人形に見せかけて展示」みたいな刺激のある描写はなし。美女をさらってはくるけれど、何のためだか知らんが、最後まで捕まえておいただけだった。

舞台となる蝋人形博物館は、「ドクター・カロルの蝋人形博物館」と命名されており、いきなりスターリン、ガンジー、ゲイリー・クーパー(「真昼の決闘」のスタイル)の蝋人形が登場する。モノクロ画面で見るかぎりではよく出来ているので、本物の蝋人形なんだろう。

そして同館の地下にはお約束の怪奇コーナーがあり、なぜか「ジキルとハイド」のハイド氏をはじめとするモンスターたちの蝋人形がズラリ。

どうもこっちは映画用に作られたようで、アップシーンでは顔や手足がぴくぴく動いちゃってるのが見てとれる。役者が演じて(?)いるんだね。

ああ、このへんがメキシコ映画の荒削りなところか、などと思ったら、じつは……まあそんなにビックリするようなモノではないが、ちゃんとネタ明かしの伏線になってるんだね。お見それしました(いや偶然かもしれんが)

ちなみに登場するモンスター人形だが、ポスターに描かれているような、米国ユニバーサル映画スタイルではありません。いや、言われなきゃナニモノなんだかもわからなかった(笑)

悪役のドクター・カルロを演じるのは、クラウディオ・ブルック。長いキャリアを持ち、のちには「007/消されたライセンス」(1989年)などにも出ている。やせ形で知性的という、これまでのサント映画の悪役とはひと味違って面白かった。

そのドクターの子分で、怪力無双で容貌魁偉の大男コンビに扮するのは、フェルナンド・オセスナサニエル・レオンだ。いままでのサント映画にも何度も顔を出している二人で、たぶんこれからもこのシリーズで見かけることになるんだろうな。今後ともよろしく(笑)

監督は「サント対女吸血鬼軍団」のアルフォンソ・コロナ・ブレイクが再登板し、マヌエル・サン・フェルナンドと共同監督。

さてさて肝心のサントだが、「女吸血鬼軍団」のときとほぼ同じ設定で、室内アンテナくるくるの大型壁掛けテレビ電話で登場。しかしこのテレビ電話どこまで高性能なんだか、呼び出しの際にサントが試合中だと、きちんと試合中継に早変わりする。マルチ機能搭載だな。

その試合、サントの対戦相手はカベナリオ・ガリンド。本物のスペル・エストレージャで、リアルでもサントのライバルの一人だったそうだ。ラフファイターで、その後世界各地で数多く登場する「原始人キャラ」の走りだという。そう、日本のヨネ原人やツボ原人、アメリカのミッシングリングなどの御先祖さまのような偉大なレスラーなのだ。1990年代まで現役で活躍し、1999年に亡くなっている。

もう1試合マッチメイクされていて、こちらはマスクマン対決でエル・ティグレ・デル・リング。リングの虎ってところだろうか。

じつは1960年に「Los tigres del ring」というほぼ同名のメキシコ映画があるらしい。そこから持ってきたキャラクターなのかな。

こちらはタイガーマスクの元祖かな。でもマスクはフツーのマスクに虎縞模様がついているだけでショボイし、試合でもいいところなく敗退している。

ちなみに、こちらが本作のアメリカ版DVDジャケット。

やっぱり、サントの名前はサムソンに変えられてるんだね。デザインは怪奇色満点だけど、映画のなかの蝋人形館はもっとフツーの建物だった。

こちらが今回見たDVD。これもアメリカ製で「El mundo de los muertos」との2本立て。

「El mundo de los muertos」のほうを見るのは、まだだいぶ先の予定。

では次回、「サント対悪魔の斧」(仮題)で、またお会いしましょう。

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