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未発売映画劇場「サント対悪の帝王」

サント映画第7弾「Santo contra el cerebro diabólico」(英題 Santo and the Diabolical Brain) 直訳すると「サント対悪魔の頭脳」 うーんタイトルが第1弾の「サント対悪の頭脳(英題 Santo vs. the Evil Brain)」と似すぎていないか(なので今回の邦題はオレ製) まあ同じような悪のボスが相手だからいいのか。1963年5月にメキシコで公開。もちろん日本では未公開、未放送、未発売。

前2作「サント対犯罪王」「サント対死のホテル」に続き、主演はメキシコ警察のフェルナンド刑事、相棒のコンラド、そして恋人の新聞記者バージニアのトリオがつとめ、サントの出番は要所だけという犯罪サスペンス

冒頭は、夜のカーチェイスから。おなじみ刑事コンビが、怪人フー・マンチューみたいな悪のボスらしき男を追いかける。先行するギャングの車から銃撃が浴びせられるカットはちょっとカッコいいぞ。暗闇にテールランプだけが浮かび、その横から拳銃のマズルフラッシュが文字通りにフラッシュするのだ。

で、このフー・マンチュー男が「悪魔の頭脳」で「悪の帝王」なのかと思ったら、彼は逮捕されてジ・エンド、その後は出てこない。お手柄のフェルナンド刑事はバージニアにニュースを知らせようと電話すると、なんと彼女は国境地帯の町を支配する危険な悪党を取材するために潜入取材しているという。あまりにも危険なことを察したフェルナンドは相棒コンラドを伴って無法の町へ向かう。ちゃんと上司の許可を得ていくあたりは偉いぞ。

なにしろ車ではたどりつけないために馬で乗りこむようなならず者タウン。雰囲気はもう完全にマカロニウェスタンだ。実際、酒場での大乱闘、やたらとスゴむゴロツキ集団、捕らえられた主人公に加えられる残酷な拷問、ヒロインに暴力で迫るボスと、マカロニ色満載だ。ついでに、サントの凛々しき乗馬姿もおがめるぞ。

ただ考えてみたら、この映画は1963年の作品。マカロニウェスタンが世界中で大ヒットするよりも前なんだな。じゃあこの雰囲気は、メキシコ固有の産物なのか。してみるとマカロニウェスタンに影響を与えたのはこっちなのかも知れないな。

で、そんなウェスタン色あふれるなかで、サント先生違和感ハンパない。けど、そんなのいつものことか。

例によってフェルナンドの持つ腕時計型通信機で緊急信号をキャッチしたサント選手だが、すぐに駆けつけるかと思いきや、まずは1試合をこなしてから出発。これもお約束。

これまでの作品では試合相手は本職のレスラーだったが、今回はスキンヘッドの凶悪レスラーをナサナエル・レオンという俳優が演じている。ああ「サント対女吸血鬼軍団」で吸血鬼女王の子分のひとりを演じていたあいつだ。メキシコでは「フランケンシュタイン」の異名を持つ容貌魁偉の名わき役で、この手の映画に多く出ているそうだ。これからもサント映画ではちょくちょくお目にかかりそう。

お目にかかるといえば、無法の町を支配するヒゲでギョロ目の悪のボス(こいつが「悪魔の頭脳」なのだろう) どっかで見たような顔だと思ったら、「アステカ・ミイラ」の3部作で悪の科学者を演じていたルイス・アセヴェス・カスタニェーダだった。小型オーソン・ウェルズか、あるいは名傍役ジャック・イーラムのメキシコ版といったところか(やぶにらみなところがソックリ)

出番が少ないと書いたが、サントの獅子奮迅ぶりは凄いぞ。なにしろラストでは飛び立とうとする飛行機を、体ひとつで食い止めてしまうのだ。いやいやそりゃあちょっと無理だろうって? じゃあ、このポスターを見よ!

ポスターの下のほうでバージニア嬢に迫っているヒゲ男が、カスタニェーダ演じる悪のボスだね。

このボスの命令で、フェルナンド刑事たちが受ける拷問はちょっと面白い。鉢巻みたいに頭に紐を巻き、その後ろに棒を突っ込んでギリギリと締め上げるのだ。これは苦しそう。孫悟空の苦労がわかるぞ(笑)

この拷問シーンのしつこさといい、バージニアをボスが襲うシーンといい、テキーラを飲みながらこぼす酒場の女の一人語りといい、どうも今回の作品はいままでにない大人テイストが強めである。お子さま向けじゃないよな、これ。ちょっと刺激を強めた新路線に舵を切ったということか。

クライマックスの荒野の大乱闘も、高い崖っぷちで戦うのだが、サント先生、リフトアップした敵を片っ端から容赦なく崖下に投げ捨てるのだ。敵のザコども、悲鳴を上げながら崖下へ。おいおい、いくら相手が悪党だからって、そりゃあちょっと非道くないか。

しかし、この悪党どももどうかと思うのは、全員が銃器で武装してるのに、いざ乱闘になると、みんな銃を捨て、正々堂々と素手でサントと戦うのだ。きみたち、何で撃たない?(笑)

そんな本作だが、これまでのサント作品にない要素を取り込んだ意欲作とは言えよう。サント映画が長く続いた秘訣は、こうしたさまざまな路線を躊躇なく取り込んだ貪欲さにあるのかもしれない。

でも残念ながら、フェルナンド刑事と仲間たちを中心にしたサント映画はこれでおしまいらしい。お名残り惜しいぞ

今回のDVD、ディスクを見ればリージョンコードは1番と4番。なのになぜか2番のはずのわが家のプレーヤーで平気で再生できた。ほんとはコードがかかっていないんじゃないのか。そのへんもメキシコっぽいのかな。

さて、次はどんな映画になるんだろうか。次回、「サント対蝋人形館」を首を長くして待て!(まだ届いてきていないのだ)

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